5-1 自作剣技<1>
シュータは、端の知れない森の中で、匍匐前進をしていた。
正直、意味のあることじゃない気がするが、弓使いに当たると厄介だからこの格好ということだ。
―――――
このとき僕、シュータは、リーナの使っていた剣技、それも自作剣技の事を考えていた。
自作剣技。それは、戦闘で大いに活躍し、一気に敵を倒したり、一点集中技を作ったりなど、使いようによって様々だ。しかし、それほど強い分、デメリット、つまり難点も存在する。
1つ目。その人の動きによって、隙が出来ること。今のが、この技の最大と言っていい難点だ。
プレイヤーには、無数ともいえる性格と、行動法がある。行動法とは、その人の行動に対する得手、不得手の事だ。
性格が、行動法に関わってくるのも、このゲームの特徴だ。というより、ゲームでなくてもそれは関わってくる。
そして、リーナの作った自作剣技は何とも言えない程、システムに任せきっていた。技の組み方を、単純にしすぎていた。
―――それが、リーナの弱点であったのも、事実だ。
ここまで考えていた頃、推測25メートル先のプレイヤーが、弓での射撃をしてきた。
やっぱり使うしかないのか、と思いながら僕はあるものを取り出した。それは対ボス用に取っておいた、グレネード。それを、容赦なく投げて、敵が―――
そのグレネードを撃ち落とした。そんなことができるのに、まだ僕が倒されない理由が分からなかった。
――1秒前までは。というより、近くにもう1人いたことに気付かなかっただけだった。
「まだいるのか!!」
小声で、相手に聞こえないように、しかしはっきりとそう言った。
マップだと、今は森の東端、そのまた東には岩山があって、弓使いのほうは森に、もう一人は森に来ようとしたところのようだ。
その弓使いは明らかに手錬で、恐らくもう一人の方は片手か両手の剣使い。剣士の方が矢を弾き落とせるならまだしも、行動法がリーナと同じ、つまり初心者という事だ。
―――その後なら、こっちに来るだろう。
僕はそう予想して、今後を考え始めた。
今からは逃げて、次出会えば攻撃するか。それとも、今から二人を敵に回すか。
前の方が安全だが、ここで逃げて勝てる可能性が高いとは言えない。とはいえ、後の方だともっと危険だ。―――もう、これでどうするべきなのか分かった。
―――逃げる!!
そうして、少しの音を立てながらだが、僕はその場から立ち去った――否、逃げた。
(お願い、しばらくは敵とは遭遇しないで!!)
そう願い、もの凄い音を立てて走り出した。
―――――
倒された後のリーナは、街に戻るまでの間、
「ここ、どこ?」
なにも無い空間の中で、一人彷徨っていた。
説明は難しいが、薄暗い空間の中に、線上に何本もかすかな青白い光が差してくる。
そして、その中に一人、閉じ込められているのだ。
「・・・」
リーナはいつものようにウィンドウを出そうとする。ここまでは良かったが。
「・・・?」
真ん中に『スキャニング中』としか書かれていて、その下には『58%』と書かれてある。
「何、これ・・・」
分からなかったが、何かが起きている事は確かだ。
そして、数分後。
数値が100へと変化し、眩しい程の青白い光を見た直後。
―――街に、戻っていた。
「何だったんだろう・・・」
分からないまま、その場に立ち尽くしていた。
―――――
その頃、カズキは、現実の方にいた。
「なんか、懐かしいな」
ここはとある喫茶店。珍しく『ここに来てくれ』と招集されたので、仕方なく来たような感じだが、少しだけ懐かしんでる。
「・・・珍しいな、自分の足で来てもらう事なんて」
「質問なんだが、あんたが呼んだんだよな」
「・・・そうだけど何か?」
なんか会話内容が馬鹿馬鹿しくなり、溜息をついた。そして、その人に訊いた。
「で、今日呼んだ理由は?」
「久しぶりでさ、なんかまだいるのか気になってね」
「まさかだけど、生存確認?」
その人はこくりと頷いてきたので、言い返そうとしたがこの後始末が面倒臭いのでやめた。
「じゃあ、こちら側からも訊かせて貰うよ。私が誰なのか、本当に覚えてるか?」
そんな質問だろうと予想はしていたが、見事に当ててしまう自分が、もしくは相手の質問の内容が情けない。
「当たり前だろ。『あのゲーム』のGM、ボルタさんだろ?」
ボルタと呼ばれたその男は、あのゲーム――詳しくは外伝にて――のゲームマスター、つまり、あのデスゲームの運営代表なのだ。どうやら改心したらしく、いつの間にか「一度だけ」として手を貸した後、頻繁に俺が呼ばれては手伝わせられる事になっていたのだ。
「正解。六年も前の話なのに、よく覚えてるね」
「・・・あんなに忘れたい記憶は無いけど、残念ながら記憶力だけはいいんでね」
「つまり、こう話すことは良いってことかね?」
「これも忘れたい思い出の一つだよ!!」
流石に突っ込まずにはいられなかった。
この部分より、不思議な進行を開始します。
そして、続きます。5-2「自作剣技<2>」は6月上旬ごろ。