ウェルシー母子
あれから私は暇があればクロスに会いに行った
相変わらずぶっきらぼうだけど、それでもなんだかんだ言いながら私の相手をしてくれてるんだから、クロスはやっぱり私の見立て通りとても良い子だ
そして一緒に過ごしてるうちにクロスのことも少しずつだけど知ることが出来た
まずクロスは私の三歳上で、学校には行かずに去年からウチの屋敷で色々と手伝いをしているらしい
それというのも、実はクロスのお母さんはあのメイド長ミリアーナさんなのだ!!
代々のメイド長の中でも一際優秀と言われているミリアーナさん。とてつもなく美人な上にいつも的確にみんなに指示を出し、ピンッと伸びた背筋で佇む姿はいつ見ても凛々しい。私に対しても常に優しくて…私がこの屋敷の娘だからかもしれないけど、それでも私はとても嬉しかったんだ
屋敷の皆はいつも私に対して一線引いてるとこがある。前のセツィーリアの印象もあるだろうし、私の機嫌を損ねたらクビにされるって思っているのか、話しかる度に皆ビクついていた
でもミリアーナさんだけは違った
礼儀正しいのはもちろんだけど、皆が向けてくる強張った笑顔なんかじゃなくて、本当に優しい笑顔を私に向けてくれるのだ
何かいけないことをやったときもミリアーナさんだけはちゃんと叱ってくれて、叱られてるのに私すごく嬉しかった
彼女だけは私を年相応の子として接してくれた
だからミリアーナさんは密かに私の憧れ
それをクロスに言えば
「………」
ものすごい顔をされた
ミリアーナさん似の綺麗な顔に「だいなしだなおい」と言っちゃいそうなくらいにはすごい顔された
「ええー、そんなに驚く?」
「いや、だって、メイドが憧れのお嬢様とか聞いたことないから」
「違う違う!メイドが憧れなんじゃなくてミリアーナさんが憧れなの!」
「似たようなもんじゃん、母さんはメイド長なんだから」
「もー!全然違うよ!!クロスは全然分かってない!」
むくれた私を見て苦笑いを浮かべるクロス
そして何か思い悩むような素振りをしてから思い切ったような感じで口を開いた
「なあセツ」
「なぁに?クロス」
あっ、ちなみにセツっていうのはクロスがつけてくれたあだ名だ
ふへへへ、あだ名だなんてますます仲が良いっていう証拠みたいだよね~!
「これは俺が口出す問題じゃないと思うんだけど、お前大丈夫か?」
「……」
クロスの一言で、ついさっきまでニヤけていた私の顔はあっさりと萎んだ




