命拾い
今回は少々過激?な描写があります。
記憶が定かじゃないというか、あんまり覚えてないけど
確かある日のお昼時にいきなり声を掛けてきて、一緒に食事をしようと誘われたことがある
でも私はいつもコレットと一緒に食べているから丁重にそつなくお断りをしたにも関わらず、しつこく食い下がってきたうえにコレットに蔑んだような目や言葉を向けてきた奴だ
そうだ思い出した
あの時クロスのことで頭がいっぱいいっぱいで私にとってどうでもいい人間のことは記憶に残してなかったけど、こいつはコレットのことをぞんざいに扱ったからきちんと恥をかかせたうえで追い返して記憶の片隅に捨てておいたんだった
ちなみにちゃんと、この身の程知らずのお坊ちゃんのプライドはボロボロのボッコボコにへし折ってやったよ
結構プライドをズタズタにしてやったのに、懲りずに歯向かってくるなんていい度胸してるじゃないの
ていうか待って?
まさかとは思うけど、この前のあんな死ぬほど下らないことでクロスに絡んだわけじゃないわよね?
「先ほども思いましたが、ノワール嬢は随分と寛大なお心をお持ちなのに、我々に対しては些か冷たいとは思いませんか?あのような下々の者にその麗しい手を差し伸べるくらいなら、この私めにその手を取るチャンスをくださいませんか?」
はいアウトー
はい死刑ー
はいこいつ処すの決定ー
恭しく一礼をしてから私に手を差し出してくるベスパル
あぁ、もう名前も思い浮かべたくないからクズ一号でいいや
こんな公衆の面前で私がこの手を拒まないと思っているのか、自信満々に私を見上げ気持ち悪い顔でニヤついているのが見える
舐められたものだな
確かにノワール家の人間として、周囲の目には人一倍敏感に過ごしてきた
だけど、こいつは本当の意味でノワール家については知らないんだろうな
辺りを見回してちょうどいい物を見つけた数歩先にあったそれを手に取ってクズ一号の前へと戻る
私の持ってきたものを不思議そうな目で見ているクズ共
横目でクロスやユーリが頭を抱えている姿が見えた
どうやら二人は私のやろうとしていることが分かったらしい
でも、止めようとしてないのを見ると私の自由にやらせてくれるみたい
いやあ、ありがたいありがたい
「ノスカ卿の言いたいことは分かりましたわ。あなたの言葉を真摯に受け止めた結果を伝えてもいいかしら?」
「…ええ!もちろうあああああああああああああ!!!!!!」
「申し訳ありませんが、私は極度の潔癖症でして、あなたの手の熱湯消毒を10回以上施さない限り触れることは難しそうですわ」
手に持っていたティーポットの中身をクズ一号の手へと注いでいく
熱々の紅茶が注がれた手は見るからに赤く腫れていて爛れている部分もあるだろう
「うがあああああああああ!!!」
「ベスパル!!!!」
「な、何をするのですかノワール嬢!!!??」
熱さと痛みに悶えている耳障りな叫び声の次に続くクズ二号と三号の私を非難する声
周りを見ても私を恐ろしい目で見ている生徒は少なくない
見たければ見ればいい
そして、私の恐ろしさをその目に焼き付けておけ
「一度しか言わないので、よく聞いておいてくださいね?権力に目が眩み、女性を見下し身分でしか人を見れない能無しの教養なしが気安く私に話しかけないでちょうだい。何より、あなたたちの最大の過ちは私の大切な人に手を出したことよ、社会的に死にたくなければさっさと失せてくれないかしら?」
最後の一言はクズ共にしか聞こえないように顔を近づけ声を潜めて脅した
もうすでに十分な情報や証拠は揃っているが、流石の私もそれをここで公開するほど冷酷ではない
このまま黙って居なくなってくれれば静かに消し去ってやるのに
「こんな公衆の面前でこのような暴挙に出ることはノワール公爵様の名に泥を塗ることと同じではありませんか!?いくら公爵様の娘だからと言って暴挙が過ぎますよ!!」
涙目になりながらも怒りで震えるクズ一号に怒鳴られる
あーあ、私だって公開処刑なんてしたくなかったのになあ
反抗されたら自己防衛のために仕方ない選択をしてもしょうがないわよね?
ゆっくりと一歩クズ一号に近づく
「暴挙?あなたたちのお家が行っている違法賭博や薬物売買、そしてあなたの女性や子供、平民たちに対する理不尽な暴行や数えきれないくらいの暴力沙汰に比べれば、私のは自己防衛だって判断されると思うわよ?ああ、安心して?野放しにするつもりは微塵もないから、ここで好きなだけ吠えていればいいわよ?まあ、吠えていられる元気がまだ残っていればの話だけど」
私の言っていることに心当たりしかないのか全員今までの比じゃないくらい青ざめている
その様子を滑稽だと心の中であざ笑いながらティーポットを今度はクズ共の頭上を狙って掲げる
「セツ!やめるんだ!」
「セツ姉!!」
ソフィとユーリの焦った声が聞こえるも私は動きを止めるつもりはなった
ゆっくりとそれを傾けて再び断末魔が聞こえるのを待つが
「セツ、もういい、十分だろ」
私の手はクロスに止められて、気づいたらティーポットが抜かれていた
「あーあ、残念。命拾いしましわね皆さん。…あぁ、でも、あなたたちのお家の方々の災難はこれから始まるから、一難去ってまた一難ですわね?どうなるのか楽しみですわ」
パチッと手を合わせて楽しそうに笑う私をクズ共が恨めしいやら恐ろしいやらの感情が籠った目で睨んでくる
「それと、先ほども口にしていましたが言わせていただきますね?軽々しく我がノワール家について口にしないでいただきたい。私は我が家に恥じるような真似をするつもりもしたつもりも一切ありません。それでも納得しない方がいましたらどうぞ我が家へ直談判しに行ってください。受けて立ちますわよ?」
こういう時に実感する
私って本当に
悪役令嬢の名に恥じない性格をしているな~
ってね




