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消失





「ユーリ様~!」



遠くの方からシェイルスさんが僕を呼ぶ声が聞こえる

でも今の僕はそれに手を振り返す余裕なんてなかった



「ユーリ様、お待たせして申し訳ございません!強盗は捕まえて荷物もご婦人に返せたので一件落着ですね」


シェイルスさんが何かを言ってるけどその言葉はほとんど僕の中に入ってこない



どうしようどうしようどうしようどうして?

なんでなんでなんでなんで??

おかしいおかしいおかしいおかしい!!



「ユーリ様、セツィーリア様とキュアラはどちらに?……ユーリ様?」



ここで漸く様子の違う僕に気づいてシェイルスさんが膝を折って僕と目を合わせた


僕はきっと酷い顔をしているんだろうな、自分でも血の気が引いてるって分かるんだ、きっと真っ青になってるに違いない



「シ、シェイルスさん…」


「はい」


「セツ姉が……二人が消えた…」


「…え?」



僕もえ?って言いたい


でも、本当に消えたんだ


あの後、すぐにセツ姉達がいた辺りまで走っていってもそこに二人の姿はなく周りを見渡してもそれは変わらなかった

最初はセツ姉の悪戯で僕を驚かそうとしているのかと思って呆れながらちょっと探そうと思ったけどよくよく考えたらキュアラもいるのにそんな幼稚なことをするはずがない、あの人年下にはかっこつけだから

