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赤の章  作者: 叢雲ルカ
赤の章
3/6

第2章 浅野蘭

 僕は人を殺めた……。

 大好きだった母を、唯一理解してくれた叔父も。

 その時から僕は屋敷から出る事が出来なくなった。

 別に窮屈な生活ではない。

 しかし、ある日から、生活が変わった。

 全く物好きな女だ。



 蓮の住む屋敷。

 今日も、浅野蘭が遊びに来ていた。

(全く、物好きだな)

 心に思って口には出さない。

 異能力が使えない時分、体力で勝ち目が無かったからだ。

「ねえ、蓮君」

 今日もいたたまれない、メイド服を着ていた。

 流石にもう、ふりふりのメイド服に突っ込む事もしなくなった。

 突っ込むだけで、殴られるからだ。

「何?」

「じゃあーん。パパがね。豪華客船のチケットを手に入れたの」

 蓮の目の前で、チケットを見せる。

「ふうん。で、君はそれを自慢しに来たの?」

「違うよ。蓮君も行こう」

「何度も言うが僕はだね」

「隠れて出れば? 蓮君の力なら可能でしょう?」

 発信機の存在を忘れていた。

 勿論、蓮は忘れていない。

「はあ、僕は君の無茶苦茶に付き合う程暇でも無いんだ。読みかけの本、やりかけのゲーム、解いていないパズルがある」

「何よ。私の事はそれ以下なの!」

「そうだよ。ようやく気付いたみたいだね」

「何ですって! 分かりました。もう誘いません。いいもん。1人で楽しむから」

 蘭はそっぽを向いて、拗ねた。

「他の人を誘うと言う選択肢は無いのか?」

 蓮はお菓子を食べ、突っ込んだ。



 それから3日後。

 蘭は豪華客船に乗る事となる。

「うわぁぁぁ」

 蘭はその大きく美しい船を見て、興奮している。

「中も凄いんだろうな」

 蘭は早速乗り込もうとするが、目の前で長身の男が困っていた。

「可笑しいな〜確かにチケット持ってきたはずなんだが」

 男はチケットを持っていないようだ。

「それでは乗せられないな。お引き取りを」

「待ってくれ、絶対あるから」

 この言葉を信じる人はいないだろう。

「すみません。良かったら、1枚余っているので、使って下さい」

 見かねた蘭がチケットを渡す。

「おっ、マジ! ありがとう」

 男が手を握り締める。

 男はとても男として魅力的な容姿をしていた。

 長身の体は痩せ形でしかし、筋力がある美しい肉体。

 顔も悪くなく、切れ長の目に、キレイな肌。

 耳には青いピアスも付けていて、お洒落であった。

「まあ、友人が行けなくなったし」

「そうなのか。じゃ、遠慮なく、あっ、自己紹介がまだだったな。俺は瑠衣。モデルをやっている。さんも様もいらないから、ただの瑠衣と呼んでくれ。君は?」

 一通り説明する。

 なる程、蘭は、モデルである事に納得していた。

「浅野蘭、大学生です。って、RUIさん!」

 蘭は驚く。

「あれ、知ってた? 俺も結構有名になったな」

「ええ、初出演映画見ました。バラエティ番組にも出ているし、モデル雑誌の表紙も飾っていますし」

 蘭も一通り説明する。

「嬉しいな知っていてくれて、でも、呼ぶ時は本名の瑠衣って呼んでくれたら、もっと嬉しいな。どちらにしても蘭ちゃん。よろしく」

「はい」

 瑠衣は蘭の荷物を持ち、自分のも軽々と持つ。

「あっ、荷物」

「この位しないとな。さっ、行こうか」

「はい!」

 瑠衣の後ろを蘭が付いて行った。


 瑠衣と蘭は荷物を部屋に置き、出航した船の一室でお茶を飲んでいた。

「本当にありがたい」

「いいんです。どうせ、余っていましたし」

「誰か誘っていたんだ」

「ええ、本当に無愛想で、人の好意を無駄にする最低な人です」

「あははっ」

 瑠衣が屈託無く笑い、コーヒーを飲む。

 右手薬指に赤い石の指輪をはめていた。

(悪い人じゃなくって良かった)

