三度の美少女たちとお知り合いに
張り切って本日3度目の更新になります!
亀進行で、少しずつストーリーが動いていきます。それだけ、作り込んでるってことで勘弁して下さい……笑
宜しくお願い致します!
「よろしければ私も、中に入れていただけないでしょうか?」
そう声を掛けてきたのは、世情に疎い透徹でもその顔を知っている程に有名な人物。と言うよりも、お互いに顔と名前を知っている間柄であったりもする。
一族特有の、瑠璃色の髪はまるで宝石のようで、良く手入れされた細い髪の一本ずつが芸術品と言っても過言ではない。前髪は方までの短い縦巻きで、腰まで届く長い後ろ髪はその穂先をウェーブさせている。更に、サイドをシニヨンにし、垂らした先はロールさせている、正にお嬢様然とした髪型。まんまるの橙色の瞳は、真昼に照りつける太陽で、その奥には強い意志が宿るような眼光がある。控えめな胸ではあるが、スタイルが良く、女性としては身長の高い聖那と比べて少し低い程度。何より、その気品溢れるオーラが、そこらの者とは格別している。
「貴方は……」
「貴方だなんて余所余所しい言い方はよして下さい。私はただの祥奏院学園の新一年生、祥奏院叶です」
やんわりと窘めながら、軽い自己紹介を行う女子生徒。この学園内、というより能力者の中でもその顔と名前を知る者はいないであろう大物。この祥奏院学園の名前を冠する姓である叶。そう、入学式では姿を現さなかったが彼女の父親は同学園の理事長である祥奏院望。鏡一族と並び、日本の能力者社会を支える御三家の一つとして数えられる名家中の名家である。
「皆さんも気を楽にしてください。別にどうこうしようという魂胆で近づいたのではありません」
この学園の理事長の一人娘が、今年同学年となることは教室内にいる生徒の誰もが知っていた。登校するまではそれは頭の中に入っていたのだが、入学式を経て少し頭がこんがらがっていた彼ら。声の主を見て、何か粗相をしてしまえば退学は免れないという思い込みから、周りの生徒が腫れ物に触る雰囲気を放つ。
「祥奏院さんがこの席に座られるのですか?」
聖那が恐る恐る叶に質問をする。
「はい、皆さんが私の座る席に近いということで挨拶をしに参りました。……それと、お久しぶりですね、透徹様」
「……ああ。元気そうで何よりだな、叶」
丁度十年ぶりに顔を合わせる透徹と叶。鏡一族と祥奏院一族は御三家の二柱。止ん事無い身分である二人がそれぞれのことを知っているのは不思議ではない。
ここで唐突だが、何故透徹が鏡の姓を名乗った時に、叶の時のようなリアクションを取らなかったのかという疑問が残る。勿論、先述のように鏡一族は御三家の一つ。知らないものはいない名家であり、一時代を築いたこともある今なお凄まじい権力を持っている。
叶が名乗った時には顔と名前が国民に知れ渡っているために、詩音たちもすぐに反応が出来た。しかし、透徹に関してはその名前を聞いたことがない。本家筋の人間ならば名前を口にしただけでも、記憶の中の有名人と照らし合わせることですぐに正解に辿り着くものだが、鏡姓で透徹という名前は全く聞き覚えが無い。
鏡一族だけでなく、御三家には本家の親戚である分家というものがある。この分家の脈というものが非常に広く、鏡姓を名乗る者はそう少なくない。そういった認識が頭にあるために、「鏡透徹」という名前を脳内検索しても誰もヒットしなかったのだ。
本家の人間や、鏡一族について詳しく知る者がいるならばその存在を知っているのは勿論だが、普通の生徒ではそんなことを知る由は無い。よって、透徹と知り合った皆が鏡とはいえ、分家の者だろうという決めつけから、叶に対して取った対応のようにはならなかったのだ。
最も、透徹に関してはもっと別の理由も絡んではいるのだがそれを知る叶がそれを語るつもりは無い。彼女自身も全てを分かりきっている訳ではなく、彼が本家にいる時の酷い仕打ちを目の当たりにしたことがあるのが理由である。
「会えて嬉しいですわ。あれ以降私が貴方様の姿を見ることは……」
「そこまでにしてほしい」
透徹と再会出来たのが本当に嬉しい様子の叶。満面の笑みで捲し立てるように話題を振ろうとするが、途中で透徹が待ったをかける。すると、何かを思い出したのか先程まで饒舌だったのが急に勢いが落ち込んでしまう。
「す、すみません。私としたことが透徹様を見た途端に舞い上がってしまい……。過ぎたことを口にしました、お許し下さい」
バッと勢いよく叶の頭が下げられる。人々の上に立つ、正に雲の上の存在とも言うべき祥奏院が今、何処の馬の骨とも知れない男子生徒に謝罪をしている。二人の関係性を知らない周りからしてみれば、非常に不思議、というより不気味とも言える光景であり、何事かと静観している。
「はっ、私はまた周りのことを見ずにっ……! 騒ぎを大きくするような真似ばかりしてしまい、祥奏院にあるまじき行動でした。申し訳ありません」
「自分で気付いてくれたのならそれでいいさ。確かに、こんな所で話すことじゃないからな」
詩音を始め、周りの生徒は急すぎる展開に頭が追いつかなかったがようやく回転が再開した。二人の話ぶりから考えるに、どうやら旧知の仲であるらしいことは分かる。それに、彼が本家ではないとは言え、鏡一族というならば接点があってもおかしくはないだろうという結果に終着した。
「驚いた、確かにテツくんも鏡姓なんだから祥奏院さんと接点があってもおかしくはないよね」
