第1話 ~初エンカウントはスライムでした~
草陰から飛び出してきたものは、黒っぽくて常に流動しており、不定形な生き物だった。
「スライム⁉」
咄嗟にそう叫んだのは、それなりに今までの人生でゲームをやりこんだし、暇な時間にはクラスメイトとラノベを読んでいて、ある程度の予備知識があったからである。
その物体は、俺の足元まで這って近づいてくると、その動きを停止させた。
目などついていないので詳しくはわからないが、なんだか観察されているような気がする。
「こんにちは。俺、沖田英雄といいます。よろしく」
とりあえず、挨拶してみた。しかし、特に変化が見られなかった。
「この世界のスライムは喋れないんだな」
そう思って、常に流動しているその物体を見つめる。
瞬間、とてつもない好奇心が身体を支配した。
そう、人生で一度はスライムに触ってみたかったのだ。
「失礼しまーす」
そう言って、黒いスライムに手を伸ばす。指先が、そのぷよっとした表面に触れた、その瞬間だった。
「ドン」という鈍い音が聞こえ、気が付けば俺は、宙に浮いていた。
訳も分からず背中から地面に叩きつけられる。背中が軋むように傷んだ。後から腹部に激痛を感じ、腹から突き上げられたのだと悟る。
「いってえええぇぇ!」
そう叫んでいると、スライムは急にそのサイズを大きく変えて、こちらに迫ってきた。
「まずい」そう思って何か武器になるものを探したが、持っていた竹刀袋は最初の攻撃で、スライムの後ろに落ちてしまっている。
どうにかしてそれを回収しようと、スライムの横をすり抜けるため走り出した。
迫り来るスライムをギリギリでかわして、竹刀袋に手を伸ばす。
突如、左足に鋭い痛みが走って盛大に転んだ。
見ると、スライムから触手が伸びていて、それを鋭くとがらせ、俺の太ももを貫通させていた。
「゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああぁぁ」
声にならない声で叫んだ。
痛い。痛い。痛い!
手で抑えた傷口から、とめどなく血があふれる。あまりの痛さに気が遠くなっていく。
同時に気が付いた。これは死後の世界ではなく、現実に起こっていることなのだと。
スライムがまた、姿を大きく変えて自分に襲い掛かる。
俺はこのまま死ぬんだな。また何もすることができなかった。
そうあきらめた瞬間だった。
「そこまでよ!」
そう言って現れたのは、今までに見たことのないような絶世の美女だった。