 渡した手前断る事も今更出来ない。

 渡して後悔した。

 何故なら相部屋だったのだ。

 初対面の男女が豪華客船で一夜を共にするのは、不健全極まりない話である。

 蓮と同部屋なのもどうかと思うが……。

 力のありそうな男が、自称日本一可愛い自分に手を出さないとも限らないのだ。

「それより、船内を見て回らない?」

 瑠衣が誘う。

「はい」

 2人は部屋を出た。


 船首に行きから、青い海を見ていた。

「うわぁぁぁ。キレイ」

「ああ」

「あれ、RUI君じゃないか」

 瑠衣をモデルとしての名前で呼ぶ、小太りなオジサンの声がする。

 瑠衣はすぐに声がした方を見て、笑顔を見せた。

「あっ、その声は雑誌記者の小久保さん。この間はどうも」

「いいや。憶えてくれてたか。ありがとう。しかし、そっちの可愛い子ちゃん。どうしたんだい?」

「可愛い子。嬉しい」

 蘭が喜ぶ。

 蓮に散々貶され、久しぶりに聞いた言葉だからだ。

「また、新しいこれかい?」

 小久保は小指を上に上げる。

 どうやら、彼女だと思われているようだ。

「違いますよ。彼女は俺にチケットを譲ってくれた恩人ですよ」

「どっちにしてもあまり不穏な動きをみせちゃダメだぞ」

「大丈夫ですよ」

「なら、いいんだがな」

 小久保と瑠衣がしばらく密会し、瑠衣は蘭の所に戻った。

「悪い。待たせた」

「いいえ」

「しかし、この豪華客船。やっぱりVIPが多いな」

 企業の社長や投資家、政治家等、セレブが大勢集結していた。

 この豪華客船で、オークションが行われるのだ。

「蘭ちゃんもお金持ちなの?」

「ええ、まあ。父が資産家何です」

「へー」

「瑠衣は?」

「俺は事務所の社長からコネで貰ったんだが、無くしたんだ」

 瑠衣は落ち込んでいた。

(コネで貰える物なの?)

 蘭は疑問視したが、聞かなかった。

「次は食堂行こうぜ」

 瑠衣は蘭の手を引っ張った。

「へー。美味そうだな」

 瑠衣がよだれを垂らしていた。

「まだ、準備中だよ」

 蘭が言う。

「うん」

 瑠衣は物寂しそうにバイキング料理を見ていた。

「あっ、RUIさんだ」

 女子スタッフの1人が声を掛ける。

「あのー、職務中ですが、握手して下さい」

 女子スタッフが右手を出す。

「可愛い子だね。いいよ」

 瑠衣も右手を出し、手を握り、更に左手でも握る。

「嬉しい。サインもいいですか?」

「いいけど、ペンと書く物ある?」

「あっ、用意します」

 上手い事色紙とサインペンを用意して、瑠衣が左手で、サインペンを持ち、右手に色紙を持って、サインを書こうとする。

「名前は?」

「直美です」

「直美ちゃんね。はい。どうぞ」

 書き終え直美に色紙を渡した。

「ありがとうございます。RUIさん。お食事は1時間後ですよ。それでは」

 直美は一礼して、仕事に戻った。

「まだ、1時間もあるの? 蘭ちゃん、次行こうか」

「ええ」

(やっと、次に進めるわ)

