バカと天才は紙一重?
「シェイルスさん、出来ました」
「はい。……さすがユーリ様、全問正解ですよ」
「やった!シェイルスさんが教えてくれたおかげだよ!」
「シェリ~、こっちも出来た」
「……はい、セツィーリア様も全問正解ですね。大分苦手分野も克服出来てきてますね」
「そりゃー、こんなに優秀な先生に教えてもらってるんだから、克服しないわけにはいかないでしょー!」
「ふふ、頼もしい限りです」
あれから数日が過ぎた
いつも通り何事もなかったかのようにお互いに接する私とシェリー
まあ、実際何事もなかったんだから当たりまえっちゃ当たり前だけど
でも、時々シェリーが悩ましそうな顔でこっちを見る時が増えたと思う
普段は本当にいつも通りなのだ、だけどふとした瞬間に一瞬だけ少し渋い顔をして小さくため息をつくシェリーの姿を何度か見かけるようになった
もしかしなくてもシェリーが気にしてるのはあの日のことだ
私の手を振り払ったことか、それとも火傷を見られたことか…はたまたその両方か
どっちも気にしないでほしい、と思うことはただの私のわがままだろうか
シェリーは優しいからもしかしたら私の手を払ったことを気にしているのかもしれないけど、これは本当に気にしないでほしい。むしろこっちが謝りたいくらいだ。もちろんわざわざ蒸し返したりしないけど、今でもいきなり自己嫌悪に陥るくらいには反省してますよ
そして…火傷のことは何も言うつもりも聞くつもりもない、もちろんシェリー自身が話してくれるってなったら別だけど、私はもうシェリーにあんな顔をさせたくない
「セツ姉?…セツ姉!!」
「えっ!?…あっ、な、何?」
「どうしたの?さっきから呼んでたのにずっと心ここに在らずって感じだったよ?」
「あっ、本当?ごめんごめん、ちょっとボーっとしてた」
「ふーん……最近あんまり元気ないけど大丈夫なの?」
「そうなんですか?」
おいいいいいいい!!!お前何あることないこと言ってんだあああああああ!!!
シェリーが反応しちゃったじゃん!!
「全然!私相変わらずうるさいくらい元気だよ!」
「まあ、うるさいのは変わりないんだけどなんかボーっとするの増えたよね」
「うるさいって自分で言うのはいいけど他の人に言われたらイラッとするよね」
でも、私そんなにボーっとしてた?……あ、分かった
絶対それいきなり訪れる私の自己嫌悪タイムだ
「大丈夫ですか?何か悩み事とか」
「大丈夫大丈夫!シェリーも知ってるでしょ?私が悩み事なんて引きずる人種に見える?」
「でも…」
「ていうかセツ姉、シェイルスさんがもしそのあだ名嫌がったらちゃんとやめてあげなきゃダメだよ?」
「何言ってるの!私は人が本当に嫌がることはしないよ!その証拠にいくら呼んでもシェリーは何も言わなかったでしょ?」
「言っても無駄だと悟りましたから」
「セツ姉」
「シェリーの裏切り者!!」
なんとかユーリが話を逸らしてくれたおかげで自然と私の話題から外れることが出来た
そこはナイスユーリ!さすが私の弟だわ!
さっきからシェリーがこっちを気にしてるのには気づいてたけど努めて明るく何もないように振舞った
まだ何か言いたげにしてたけど、幸いユーリがいるからシェリーがこれ以上何か聞いてくることはなかった
前までは何も考えずにシェリーと楽しく過ごしてたのに、今じゃお互い、お互いの反応を伺ってるのが正直言うと少し息苦しかった
願わくば、前と同じようにシェリーと過ごしたい
そう思った時だった
コンコンッ
ノックの音がしていつもの勉強部屋である応接室に入ってきたのはミリアーナさん
いつもなら授業の時間は邪魔にならないようめったに人は入って来ないのにどうしたんだろう?
私と同じことを思っているのかユーリも少し驚いていた
そしてよく見ればミリアーナさんの表情は硬く険しそうに見えた
やっぱり何かあったんだ…!
「どうしたの?ミリアーナさん」
「…アーレス様、先ほど妹様が高熱を出し意識不明との連絡が入りました」
「……え?」
え?シェリーの妹が?
衝動的に立ってミリアーナさんを見たまま固まってるシェリー
良く見れば顔は青ざめ、手が僅かに震えていた
「至急戻って来てほしいと伝令の方が」
「……あっ………で、でも、まだお二人の授業の時間が」
そう言って座りなおそうとするシェリーの側まで歩いて行って
私はあるお方の必殺技を拝借した
「バッカモオオオオオオン!!!!」
バコーンッ!
いい音を鳴らして私はシェリーの額にデコピンをかました
「っ……っっ!」
無言で痛みを訴えるシェリーと腕を組んでそれを見下ろす私
どこかで誰かのため息が聞こえたけど、見なくてもそれが誰のものかくらい簡単に分かった
それよりも、まずこの大馬鹿者に説教の一つでもしてやんなきゃ私の気がすまない
「こんな時まで何真面目ぶってるわけ?バカなの?頭いいと見せかけて実は凄くバカでしょシェイルスさん」
「…セツィーリア様…」
「そんな顔してる人がまともな授業が出来るとは思えないし、私だってそんな情けない人から教わりたくないわ」
「………」
「たった一人の大事な家族でしょ!?早く立って行きなさい!お兄ちゃん!!」
そう怒鳴った瞬間
バッ!と立ち上がったシェリーは
「申し訳ございません、お先に失礼します」
と言い終わるや否や部屋から飛び出して行った
私もその背中を追って廊下で叫んだ
「シェリー!!馬車使って!あと様態が酷いようだったらうちに連れて来て!お父様のことは私が説得するからちゃんと連れてくるのよ!!」
「ですが!」
「止まらず走れー!!今は妹さんの回復に最善な選択だけを考えるの!!」
「!…ありがとうございますセツィーリア様!!」
背中しか見えなかったけど、大声でお礼を言うシェリーの声はもう震えてはいなかった
その背中を満足げに見送ってから後ろを振り返れば
少し先に呆れ顔のユーリとニッコリ笑ってるミリアーナさんが扉の前に立っていた
あっ、やべ
ミリアーナさんの前で普通にシェリーって呼んじゃったよ
「相変わらずのお節介だね」
「でもそこがお嬢様の良い所だと思いますよ」
「……まあ、そうかもね」
何を話してるかまでは聞こえなかったけど……なんかミリアーナさんがニコニコしてるから悪いことではない…のかな?
不思議に思いながら、私は二人の元へ戻って行った




