ソフィール・エリオット
「あの後ね、自分なりに行動を起こそうとしたんだ。けど、やっぱり最初はそう上手くいくものでもなくて、全然相手にされなかったよ。それでもなんとか負けないで頑張った結果、漸く周りも僕という存在を認めてくれるようになった、それが約一年前」
ソフィの過去を知っているからこそ分かる
きっと、そこにいくまでの道のりは"大変"なんて言葉で簡単に片付けられるものじゃない
でも、ソフィはやり遂げた
全部自分の力で、自分の手で掴み取った
……本当に…本当にすごいよソフィ…!
「その頃だったかな、ルークと出会ったのは」
「ルーク様と?」
「うん。立場上父からも教育係からも外交能力を求められて、毎日国同士の関係について学んだりあらゆる知識を身につけるよう言われていたんだ。確かにそれも大事だと思ったけど、僕はそれよりもこの国自体が今どんな状況なのかが知りたかった。そして、それに協力してくれたのがルークだった」
「そうなんだ!」
「最初はルークも渋っていたんだよ?王子はそのようなこと知らなくても良いのです!なんて言って。でも、僕はこの国の王子だからこそ知りたかった、知らなきゃいけないと思った。それでずーっとルークに引っ付いて粘って粘って粘り続けた結果、やっと折れてくれてね。それから少しずつだけど、どこでどのようなことが起こったのかを教えてくれるようになったんだ」
そう語るソフィは今までと比べて一段と柔らかい表情になっていた
だからすぐに分かった
ソフィにとってルーク様とのその時間はとても楽しくて大切な思い出なんだって
「そんなことをしている時に見つけたんだ、アーレス家の事件のことを。それが起きたのが僕がセツと出会った二年前と同時期だったこともあった上に、その事件に関しては不可解な部分が多かったからね、僕もルークも記憶に残ってたんだ。事故として片付けられてはいたけど僕の判断で少しずつだけど新たに情報を集めることにした。何も意味はないかもしれない、でも、少しでも遺族の為に何かしてやれることがないか考えた結果、そうすることに決めたんだ」
「そういうことだったんだ…あっ、でも!ソフィが事件に詳しい事情は分かったけど、どうしてそれが変わる切っ掛けに?」
「その事件を調べたいって初めて父に直談判したんだよ。それまでいくら変わったつもりでいても、父との関係だけは怖くて前に進むことが出来なかった。能力を身につけてもいつも父と交わすのは事務的な会話ばかり。でも…その時僕は初めて自分の気持ちをそのまま父にぶつける事が出来た。自分がどう思っているのか、どうしたいのか、真っ直ぐに父に伝えることが出来たんだ」
「そ、それで?」
なんとなく答えは分かっていたけど、やっぱり確信が欲しかった
ソフィの頑張りが報われた確信を
恐る恐るといった感じで聞いた私を見てふっと笑ったソフィは落ち着いた口調で言った
「王室騎士団は僕個人の力だけじゃ簡単には動かせないよ」
それだけで充分だった
「ソフィ!!あんたはやっぱ凄い子だよ!!凄すぎる子だよ!!偉い!頑張った!本当によく頑張ったね!!ソフィならきっと大丈夫だと思ってたよ!!絶対絶対ぜーーーったいにやれると信じてた!!」
「セ、セツ!?」
腕の中からソフィの驚いたような声が聞こえたけど、私は構わずソフィの頭を抱えて抱きしめ続けた
「それに何度も言うけどシェリーの件に関しても、本当にいくら言ったって足りないくらい感謝してる!ソフィがこんなにいっぱい頑張ってくれたおかげでこうして事件解決に繋がったんだよ!シェリーとキュアラちゃんの分も私が一緒に言うね!ありがとうありがとうありがとう~~~!!ソフィー!!」
「待っ、セ、セツ!」
ソフィがなぜか焦ってるように感じたけど、今の私はソフィが認められた嬉しさと、ソフィのこの国を思う強い気持ちに感激して興奮しまくっていたのでソフィを気遣う余裕はなかった
そしてそのままソフィの肩に手を置いて目線を合わせた
赤くなったその顔のことも気にせずに今一番伝えたいことをぶつけた
「ソフィ!ソフィの国の民一人一人を思うその熱い気持ちがきっと国王様にも届いたんだよ!もうあなたは私だけじゃない、この国にとって必要な人間なんだ。ソフィがいなくてもいいなんて思う人はもういない!今は皆、国の皆がソフィのことを必要としているよ!なぜなら、こんなにも民のことを思う人はいないから。なぜなら、こんなにも民のために力を尽くしてくれる人はいないから、なぜなら!こんなにも意志が強く心が綺麗な人が必要とされないはずはないから。…私との約束を充分すぎるくらい果たしてくれてありがとう……本当に、よく頑張ったね…!」
微笑みながらその滑らかな肌を滑る水滴を拭う
いつの間にか静かに涙を流していたソフィをもう一度抱きしめた
背中に腕を回されて服をギュッと握り締められた感じがしたけど私はただずっとソフィの頭を撫でていた
初めてソフィと出会ったあの日を思い出す
あの時自分のことを卑下し泣くことすら良しとしなかったあの小さな子供はもういない
今ここにいるのは
自分の足で前に進み
強くなり
立派に成長したソフィール・エリオットだ




