弟が出来ました
ソフィと出会ってから早半年が経とうとしていた
あの後、爆睡してそのまま起きなかった私は、朝にお母様から少しだけお小言を貰うだけで済んだ
これもそれもきっとミリアーナさんが全てうまく言ってくれたおかげだ!
その後すぐにミリアーナさんにお礼を言ってからクロスにその日のことを話した
クロスはずっと静かに聞いてくれてたけど私がソフィの唇が柔らかかったことをニヤケながら話したら絶対零度の目で
「変態」
と一言だけ言われた
結構傷ついた
てか声も絶対零度だった、冷たかった、肝が冷えた
そして、約半年が経った今日
私はいきなりお父様から書斎に呼び出された
最近は何もやらかしちゃいなかったから正直呼び出される覚えはなかった
不思議に思いながら書斎の扉をノックすれば中からエドさんが扉を開けてくれた
中に入ればそこにはこっちを向いて立っているお父様と
あれ?男の子がいる
顔を俯かせてこっちを見ようとしない男の子を見ながら私はお父様とその子の前に立った
私の視線の先に気づいているだろうお父様は単刀直入に事を告げた
「セツィーリア、この子はユーリだ。今日からお前の弟になる」
「はい?」
いやいやいやいや
はい?
「お父様、いくらこの間までお母様と喧嘩をなさっていたからって、まさかその欲を他の女性にぶつけ」
「違う!!!俺はアメリア一筋だ!!!」
「まっ、冗談ですけど」
お父様に見えない方向でベッと舌を出しながらからかう
父の母に対する愛は百も承知だ
だからちょっとからかってみただけなのに思いのほか面白い反応を見せてくれるとは、いや~大人げない、大人げないよ~この人
「ヴァーシス様、ちゃんとお嬢様に事情を説明しないからですよ?」
だからからかわれるんだよ、と暗に言っているエドさん
最近エドさんの腹黒部分の翻訳が出来るようになってきてるんだよね実は
だからエドさんはお父様に対して実はかなり黒いことを知った、さすが学生時代からの親友容赦ない
エドさんに言われてお父様も少し反省したのか、小さく咳払いをしてから口を開いた
「セツィーリア、私の愚弟を覚えているか?」
愚弟?
「あぁ、シーザーおじ様ですか?」
「そうだ」
お父様には何人か兄弟がいるけど、愚弟と呼んでいるのはシーザーおじ様だけだったからすぐに分かった
顔はいいのにそこ以外はただのクズ、いや本当にクズ
家庭を持っているのに女遊びは激しいは、ギャンブル好きだは、性格も横柄で気に入らないことがあるとすぐに暴力で片付けようとするらしい
私も一回会ったことあるけど正直二度と会いたくない
あんのクソ野郎、ミリアーナさんにセクハラ働きかけた上に給仕してたクロスにまで嫌がらせしやがったんだ!あっつあつの紅茶急所にぶちまけて使い物に出来なくしてやろうと思ったけど、その前にお父様がキレたから私は怒りを鎮めることしかできなかった
「それがどうかしました?」
「ユーリはそのシーザーの息子なんだ」
意味ありげなお父様の目を見ればだいたいの事は分かった
恐らくあの遊び人のおじ様の戯れで出来ちゃった子
そして、おじ様の子なのにここにいて今日から私の弟になるって言うことは…
「…分かりましたわ」
さっきからずっと下を向いていて一回も顔を上げようとしないユーリ
見るからに細い身体なのに縮こまってるから余計小さく見えた
ユーリのまん前まで歩いていっても少しびくっとするだけで顔をあげようとしない
「ユーリ」
「……」
「ユーリ」
「……」
「ユー……人が名前を呼んでいるのだからちゃんと顔を上げなさい!!」
「!?」
ガシッと顔を掴んで無理やり上を向かせた
その時初めて映るユーリの顔
痩せこけてはいないものの顔色は決していいとは言えなかった
元々白い肌が少し青白くなっている
でも、それよりも印象的だったのはその目だった
真紅の瞳はユーリの白髪と相まって幻想的な雰囲気を醸し出している
ジーッと瞳を見ているのが分かったのかユーリは目を逸らして私の手を外そうとしていた
まあ、外さないけどね絶対、だって外したら絶対また顔下げちゃうじゃん
「ユーリ、こっちを見て」
もう一度名前を呼んだ
従わないと放してくれないのを悟ったのかユーリはゆっくりと外していた目線を再度私に向けた
再び見えた赤い瞳はやっぱり
「とても綺麗ね」
「…へ?」
無意識のうちに声に出していた私の言葉に対して何か言葉を発したであろうユーリの声は残念ながら聞き取ることは出来なかった
「ユーリ、私はセツィーリアよ、愛称はセツ。これからあなたのお姉ちゃんになるから、よろしくね?」
顔を近づけたままニカッと笑った私はユーリはまるで未知の何かを見ているような目を向けてきた
でも私はそんなこと気にならないくらいには舞い上がっていたのだ
私に弟が出来たのだ!!これが喜ばずにいられますか!!!
お姉ちゃんスイッチが本格的に作動した瞬間だった




