ユーリ
バンッ!
「!!?」
「ユーリ!朝ですわよ!!」
ユーリが我が家に来てもう一週間
紹介された次の日から、私は早速ユーリを構い倒していた、それはもうウザイくらいに
朝はメイド達の制止を振り切って部屋まで呼びに行ったり、起きなかったら起きなかったで私が叩き起こしてたし、着替えも手伝おうとした
まあ、それは私が服を脱がそうとした時ユーリがガチ泣きしそうなくらい抵抗してたので適わなかったけど
それをクロスに話したらまたしても盛大にデコピンを貰ってしまった、解せぬ
抗議すれば逆にため息をつかれ、「傍からどう見えるか考えたことある?」と言われてやっと納得した
うん、確かに、着替えさせようとしたのはまずかったかもしれない
あの時の状況ってばまるで私がユーリを襲ってるみたくなるものね!だからユーリだけじゃなくてメイドさんたちも焦ってたんだわ
着替えの時は外に放り出されたけど、それ以外の時はほとんどユーリにべったりだった私
あっ!もちろんトイレやお風呂は別よ?
トイレはともかくお風呂は別に平気なんじゃないかって私は思ってたけど他の人たちはどうやらそう考えてはいなかったらしい。最初の頃一緒にお風呂に入る?って言った瞬間周りの反応がやばかった
ユーリは真っ青になりながらぶんぶん首を振っていたしメイドさん達は「お嬢様!」と絶叫していた
しかもその場にはお父様達もいたから、なんか真っ赤になりながら「恥じらいを持ちなさい!」と怒られた
いくらなんでも大げさすぎない?まだ私7歳よ?それとも何か?私がまたユーリを襲うとでも?……うわあそれめっちゃ思われてそー!あの時だって皆してユーリを庇いながら私から遠ざけてたもん
失敬な!!私だってレディの端くれなんだからそんなはしたないことしないっての!!せいぜい弟の柔肌をチョンチョンとつっつくくらいしかしないわよ!!
「ねえクロスも失礼だと思わない!?」
「黙れド変態」
グハッ!!久々にドギツイの来た…!この前はただの変態だったのに!!
朝、ユーリを起こした私は一足先にクロスとフラワーガーデンでお茶をしている
最近は私達とユーリの三人で朝のティータイムを過ごすのが日課となっていた、だから直に着替えを済ませたユーリもここに来るだろう
実はこうしてお茶を共に出来るようになったのは本当に最近だ
ここに来たばかりの時のユーリは常に下を向いていて何かに怯えているようだったし言葉もほとんど発することはなかった
食事も、恐らく私が呼びに行かなかったらずっと部屋に閉じこもって共にするつもりはなかっただろう
あらかじめ知っていたとは言え、そんなユーリを見ているととてももどかしかった
あの日、ユーリと私の顔合わせが一段落ついた頃、ユーリはエドさんの案内で一足先に部屋へと帰っていった
書斎に残された私はお父様からユーリに関する大まかなことを聞いた
思ったとおり、ユーリはおじ様の一夜の相手が産んだ子供だった
そして、今になってその存在が発覚した理由は、ユーリの母がお金に困ったことがきっかけだった
そこで使われたのはユーリ
ユーリの母はおじ様にユーリと引き換えにお金を要求し、断れば今までのおじ様の行いを公にすると脅したらしい。いくらおじ様の暴君っぷりが既に周知の事実とは言えそれを公にするのでは話が違ってくる
おじ様が今まで好き勝手に出来たのはお父様の弟、ノワール公爵家の親族だったからだ。だからいくら勝手をやろうと強く言える人はほとんどいなかった。でも、その行いが公の場に晒されればノワール家に迷惑がかかるのはもちろん、下手したら勘当されるかもしれない
それを恐れたおじ様は言うとおりにユーリをお金と引き換えにした、そしてそれで終わった
ユーリを家まで連れて行ってそれで終わったのだ。面倒も見ない、話しかけることもしない、正に空気として扱っていた
そしてそこでユーリの相手をし始めたのはおじ様の奥さんとその子供
いきなり現れたユーリは日々おじ様に鬱憤を募らせてるおば様達からしたら最適な八つ当たり相手だったらしい
暴力は当たり前、食事の中にガラスを入れられたことも数回じゃないし、酷い時は監禁して数日食事を与えなかったこともあったらしい
そこまで聞いたとき私は本気で武装しておじ様の家に乗り込もうと思った
まあ、腕まくりし始めた瞬間お父様から「大人しく話を聞いてなさい」って窘められたけど
そんな生活が長く続くはずもなく引き取られて二ヶ月でユーリは部屋に閉じこもって出てこようとしなかった
このままじゃ死んでしまうと思った屋敷の使用人が密かに連絡したのが私の父だった
連絡を受けた父はすぐにおじ様の家に行き、こってりあの野郎を搾ってからユーリを救い出し家に連れてきたという
それを全て聞き終えた私は必死に涙を堪えていた
つまり、ユーリは母に売られ、父であるはずの人間からは空気として扱われ、その父の家族からは虐待を受け続けて来たということ…?
唇をかみ締めて拳を握りながら
でも絶対に泣くもんかって思った、だって私が泣くのはあまりにも筋違いだ
話を聞けばユーリは一回も泣いたことがないらしい、もしかしたら部屋で密かに泣いていたかもしれないけど、誰もユーリの泣き声を聞いたことがないという
それならなおさら私は泣くべきじゃない、泣いたらそれはユーリに対する侮辱だって
それに悲しみよりも怒りの方が正直私の感情を占めていた
聞けばユーリは私の一個下だという、そんな仕打ちを大の大人が揃いも揃って6歳の男の子にしていたのだ
腸が煮え繰り返そうという気持ちはきっとこんなことを言うのだろうな
「お父様…まさかおじ様をあのままにしておくつもりは、ありませんよね?」
つい鋭い目つきを向けてしまったが、父は全くそれを気にした様子はなく、むしろ私より凶悪な面で美しく笑った
「はっ、まさか。あの時は一刻も早くユーリを救い出すことを最優先にしていたから奴のことなんて頭の片隅にもなかったけど、俺が何もしないと思うか?」
「いいえ?でもそれを聞いて安心しましたわ。……徹底的にやってくださいね?」
まあ、私が言わなくても
「当然だ。俺を怒らせたんだ、それ相応の対価は払ってもらうさ」
キレたお父様は誰よりも怖いから心配はいらないわね
本当は私もこの手で物理的に何発かあのクズに叩き込んでやりたいと思ったのは静かに自分の胸の内にだけしまっておこう