それに……子どもの足だけで一瞬にしてこの場から姿を消せるはずないんだ……


そう思い始めたら不可解な点がいくつも見つかり、最悪な仮説が過ぎった瞬間血の気が引いて僕は震えが止まらなくなっていた


そのすぐ後にシェイルスさんが来てくれたけど状況は何一つ改善されてない


心配そうに顔を覗き込んでくるシェイルスさんを見つめながら恐る恐るその仮説を口にした



「誘拐、されたかもしれない…」



震えた声によって紡がれた言葉は形となった瞬間現実味を増した


僕のそれを聞いたシェイルスさんは徐々に目を見張っていき、僕の肩を掴んでいる手にも力が入り始めたのが分かった

僕はこんなにも焦っているシェイルスさんの顔を見たことない



「…それは、どういうことですか?」



それでもやっぱりシェイルスさんは大人だからか、必死に冷静に状況を把握しようと努めていた


さっきの出来事を簡単に説明すればシェイルスさんの眉がだんだんひそめられていく

そして僕はついさっき拾ったそれをシェイルスさんに手渡した


なんとなく無関係じゃないと思ったから


「あと、これ。セツ姉たちがいた辺りに落ちてた…関係ないかもしれないけど、なんか気になって」


それを、懐中時計を受け取ったシェイルスさんはさっきの非じゃないくらい目を見開いた

そしてなぜか、とても怒っているように見えた



「シェイルスさん?」



様子のおかしいシェイルスさんに今度は僕から声をかける

ビクッと体を震わせてからシェイルスさんは僕を安心させるために笑顔を向けようとしたけど、ぎこちない上に引きつってたから無理しなくいいと伝えた

それにこの状況で僕が安心できることはセツ姉とキュアラが戻ってくることだけだから、笑顔を向けられたとしても今の僕は愛想笑いすら出来ない



「ユーリ様、今すぐ護衛の方と屋敷に戻って旦那様に今の状況を伝えてください」


「えっ!?待っ!」


言うや否や一緒に戻ってきていたであろう護衛の人に僕を連れ帰るよう頼んでから懐中時計を仕舞ってどこかを睨みつけるように遠くを見つめるシェイルスさん

今にも飛び出していきそうなシェイルスさんの腕を掴んでこっちに振り向かせた



「待ってよ!!僕も行く!僕はあの二人と一緒にいたのに守れなかった!シェイルスさんどこか心当たりがあるんでしょ!?僕もセツ姉たちを助けに」


「いけません!!」


「!」



初めてシェイルスさんに怒鳴られる

いつも優しい笑顔を浮かべてるシェイルスさんは本気で怒ってた


「ユーリ様!これはあなたのせいじゃない!むしろこれは私のせいです…あなたたちの側を離れたばかりに……本当に申し訳ございません…!」


僕の肩を掴んで頭たれるシェイルスさんの声も、よく聞いたら震えていた

そうだ、誘拐されたのはセツ姉だけじゃない、キュアラも…シェイルスさんの妹も今危険の中にいる

シェイルスさんはきっと今にも飛び出して行きたいはずなのに僕のことを落ち着かせようとしてる、そして何も悪くないのにこうして謝っている

一分一秒だって惜しいはずなのに


「違う!シェイルスさんは何も」


「違うんです!!本当にこれは俺のせいなんです!!俺が!!……セツィーリア様を巻き込んでしまったんです…!!」



セツ姉から聞いたことがある、シェイルスさんは取り乱すと一人称が変わるって

それに、シェイルスさんの今の訴えはまるで悲痛の叫びみたいで…ビリビリと鼓膜が揺れている


「ユーリ様…これをエドナルクさんに渡してくれませんか?それで全て伝わるはずです」


そう言って渡されたの万年筆だった

随分年季が入っている物だったけど一目で大事に使われているのが分かる

でも、なんでこれをエドさんに?


その疑問を口にする暇もなくシェイルスさんは俯いてた顔を上げてしっかり僕と向き合った



「それと、旦那様にも伝言をお願いしてもいいですか?…セツィーリア様は必ず無事に救い出してみせます、そしてこれら全ての責任は私にあるので罰はいくらでも受けます、だから今だけは勝手な行動をする私を許してください"と」



消えてしまいそうなくらい儚く笑うシェイルスさんと離れたら、なぜかもう二度と会えない様な気がしてならなかった



立ち上がってそのまま去ろうとしたシェイルスさんの背中に呼びかける

せめて、どんなものでもいいからせめて安心できる何かをシェイルスさんの口から聞きたい



「約束してくれる?!絶対、三人揃って戻ってくるって…!」


一度止まってゆっくり振り返ったシェイルスさんは何も言わず真意が読み取れない笑顔を浮かべて、そのままどこかへと走っていった


もう止まらないその背中に叫び続ける


「約束だよ!!破ったらダメだから!セツ姉もキュアラもきっと許さないから!!」



あっという間に遠くに消えた背中をいつまでも見ている暇はなく、僕はすぐに待機していた馬車に乗り込んだ


行きとは違い馬車がすごいスピードで駆けていく

きっと護衛の人たちもかなり焦っているんだ

それでも荒々しさを感じないのはさすがだと思った




屋敷に着いた途端に僕は馬車から転がり落ちるように飛び出し、挨拶をしてくれる使用人たちの声も全部無視してお父様がいつもいる書斎へ飛び込んだ


どうやら来客中だったみたいだけど、それを気にしてる余裕はない


僕がいきなり飛び込んできたことに驚くお父様に事情を全て話す、もちろんシェイルスさんの伝言も伝えた

「馬鹿者めっ!」とお父様は呟いていたがこれは怒りではなく心配から来るものだと僕には分かった


本当はノワール家のお嬢様が誘拐されたなんて他人のいるところで話していい内容じゃない

だけど、僕はそんな暗黙の了解よりセツ姉のほうが大事なんだ…なりふり構ってられるか!


話し終えた頃にはお父様も顔面蒼白になっていた

そしてすぐさまシェイルスさんに頼まれていた物をエドさんに渡せば、エドさんはハッ!としたような顔になりお父様に何か耳打ちした

それを聞いたお父様の顔もみるみるうちに険しくなり、エドさんが離れた瞬間お父様は素早くかつ的確に指示をエドさんに出していた



これで、一先ずは一安心かもしれない



そう思った時だった





「僕にも救出の手助けをさせてもらえないだろうか?ヴァーシス卿」




僕とそう変わらない年頃の少年?がお父様の名前を呼んで前に出た



この部屋にいる人は最初から限られているから、すぐに客人がこの子だと分かったけど…






父の名を呼ぶこの少年は一体何者なんだ?







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