入学式で脅される
どうも、今日はもう一話投稿しようと考えています。
早く戦闘シーンに行きたいですね……
まだ説明会が続きます。
透徹が黄道宮詩音、美雪聖那、神咲麗莉の三人と早速親睦を深めている間に、いつの間にか周りの席も埋まり始めていた。
人が多くなり皆も同じように友人作りに勤しんでいるのか、二百人近くの声が集まれば相当な大きさの音になる。
場内が少し騒がしくなってきたところで、スピーカーから女性のアナウンスが聞こえてきた。
「これから、入学式を行います。新入生の皆様は、速やかに席にご着席願います」
席が埋まりつつあるといっても、ギリギリの時間で入ってきた新入生たちもいるのでそちらに向けて注意をしたのだろう。
「お静かに願います」
アナウンスが流れた時点で、透徹たちは既に会話を一旦閉じて姿勢正しく待っていたのだが、未だに騒々しい生徒もいたためにそういった叱責が飛んできたのだろう。
流石に新しい友人を作ることに励んでいたとしても、浮かれてばかりではいられない。彼らも決して全員が望んでこの祥奏院学園に来ている訳では無いが、二度目のアナウンスが流れたところで落ち着きを見せ始めた。
「それでは改めまして、祥奏院学園入学式を開会します。まずは、本校の学長より挨拶を賜りたいと存じます」
パチパチパチと、その場にいる全員が拍手で理事長を出迎える。そして、出てきたのは黒い髪を七三に分けたスーツの決まる長身の男性が舞台袖から現れる。
そのまま舞台の中央までニッコリとしたどこか冷たい笑みを貼り付けながら歩いていき、設置されているマイクを手に取る。
「皆様、初めまして。まずは入学おめでとうと言っておこう」
上品なテノールボイスでゆったりと挨拶の言葉を新入生たちに向ける男性。
「先程ご紹介に預かったこの学園の学長である、五十嵐永堂です」
そう彼が名乗った瞬間に、場内の新入生たちの雰囲気が一瞬にして困惑に染まる。
誰も私語をしないというところは流石と言うべきだが、それでも彼らの体は正直なもので、信じられないものを見るような目で皆が舞台上の男性を見つめる。
先程、五十嵐永堂と名乗ったこの理知的な男性。彼は能力者社会のみならず、一般人でもその名は誰でも知っている程に名のある人物である。
それもそのはずで、彼は小学校の教科書にも載るような人物であった。それも歴史の教科書で。
永堂が姿を現した時に何人かの生徒は勘づいたようだが、それでも目の前に誰もが知る生きる偉人とも呼ばれる存在が現れればその思考は一瞬でも停止してしまう。
それは普段冷静な透徹も当てはまり、こんな大物がいるとは思ってもみなかったという。隣に座る少女達も驚いているようで、麗莉は手を口に当てて永堂を凝視している有様だ。
何故こんなにも有名なのかというと、彼は時代を生きる生き証人であり、御年三百を超える。見た目は三十代の人間に見えるのだが、彼は普通の能力者とも能力の格が違う。
「不老不死」という能力を持ち、三百年以上年を重ねているにも関わらず、ある日を境に老いというものが無くなったという。その知識と経験はそこらの人間など塵に等しい程に、政治的な影響力も大きい人物なのである。
「あまり長い話は好きではないので……、君たちはいかここに能力者社会への一歩を踏み出した。ここからは、辛く苦しいことも多々あるだろう。そんな時は良き友を持ちなさい」
迫力がありつつも聞き取りやすいその低音の声に、皆が一様に耳を傾けている。一言一句聞き逃してなるものかという程に。
「切磋琢磨という使い古された言葉があるが、僕はこの言葉が一番大切だと思っている。人生の大先輩からの話だ、聞いといて損は無いからね」
少しお茶目っぽい言い回しで、場を和ませることに成功した永堂。自分が登場してからの少し思い雰囲気を取払った。
「最後に一つだけ。能力者である君たちは決して選ばれた存在という者ではない。勿論、偶然そうなっただけという曖昧な言い訳もしない。何が言いたいかって決して驕ること無く、教養をここでしっかりと学んで世に出て行ってほしいんだ」
「僕からは以上。中途半端な終わり方かもしれないけれど、口下手でね。時間もあまり取れないからここまでにしておくよ。では……、ここにいる新入生諸君! 君たちを大いに歓迎しよう!」
仰々しく両手を広げて、歓迎の意を示す永堂。
「これで、挨拶を終わります。ありがとうございました」
瞬間、割れんばかりの拍手が起こる。新入生はおろか会場の壁際で話を聞いていた教職員共々からその賛辞が送られる。この場にいる者が五十嵐永堂という男をどれだけ尊敬しているかが分かる。
「五十嵐学長ありがとうございました。それでは次にこの学園の生徒会長から新入生への挨拶があります。それではどうぞ」
アナウンスの女性に呼ばれ一人の男子生徒が、理事長と同じように舞台袖から出てくる。
「皆さん初めまして。生徒会長の星流光輝です」
そう名乗った彼の姿は、金髪といった特徴のみが印象の一般的な生徒。名前の割にしては、普通の容姿と雰囲気を持っている。一瞬、本当にこんなのが祥奏院学園の生徒会長なのか? と考えてしまう新入生も多かった。
ここで少し生徒会長の役職について説明をすると、この学園での同職は全生徒の羨望の的となる憧れの役職だ。
