14 開始からの一難
俺は言われた通りに頭に取りつけ、新生『ソードエンズ・オンライン』に足を踏み入れた。
しかし、着いたところは真っ暗で、何も見えないところだった。
「何だここは・・・? なにも無いし、何も見えない」
すると、何もなかった場所に、スクリーンと何かのリモコンが。
『ただいまより、βテスターの数値調整を始めます。リモコンをお取り下さい』
突然流れ出したアナウンスに、驚きはしなかったが、何の調整なのか、そっちの方が気になった。
『まず初めに重力調整です。表示される重力を負荷として掛けますので、自分に合った重力値を選んでください』
表示されているのは重力値が±0を示していて、その下に『参考値』と書かれてあった。
「じゃあ参考値で。調整は何度でも出来るらしいし」
そうして俺は±0のまま開始をした。
その後、アバター作成に必要な性別情報や、種族設定―というものの正直全く関係がないもの―をして、
『これで設定は以上です。健闘を祈ります』
こうして、ようやく街に――と思ったところで事件は起きた。
街に転送された瞬間、設定とは全く違う、負荷が。
そう、ゲーム自体は試作。なので処理などに弱い。
――そうだとしても、ここまで酷くなるものだろうか。
そこまで思考回路が起動していた時、突然、アナウンスをしていた人の言葉を今言われたかのように思い出す。
『重力値はウィンドウから何度でも変更できます』
そう。替える事が出来るのだ。
ウィンドウを出す方法は右手を振る。たったこれだけだ。
俺は振ってみて、体感した。しかし、
「出て・・・来ないな」
そう。出てこなかったのだ。
「反対の手なのか・・・?」
反対の手で試してみる。ここでウィンドウは出た。つまり、慣れないがウィンドウを出す方法は左手、という事になった。
俺はオプションから重力値変更を選び、もう少し軽くする。
設定を変更した瞬間、途轍もなく重いおもりが乗っていたような感覚が、すっと消えていった。
「おお・・・軽くなった」
その絶大な差に驚愕を隠せなかった。
ここで、もう一つ気になった事が。
――ログアウトの方法だ。
大体のゲームでは設定の欄等にあるのだが、このゲームは無い。
かといって他の場所を見てあるかというと、そういうわけでもない。
『このゲーム体験中は私にいつでも問い合わせる事が出来る。何かあったら言ってくれ』
確か、ボルタはこのゲームを俺に渡す前にこう言った。
『分かった。些細な事では相談はしないさ。そう作ってるだろ?』
そう。これは些細でも何でもない。β版でもゲームクリエイターならログアウトは必ず作るだろう。
今では『あの事件』の対策として、ログアウト可能かどうかの適性試験が無いと販売は出来ないらしい。
――しかし。
これは販売用ではなく、試験用としてテスターとなった俺に手渡しされた作成段階のものだ。そこが制約との大きな差だ。
これは問い合わせるべきだとボルタに問い合わせた。
『それは、本当かい?』
「ああ、そうだ。ログアウトボタンが無い」
俺はある程度の事をボルタに説明し、
『それは悪かったね。君は何時にログアウトする予定かな?』
「・・・」
少し考える。そして気付く。
――俺、いつまでするのか決めて無かった。
それに対する俺の返事が、
「ま、まあそのうち」
『・・・分かった。早急に手配するよ』
この発言からすると、ログアウトボタンをなるべく早く作る、という感じに聞こえたが合っているのだろうか。
あっていると願い、コールボタンから手を離した。
―――――
一方、家が喫茶店から近いシュータは、もう15分ほど遊んでいる。
「街広いなー・・・」
――勿論、観光目的ではなく、テスターだという事はきちんと理解したうえでの発言だ。
「戦闘は・・・」
――戦闘に移りかかったシュータだが、大事な事を思い出す。
カズキだ。僕の方が先にいるだろうから、スタート地点に戻った方がいいのかもしれない。
行動に移った。
―――――
カズキはというと、近くにあった武具店で装備品を整えようとしていたところだった。
「どれがいいかなぁ・・・」
相変わらず、武器のチョイスはいまいちで、これというものが見つからない。
「・・・」
こうして、しばらくあれやこれやと言いながら武器を探していると、
「あなたにはこの武器がお薦めですよ」
誰か、否、聞き覚えのある声。振り向くとそこには。
「――シュータ」
盛大に裏切ろうとも、見捨てなかった俺の友達。
俺が一番といっていい程頼りにしていた仲間であり。
剣を向けて戦った相手でもあり。
「何? あっ・・・」
俺もシュータも何か察していた。最初の出会いがこんな感じだった。
俺が武器に悩み、戦闘の最前線に後れを取りそうにまでなって悩んでいた時、シュータが『この剣がいいんじゃない?』とお薦めしてきたのがシュータとの出会いだ。
俺はシュータの顔をもう一度見直す。
現実には遠いが、その顔が懐かしくも思えた。
俺はなんて言おうか考えたが、言葉ではなく行動で、と思い、
「ありがとう。この剣にするよ」
その後、さらに。
「俺と一緒にパーティ組んでくれない?」
あの時の繰り返しを。もう一度。
投稿遅くなりました。すみません。