初デビュー
予想通りとは言え
「へいへ-いらっしゃーいらっしゃーい!!うちの野菜はどれも新鮮でおいしいよー!!」
「あっ、そこの旦那!うちの肉買っていきなよ!!ここだけの話、この値段の倍はするくらいのいい肉だよお!」
「おいそこの嬢ちゃん!ちょっと見てかねえか?うちの装飾品は異国のお姫様も使ってるっていう超一点もの!買わないと存するぜえ!!」
「あら奥さん!今日も沢山買ったねぃ、ついでにうちの果物も買っていきな!今日はりんごが特にいい香りしてるよ!」
市場は本当に人で溢れ返っていた
あっちこっちで飛び交う人の声
近くにいても大きな声で話さなきゃ隣のミリアーナさんの声も聞こえないくらいの賑やかさだった
これは確かにいつはぐれてもおかしくないな
でも
でも!!
やっぱり!!!
「めちゃくちゃ楽しそう!!」
騒々しいのをいいことにミリアーナさんが隣にいるのにテンションMAXでそう言った
人がひしめき合ってるけど、みんな活気があって歯を見せるくらいに楽しそうに笑っている
その中に駆け込んで行きたい衝動を必死に抑える
でもそこはさすがミリアーナさん
うずうずしてる私に気づいて
「それじゃあ、お嬢様。行きましょ?」
サッと手を差し出してくれた
やだ、ここに紳士がいるわ
とても美人なのにとても紳士なお方がいるわ!やだ惚れそう
「ありがとうございます、ミリアーナさん」
パシッ!と手を重ねたくなったけどそこは最後の理性を振り絞って、お嬢様らしく優雅に差し出された手に手を重ねた
まあ、約数分でそんな猫かぶりも剥がれ、私は我を忘れるくらい市場に夢中になっていくんだけど
今日は街にお出かけだったため、いつも屋敷で着ているようなドレスじゃなくて比較的動きやすい、所謂平民の方々が着る私服を着ているため、どっからどう見てもただのはしゃいでる子供にしか見えない私
実際その通りなんだけどね、普段はドレスのおかげでなんとか見た目だけはお嬢様だけど中身ただのアホなオヤジ娘だから
とまあ、そんなアホでも精神的には17、18の大人だ
子供だけど子供じゃない、人を困らせるようなことは絶対にしないと自負していた
していたつもりなんだけど…
「参ったなあ、見事にはぐれたぞ」
頬をかいて辺りを見回す
あれほどミリアーナさんから離れない、手を放さないって約束したのに、私は見事に市場の盛り上がりに心を奪われた
そしてあっちこっちとミリアーナさんを引っ張り回していくうちに人ごみに突入しちゃって、もまれにもまれて気づいたときにはミリアーナさんとはぐれていた
でも私は全くと言っていいほど焦っていなかった
なぜなら抜かりのないミリアーナさんと万が一にもはぐれたときに合流する場所を決めていたからだ
そこは市場の中では少し拓けた場所で、事前にミリアーナさんと一度行ったのでとりあえずそこへ向かうことに決めた
幸い記憶力はいい方だから道も覚えてる
よし!そうと決まれば、早くミリアーナさんと合りゅ
「あっ!」
「わあっ!!」
いきなりドンッ!と背中に強い衝撃を受けて鈍くさいことにそのまま顔から地面に突っ込んでいった
いやあ、痛いね、ちょっと冗談なしに痛いね
鼻の骨折れるかと思ったわ、つうか折れてなくても確実に潰れたわ、ぺしゃんこ間違いなしだよ
不幸中の幸いは鼻血が出ていないことだよね
いくらセツィーリアの顔が整っているからって鼻血垂らしてたらその時点で終わりだよね、お嬢様としても女として終わりだったよね、ふぃー!
ていうかさ
「女の子がぶっ倒れてるんだから何か一言あってもいいんじゃないかな!!?」
そもそも君がぶつかって来たんだから謝罪の言葉も欲しいくらいなんだけど!!
飛び起きて振り返ったそこには灰色のケープを纏った、フードを目深に被っている私と身長がさほど変わらない子供がいた
顔が見えないから男なのか女なのかも分からない
もしこれが大人とかならもっと文句を言ってやるとこなんだけど子供の場合そうもいかない
しかもその子もどうやら私が倒れたことを少なからず案じているのかさっきからずっとおろおろと挙動不審な動きをしていた
それを見たら少しだけ申し訳ない気持ちになった
そりゃぶっ倒れたのは私で鼻が潰れる思いをしたのも私だけど、それでもいきなり怒鳴るのは良くなかったと反省し、なるべく優しく、驚かさないようにその子に話しかけた
「あの、ごめんね?いきなり怒鳴ったりして。あなたも大丈夫?どこか怪我してない?」
そう聞けば一拍を置いてふるふると首を振る子供
とりあえずそれに一安心してもう一度辺りを見回す
もちろんミリアーナさんを探すためじゃない、この子の保護者を見つけるためだ
でも、どこを見ても誰かを慌てて探している大人は見当たらない
ってことは
「あなた、もしかして迷子?」
この子も私と同じで親とはぐれたのかもしれない
そう聞けば随分長い間を空けてから小さくコクッと頷くのが分かった
そうと分かったら、なぜかいきなりその子に親近感が湧いた
同じ迷子だけどきっとこの子は私より心細いと感じているはず!ならばここは同じ子供でも中身がちょっと成熟してる私が守ってあげなければ!!と変なスイッチが入り、その子の手を握った
「大丈夫!お姉さんが一緒に探してあげる!」
ビクッとするその子に構わず安心させようと力強く言う、ついでにギュっと痛くない程度に握っている手に力をこめた
勢いあまって身体がのりだして必然的に顔も近づく
相変わらずフードで顔ははっきりと分からないが一瞬だけ深緑の瞳が見えた気がした