まず、生徒会に入るためには特進科に所属するという条件が大前提となっている。その中でも生徒会長になるには相当に優秀な生徒ということで立候補者の中から会長を決めるための選挙を行う。この選挙には在学生だけではなく、理事長を含めた教職員たちも有権者となり得票数が多い立候補者が晴れて生徒会長となる。
そして、副会長、会計、書記二名、庶務二名の計六人の役職を選挙戦を勝ち残った生徒会長が推薦という形で指定する。生徒会役員は会長の代が替わる毎にその内訳が変わるのだが、基本的にはそれまで生徒会の仕事を経験した者のみで構成されるので、全くの新体制で発足する例は今まで無かった。
しかし、今アナウンスに促されて舞台に立っている男子生徒はその前提を覆してみせた。
生徒会長と言えば、三年生がその任に就くというのが一般的に見られる形であろう。それは、単純に一・二年生との経験値の差から選出されるのが当たり前という風潮に従うのが常であるのだが、現生徒会長の光輝はその型には当てはまらなかったのだ。
一年生の時点では生徒会には所属することは出来るが、会長となることは出来ないという校則があるために、生徒会に入ることもなく彼が表に出てくることは無かった。
そして二年生になった光輝は、副会長であった三年生が会長へ立候補したのと同じタイミングで手を挙げた。
今まで特に名前の上がらなかった冴えない彼が名乗りを上げたことに、在学生たちは困惑したと同時に僅かながらの嘲りの感情を持った。
意気揚々と立候補をした癖に、お前は誰なんだと。
しかし、皆のそんな想いも束の間。気付いた時には副会長ではなく、光輝の方へ波が来ていた。一体どんな手を使ったのかと疑われることもあったがそれもすぐに解決する。彼のカリスマ性に、上級生も誰もかもが心酔させられた。
その経緯についてはまた別の話になってしまうが、兎にも角にも彼の人気は凄まじい。政敵である筈の副会長にすら、選挙戦で敗退した後に「勝てなくて当然だ」と言わしめた。
そんなことは知らない新入生から見てみれば、凡人な光輝が目の前に立っているのが不思議でしょうがない。
新入生たちの呆然とした顔を見て、少し苦笑いをしながら光輝がマイクを手に取る。
「皆さん、入学おめでとう。私達在校生は全員が皆さんの入学を心待ちにしていました」
話す内容も、これといった特徴の無い無難な口調。益々、新入生たちの頭にクエスチョンマークが浮かんでくる。
「まぁ、皆さんの表情を見れば考えていることは容易に想像できます。ですが、私がれっきとした会長であることは事実ですのでよろしくお願いします」
お見通しだと光輝に指摘され、まずかったかと微妙な表情をする。
「別に咎めるつもりで言った訳じゃないんだ。気を悪くしないで欲しいな」
そんな皆の気持ちを先回りして、光輝はフォローをいれる。
「ただ……」
含みのある口調で、次の言葉をためる生徒会長。
「あまり人を見た目だけで判断するなよ?」
今までの良くも悪くも普通な口ぶりだった光輝の雰囲気が一気に冷めたものになる。それは式場内全てを包み、一瞬で凍らせる。それは教職員たちも同じようで、顔を強ばらせたまま、微動だにしない。
「今は大人たちに匿われている身分の私たちだから、能力というものの本当の危険性を皆さんはまだ知らない」
真剣な眼差しで、まるでこちらを睨んでいるかのようにして言葉を続ける光輝。片や蛙となった新入生諸君は、彼の凄みに当てられて指先一つ動かせない。
「……まぁ、何が言いたいかというと学長が仰ったように自身の力を見誤らないこと。驕らないことだ。こんな普通のなりをしているけど、俺はやる時はやるんだよ?」
ニコニコとしながらそんな言葉を口にすることが逆に怖いとその場にいる全員が共通の思いを持った瞬間だった。
「さて、何だか脅しているようであまりらしいことは出来ませんでしたが、これから一緒に頑張っていきましょう。以上で終わります」
最後は適当に締めくくった光輝。先程まで彼が纏っていたシリアスな空気は霧散すると思われたが、いまだ正気に戻れない生徒もいるらしく顔が青くなっているのが見て取れる。
「せ、生徒会長ありがとうございました……」
アナウンスの女性も少し怯えているようで声が震えている。
「最後に、入学式の閉会式を行います」
そうアナウンスが流れたところで、誰もいなくなった舞台に様々な楽器を持った音楽隊が出てくる。どうやら閉会式では学園の吹奏楽部がわざわざ出張ってきて、歓迎の意味を込めて演奏をしてくれるらしい。
ポップな曲調の音楽で、先程まで気が沈んていた生徒たちもようやく立ち直ってきたようで、大げさな話ではなく顔に生気が戻ってきた。
どうやら演奏は続いたまま、新入生は式場から捌けて行くらしく教職員が先頭に立って生徒達を誘導していく。
透徹もやっと終わったかと、額にかいた冷や汗を拭いながらその場を後にしていく。
外へ出ても吹奏楽部の奏でる演奏は未だに聞こえ続け、彼らの今までの淀んだ空気を微力ながらリフレッシュしていくのであった。
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