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勇者様の、メイドでございます

作者: Rui


勇者一行は世界の平和を守る為

魔王退治の旅に出ました。


数多の魔族を倒し、そしてとうとう…魔王を倒したのです。


世界に平和が戻り

人々は幸せに暮らしました。


めでたしめでたし、ハッピーエンド



これが物語であればそれで終わりですが

現実ですので続きがあるのです。


平和になったその後の…勇者様のお話しです。



申し遅れました。私、勇者こと…レオン・ブレーズ様の専属メイドのメアリーでございます。


私11才、レオン様5才の幼き時より、お側にてお世話させて頂いております

私とレオン様の関係?

母がレオン様の乳母を務めておりましたので、乳姉弟とでも申しましょうか…淡い気持ちなんておそれ多いです。勿論、主として尊敬しております。


レオン様は現在19才、小さい頃はクソガ…いえ、なんでもございません…とても立派にお育ちになりました。


いつからか魔族vs人族の争いが始まり

つい最近まで魔族が暴れ回り、いつ明日は我が身と…安息などなかったのです。


巫女姫様、第2王女のアンジェラ・フォレッツ様

宮廷騎士団長、フランソワ・ライワー様

宮廷筆頭魔術師、セレスタン・デュプレシ様

神託にて聖剣の勇者として選ばれた、レオン・ブレーズ様


神の導きの元、4人の若き勇者一行は旅立ち

勇者は聖剣を振りかざし、魔族を切り倒しながら、残り3人のサポートを受け、ついに魔王に打ち勝ったのです。


凱旋パレードでは、溢れんばかりの人々の拍手喝采

平穏な日々を取り戻し、人々は笑顔

そして皆は幸せに暮らしました。


一部を除いて…


なぜ、何故なのです。



始めの3ヶ月は、平和そのものでした。

民は、平和をもたらしてくれた勇者一行を称え敬い感謝していました。


今まで、魔族に怯え打倒魔族と、存続をかけて人族一丸としていました。


恐れのなくなった世の中、その世の中だからなのでしょうか…この平和が脅かされるをなによりも懸念したのです。


悪者の魔族、その中でも絶対的な力を誇っていた魔王

その魔王を打ち倒した勇者

脅かす者と尊う者は、紙一重なのでしょうか…

いつしか民は…勇者様を、レオン様を恐れたのです。


「魔王亡き今、レオン様が世界で一番強い…て事は敵対なんてされたら…」


「え!巫女姫様と結婚してこの国を守ってくれるハズじゃなかったのか?」


「でも、他国へ婿に行くとかって聞いたわよ…」


「この国を捨てるのかよ!?」


「攻めこんできたりしないわよね?」


「魔族が人に代わっただけじゃないか…あの恐怖の日々が戻るのかよ…」


「ほら、噂をすればレオン様だよ、怖いね、怖いったら」


「……」


領地の観察に出向いた際の、

人々の恐れ怯える姿を見て…レオン様は屋敷から出る事なく引きこもりました。


「俺が恐れを与えるのなら…姿を隠そう

それで皆が少しでも怯えずに暮らせるのなら、それにこしたことはない」


レオン様は、それでも微笑みながらそう言うのです。なんて事もないという態度で


「レオン様はどこまで人が良いのですか!世界を救ったのにこんなのあんまりだわ!レオン様がいなければ今の平和な日常なんてなかったのに!皆恩知らずなんて死ねばいいのに!」


レオン様相手に声を荒げるのなんていつ以来でしょう

いくらここがレオン様の私室で2人きりとはいえ、仕える主様に対して言葉使いも改めず、息を切らしながらなんて…きっと今の私の顔は、怒りで真っ赤な事でしょう。我ながらはしたない…