やっと落ち着いてきたこの場の空気で、永遠が先陣を切る。
「はい。彼とは小さい頃からの幼馴染みでして……。それと、叶で良いですよ。苗字で呼ばれるのはあまり好きではないので」
「私と同じですね。それでは叶、で良いかしら? 我ながら少しぎこちなく感じるわね」
「よろしくお願いしますね! 叶ちゃん!」
目上の存在である祥奏院家当主の一人娘に、呼び捨てをするのが少し抵抗のある聖那。一方、元気キャラなティナは本人が良いといっているのだから、と楽観的な考えで「ちゃん」付で呼ぶ。
「ティナさん……、ち、ちゃんはいきなりどうかと思うです」
「構いませんよ。同年代の方からも敬語で話されるのはもうコリゴリです。何とでもお呼び下さい」
麗莉がティナを窘めるが、叶は気にしていないと制止する。
「ですから……む、昔のように呼んでもらっても良いのですよ? 透徹様?」
「いや、それは不味いだろう。叶がどう言おうと、分家の俺が馴れ馴れしくし過ぎれば、アレがうるさい」
御三家の二人だからこそ分かり合えるその会話内容。詩音たちも気にならない訳ではないが、なんだか踏み込んではいけない領域でありそう且つ、聞いたからといってどうしようもないのだ。
「透徹様はいつも先のこと、周りのことを考えて行動しているのですね。軽率な発言でした、私もこれからはもう少し自重した言動を取りましょう」
叶は反省した旨を伝えるが、その表情は何かを押し殺したような複雑なもの。強がりであろうことは誰にでも見て分かる。
「すまないな」
「透徹様が謝ることではありませんから」
悲しそうに微笑みながら、精一杯気丈に振舞おうとする健気な彼女。どうやら透徹と叶の仲は一言では言い表せない程に密な関係なのかもしれないと、この場にいる生徒たちは感じた。
「それで、叶。そろそろ君の後ろにいる子の紹介もしてもらえないか?」
多少は改善されたとはいえ、この場の雰囲気が明るいものとは言えない。いたたまれない透徹は、無理やり話題の方向転換を図る。
「そうですね、彼女は私のお付です。さっ、自分で自己紹介して下さい」
叶もこの空気に耐えられなかったのか、透徹の見え透いた逃亡に便乗する。どうやら、後ろに控えるのは侍女のような存在だという。
「……峯乃愛」
短い自己紹介で、挨拶すらもない簡素なもの。叶がそれを少し咎めるのだが、あまり話を聞いていない様子。
「ごめんなさい、この子は初対面の方とお話するのが苦手でして……。普段はもう少し明るい子なので、悪くは思はないで頂ければ嬉しいです」
「……すみません」
乃愛と名乗った女子生徒は、マイペースでシャイな性格らしく、今でも俯きながら叶の傍を離れようとしない。
ギリギリ目に届かない長さの浅葱色の髪は前髪をセンターで分け後髪がおさげと、大人しい印象を受ける。小柄な体つきはいわゆる幼児体型と言ったもので、華奢な麗莉よりも更に小さい。まるで子鹿のように細い脚を内股にして、顔色を伺うようにチラチラと透徹の方を見ては俯いてを繰り返している。
「あぁ、改めてよろしくな」
乃愛は叶が五歳の頃から、専属のお付きをしていた。五歳の頃であれば透徹もまだ本家にいた時のこと。既に家全体からの無視をされ始めていた時期だ。しかし、当時は仲の良かった透徹と叶はよくお互いの家を行き来しては、愛称で呼び合って遊んでいた。勿論、お付きである乃愛もその場にいるわけでいつも三人で遊んでいた。よって、透徹は乃愛の挨拶に、「改めて」という言葉を使ったのだ。周りの生徒も、勘づく者が多くわざわざ追求するような野暮な真似はしなかった。
「乃愛は、私の左隣の席です。お互いにご近所様同士、これから宜しくお願い致します」
叶が頭を下げるのを見て、乃愛もそれに続く。
「はい、よろしくお願いします」
「二人とも、仲良くやっていきましょう」
「き、緊張するです……」
「麗莉ちゃん、そんなに考えすぎることないですよ!」
「ティナたん、その言葉が君を考えなしと思わせるんだよ」
個性的な面々が揃ったものだと、内心でため息を吐く透徹であったが、表情は笑っている。素直でない彼は、使用人の実以外にこんなにも明るい感情で喋れるものかと自分で驚いている。
「ここは、騒々しいな」
頭を掻きながら、やれやれといった雰囲気を出す透徹。
「あの頃が戻ってくるだけのことですよ」
いつの間にか顔を自分の耳元に近づけていた叶。言いたいことを済ませた彼女の頬は、火が出るほどに熱くなっていたが、恥ずかしいならこんなことはしなくてもいいのに、と透徹はズレた解釈をする。
そんなことを考えているんだろうなと、この短い時間透徹と話しただけで、何となく彼の性格を知った彼女たちは思う。
詩音などは、二人だけの世界になっていることに妬いて、プクーっと可愛く頬を膨らませている。
ティナがふざけて片方を指で押すと、プスッと詩音の口から空気の漏れる音がした。体をプルプルと震わせて目には涙を浮かべている。とんだ羞恥プレイだと、ティナに対して怒る彼女を周りの聖那、麗莉、永遠、叶、乃愛が止めに入る。
この目の前の光景に、感慨深いものが心に溢れてくる透徹。
まだ、自分の中に楽しいといえる感情が残っていたことに気付く。そう理解すると、普段は開けない心の扉から少しだけ外の世界を覗けるような気がした。
「おいおい、その辺にしとけよ」
一瞬だけ素直になれた彼の笑顔は、彼女たちの記憶に強く焼き付いた。
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