ポンコツ
「ちょっ!!ソフィ!!」
「ん?どうしたのセツ?」
「どうしたはこっちのセリフだっつの!!そんな簡単にそのこと言っていいの!?」
「え、ダメなの?」
「知らねえよ!!だから聞いてんだろ!!」
チンピラ並みに口が悪くなってしまった
でも、それくらい取り乱しているってことなんだよ!
「だってセツの家族に隠し事はしたくないもん」
「もんってかわいいなチクショー…!」
「そういうことじゃないでしょ!?」
素でキュンッとしてしまった私の肩をユーリが叩いた
「婚約者候補って、本当か?」
「うん、一回断られちゃったからまだ候補のままだけどね。でも、諦めるつもりはないよ」
「いやそこは潔く諦めなよ!!」
バンッ!
クロスとソフィの会話を遮るようにユーリがテーブルを叩いてソフィに詰め寄った
やだ、今日のユーリめちゃくちゃ荒れてない?
「だいたいなんでセツ姉なの!?あなたなら相手はいくらでもいるでしょ!どうしてよりによってこの馬鹿で鈍感で頭の中食べ物しかないようなセツ姉をわざわざ!」
前言撤回
こいつ通常運転だ
「自慢じゃないけどうちの姉は頭はいいが性格が馬鹿だからとても王子様の婚約者が勤まるとは思えない!なので!!他を当たってください」
真正面からソフィを睨みつけるユーリから鬼気迫るものを感じた
ユーリ……
あんたそんなに私のこと馬鹿だと思ってたのね…お姉ちゃん結構ショックよ……
「ユーリ、そこらへんにしとけ、セツがダメージ受けてる」
「あっ」
しまったという顔のユーリ
やっぱこの子自覚あるよ、自覚あって私がショックを受ける言葉を言ってるよ
こっちを見て気まずそうにするユーリに向かってわざとむくれた顔をする
ユーリが何かを言おうと口を開きかけた時だった
「セツ、僕はどんなセツも好きだよ。ユーリ殿が言っていたことも、僕からしたらセツのかわいい部分でしかない。だから気に病む必要はないよ」
キラキラスマイルを浮かべながら私の手を握ったソフィの後ろでユーリのあんぐり顔が見えた
そしてクロスが僅かに目を見張ったのも
「それとユーリ殿」
続け様にユーリを振り返るソフィ
ビクッとしたユーリは慌てて背筋を伸ばしてソフィを見据えた
「さっきも言ったけど僕はセツが好きだ。他の誰かじゃダメなんだよ、セツじゃなきゃ。それに…ユーリ殿は本当に好きな人を一度断られたくらいで諦められる?」
「っ……それは…」
おや?
おやおや??
ソフィの質問に珍しくたじろぐユーリの姿がそこにはあった
今も昔も勘はいい方だと自負している
ユーリのこの様子は…
「もしやもしやユーリには既に好きな人が…?」
「何ぶつぶつ呟いてんだ?」
顎に手を当てて探偵ぶってたところにクロスの呆れたような声が届いた
はっ!もしかしてクロスなら何か知っているかもしれない!
年中私に反抗期のユーリだけどクロスには懐いてるからもしかしたら恋の相談とかをしちゃったりしちゃってるかもしれない!!
え、ちょそれが本当ならマジ疎外感なんですけどー!恋の悩みって言ったらやっぱりまずは同じ女子の意見を聞かなきゃでしょー!
「ね、ねえ、クロス、クロスはユーリからその、何か悩みとか、相談されてない?」
「悩み?いや、そんなこと言われた覚えはないけど」
「そ、そっか!ならいいんだ!」
すーっ、っかしいな~
クロスにも言ってないのか…
ユーリの性格からして、案外照れくさい子だからもしかしたらその相手は私達も知ってる子なのかもしれないな
ってことは…
「あっ!!もしかしてキュアラちゃんとか!?」
「どうしてそこであいつの名前が出てくるのか分からないけどセツ姉がまたポンコツな頭でポンコツなことを考えていることだけは分かったから、とりあえずそのポンコツな思考を捨てて大人しくしてて」
「ポンコツって三回も言った!ポンコツって三回も言った!!ポンコツって三回も言っ」
「お前まで三回言わなくていいから」
全てを言い切る前にクロスに頭をチョップされた
全く痛くなかったけどそれよりも心が痛かった
「だってクロス!!ユーリが!!」
「あーはいはい、分かったから落ち着けって。ユーリ」
ポンポンッと私の頭を撫でて少しだけ咎めるような言い方でユーリの名を呼んだクロス
それでもユーリは腕を組んだまま膨れっ面でそっぽを向くだけで私に謝る気は全くなさそうだ
「ユーリ今日どうした、らしくないぞ。そんな感情的になる奴じゃねえだろ?」
「…クロスさん、男には感情的にならなければいけない時もあるんだよ」
「男ってユーリまだ子供じゃん!!」
「セツ姉には分かんないよ!!」
クロスを挟んで言い合う私達姉弟の間でため息をつくクロス
巻き込んだのは申し訳ないとは思ってるけどここは我慢して!!
威嚇し合っている均衡状態の中
「ふふっ」
場違いすぎるかわいらしい笑い声が聞こえた