「くっ…」


口に手を当てて、笑うのを一生懸命堪えているのは何故でしょうか?レオン様

私の冷やかな視線に気づいたのでしょうか、スッー…と真顔に戻り私の真っ正面、顔が近いです!近づいてきました。

レオン様の手が私の頬を包みます。


「何でメアリーが泣くの?自分の事じゃ泣かないクセに…人の事となると本当泣くな。昔からそうだった。メアリーは優しいから」


そう苦笑いしながら言うのです。

知らぬ間に流れていた涙は、レオン様の手に伝っていきます。


「だって!レオン様が泣かないから…」


レオン様は人前で泣かないし弱音も吐かない

小さい頃…悪戯ばかりしたり、我が儘や暴言を吐きまくったり

自分の思い通りにいかないとすぐ泣く泣き虫だったのに…

伯爵家摘男として、人様に無様な姿はさらせないと、段々となりをひそめ…そんな姿を最後に見たのは7才が最後でした。


悔しいじゃないですか、世界を救った英雄のその後がこれじゃ

今、レオン様の心はどれだけ痛いのてしょう?恐怖の宿敵を倒したのに、自分がその恐怖の宿敵と同じ立場になってしまうなんて

それは計り知れない…


「メイドの私は何の力も持ちません。だから出来る事ならなんでもいたします。私が代わりに泣きましょう」



そう言うと…レオン様は、優しくギュッと私を抱きしめました。



「馬鹿だなぁ…本当馬鹿だ。メアリーは馬鹿だよ…」



私の肩に顔を埋めて、ちょっと涙声なのは…気づかない振りをしよう

馬鹿と言われたのも、泣き姿を見るのもレオン様が7才の時以来

あの頃を知るだけに…随分と立派になられましたよ…レオン様

レオン様専属メイドとして、とっても誇らしいです。なんたって世界を救った英雄様ですから


レオン様に抱きしめられるなんて本当子供の時以来…昔は私より背が全然小さかったクセに、今は見上げるくらいでかくて

吐き出した声は、ソプラノからテノールに変わって

折れそうなくらい華奢なラインだった体は、筋肉でガチガチに逞しくなって

天使の様に可愛らしかった顔は、男らしいキリッとした男前になって…気づいたら男の子から男の人に変化して


正直に申し上げます。

私はほんの少し寂しかったのです。


メアリー!メアリー!と私の後を追っかけ回していたあの頃は…躾のなってないクソガ…いえ、何でもないです。

大人になって、適度な距離でしか接する事が出来ない事がもどかしかったのです。でも、仕える者と仕えられる方との距離感は、これが普通だと思っても寂しさを感じたのです。

だから、今この状態が嬉しいのです。


「ありがとう…メアリー」


そう言って上げた顔には涙の後はなく、でも目が少し赤くなっていました。

大変です!目を冷さなくては!水を張った桶とタオルを用意しないと…と思ってみたものの、抱きしめられたまま腕の中から出られません!優しくそっと包まれていると思ったら…以外とガッチリと抱きしめていた様子。か弱い女子の私には振りほどけないので抗議の声をあげようと思ったら…

何故かソファーに移動させられ座らせられました。

レオン様の横に、お互い向かい合うように座っています。


「メアリー、今から言う事を聞いて欲しい」


「聞いて欲しい事ですか?」


「俺は…神託で勇者に選ばれた時、ハッキリ言って面倒クサイと思った。聖剣の勇者だと担ぎ上げられて期待はすごいし、ハッキリ言って怖かったし…なんで俺?他の奴じゃダメなのか!他人のために自分の命を危険にさらしたくない!それが一番初めに思った事だよ、他人より自分の方が可愛いダメダメな奴だろ?」


「いえ、いきなりの事でしたし…仕方ないかと、誰でも危険な目に遇うのは嫌かと…」


「相変わらず優しいな」


そう言って私は頭をクシャックシャと撫でられました。


「心の準備もする間もなく強制で勇者として旅立たさせられるし、始めの頃はこれっぽっちも聖剣の力は引き出せないから…魔族と遭遇してもたいした戦力にならなくて…仲間に守ってもらう始末だし…本当困った。俺選ばれし聖剣の勇者じゃないのか?て…

そんなある日、夢を見た。何の夢だと思う?」


「夢ですか?夢…さっぱりと…」


「聖剣が夢に出てきて怒られた!」


「せ、聖剣ですか?」


「あぁ、聖剣だよ!

『何やってるこのヘタレが!早く自分を使いこなせ!』

てな…夢の中で聖剣が話すんだよ、びっくりした。本当」


会話の出来る聖剣…なんてレアな…でも夢ですよね?それとも神託でしょうか??


「『使えこなせるだけの能力と下地はある。お前は一体誰の為に戦う?自分のためか?勇者だと担ぎ上げてきた人々か?誰を守りたい?戦う心が決まってないから力が引き出せない!』


そう言われた。だから考えた。友だったり家族だったり守りたい人達はいる、ただ…ただ1人だけ、他と違った。その時に初めて気がついた。もしもそいつが魔族に襲われでもしたら…そいつのいない世界なんて想像が出来ない。危険にさらしたくない!そいつがいなくなったら俺は生きて行けない、いつだって笑ってて欲しい…だからそのために俺は戦う!


そう思ってからだ、今までが嘘みたいに聖剣の力は全開に引き出せるし、片っ端から魔族を切り捨てられる様になったのは、その頃から…仲間の俺を見る目が変わった。

そこからは皆が知っての通りだ。


魔王との戦いはヤバかった、でももしここで負けたら、そいつを残して逝くのか?死んでも死にきれない!てな…熾烈な戦いだった。どうにか勝てた時は、これでやっと笑顔を見られるって思ってほっとした。


俺は…世界中の人々の平和を守りたいとかそんな殊勝な心の持ち主じゃない

たった1人に笑っていてもらいたい、それだけでいい

だから俺の隣でずっと笑っててくれないか?



結婚しようメアリー




そう言ってレオン様は優しく笑いました。


これは…私の願望が幻覚として見えているのでしょうか…私とレオン様とでは住む世界が違うのです。


いくらでも取り替えのきく、平民のメイド

20を過ぎたら行き遅れと言われる中で、25才で行き遅れもいいところ…レオン様より6コも年上なのです。特化しているところもありません


レオン様が幼き時より、誰よりも一番近くにいたのです。心に蓋をして鍵をかけていたのに…こんな事言われたら溢れてしまうじゃないですか


私はずっと…この気持ちに気づかないつもりだったのに…


それに…王家から第2王女アンジェラ様との婚姻のお話しが来ているのです。

基本的に王命は断る事が出来ないのです。

魔王を凌駕する聖剣の勇者、国として手放したくないでしょう

他国の上流層から婚姻の打診がいくつも来ているのです。斯くなる上は繋がりを強くするため、アンジェラ様との政略結婚ののち次期国王として迎えられるのです。それにより、民の対応もきっと変わるでしょう。



「巫女姫様との縁談が持ち上がっているとか…それに平民は貴族と結婚出来ません」


事実、貴族のレオン様とはどれだけ想っても、平民というだけで婚姻は国から許可が降りないのです。よくて妾

巫女姫との縁談で次期国王になられた暁には…妾にすらなれません、遥か上の雲の上のお方なのです。


「それなら問題ない、魔王討伐の功績の褒美に“身分を問わず自分で結婚相手を決める”その権力をもらった」


爵位が高ければ高いほどに政略結婚は必須、そこに当人の意思など尊重されないのです。


「だからどれだけ縁談が舞い込んできても断れる。たとえそれが王家からだとしても、それを認めさせるのに時間がかかったけどな…」


「でも私は…6才も上です…」


「だから?男女逆ならよくある話しだろ?何か問題でもあるか?返事は?」


そこまでして、そこまで言ってもらえるなら…

この胸にくすぶっていた想いを、素直に伝えてもいいのですか?

返事など1つしかないじゃないですか


「ああ…色々と突っ走りすぎて大事な事を言っていなかったな


愛してるよメアリー…たぶん初めて会ったその時から








その後…あの怖がられ方はいったいどこへいったのか?



とある人物をモデルにした物語が巷で流行り

乙女なら1度は夢見る憧れの象徴になったとか…




勇者は世界の平和を守るため

魔王討伐の旅に出ました。

見事魔王を倒し、世界に平和が戻りました。


功績の褒美に勇者が望んだ事は…


身分差を乗り越えて、幼き時頃よりずっと一緒にいる

“初恋のメイドとの婚姻”

ただそれ1つだったのです。


望めばいくらでも地位や富が手に入るのに

王女様と結婚して次期国王になる事も可能でした。

他国の王族に婿入りする事も可能でした。


勇者は他は何も望みませんでした。

大事な人がいればそれでいいのです。


貴族の勇者と平民メイドの結婚

民は祝福しました。討伐から帰ってきた時のパレード並みに


力あるのに欲はなく


勇者とメイドは末長く幸せに暮らしました。


めでたしめでたし、ハッピーエンド









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