 直美にファンサービスをしている時、退屈で仕方なかったのだ。


 次は大ホールにやってくる。

「ここがオークション会場ね」

「腹減った」

「もう少しでしょう」

「うん」

 本当に空腹のようだ。

 モデルとして活躍していても、意外に子供で、蘭は少し驚いていた。

「あら、あなた、なかなかカッコイイボーイさんね?」

 美人セレブが瑠衣の目の前にやって来る。

「いいえ、俺はモデルのRUIです。しかし、あなたのような美人さんが、俺に声を掛けていただき光栄です」

 瑠衣はそっと手を握っていた。

「あら、モデルさんなの? こんな素敵なモデルさんがいらっしゃるなんて」

「そうですか? 嬉しいです。よければお名前を」

「瞳です」

「瞳さんですか。いやー。お美しい」

「ありがとう」

(この人、フェミニストなのね)

 蘭は瑠衣がどの女性でも優しく接するので、少し引いてしまった。



 1時間後。

「うん。うめぇ」

 食堂で立食パーティが始まった。

 瑠衣は左で箸を持ち、色々な料理を口に入れた。

「蘭ちゃん食べないの?」

「食べているけど、瑠衣はそんなに食べて平気なの?」

「ああ、全然」

 胃袋がどうなっているのか分からない程、瑠衣は量を食べていた。

 お酒も進んでいるようで、瑠衣の顔が少し赤くなっていた。

「こんな美味い料理が食べ放題なんだ。乗ってよかったよ」

「そう言えば、瑠衣もオークションの参加するんですか?」

「いや、俺の収入じゃ、オークションで商品買う程のお金は無いよ。でも、やっぱり乗れてよかった。最初は場違いかと思ったけど、こんな可愛い女の子に出会えたし、蘭ちゃん。この出会いに乾杯しない?」

「嬉しいけど、瑠衣、少し酔ってますか?」

「何で」

「私を褒めるから」

「何で? 蘭ちゃんは充分可愛いよ。いつもどんな扱いを受けているか知らないけど、俺は蘭ちゃんみたいな女の子、大好きだよ」

「冗談でも嬉しい」

「だから、冗談じゃないから」

「本当に見習って欲しいです。知り合いは酷いんですよ。私の事ちっぱいって言って」

「そりゃ酷いな」

「女性の魅力が感じないとか言って」

 蘭は瑠衣に蓮の愚痴を言い続けた。

 瑠衣はご飯を食べながら頷いている。

(この人、悪い人じゃなくって本当に良かった)

 蘭は安心していた。


 食事を終えた瑠衣と蘭は部屋に戻った。

 裏では今、オークションをやっているが、関係ない。

「瑠衣、大丈夫?」

「ああ、少し飲みすぎただけだから」

 瑠衣は具合を悪くしていた。

「食べすぎじゃないの?」

「この量は普通だ。少ない位だ。ううっ」

(どんだけ、食べるのよ)

 蘭が想像を絶するほど瑠衣は食欲が旺盛な男であった。

 ただ、少し、酒に弱く、ここが船の上だったので、気分を悪くしたのだ。

「ゴメンな。オークションとか見たくなかったか?」

「うん。少しは興味あるけど」

「見に行っていいよ」

「いいの?」

「うん」

「じゃあお言葉に甘えて」

 蘭が部屋を出ようとした時、船が大きく揺れ、電気が薄暗くなった。

「何?」

 蘭と瑠衣が驚く。

「蘭ちゃん」

「瑠衣はここにいて、様子を見てくるから」

 蘭は瑠衣が止める前に、飛び出して行った。

「ああ、さて、どうすっかな」

 瑠衣は頭をかいた。



 蘭はオークション会場に足を運んでいた。

「蓮君。どうしよう」

 そして、真っ先に蓮に電話していた。

『何が?』

「何がって、海賊が現われたの」

『そう』

「そうじゃなくって、ピンチを助けなさいよ」

『無理。僕、力使えないし、助けられない』

「何よ。薄情ね」

『そう言う問題?』

「じゃあ、どうするか、知恵を貸しなさいよ」

『何で?』

「何でって」

『1つ、僕はここにいて、助ける材料となる情報が少なすぎる。2つ、だからって、君を助ける事ができない。3つ、そもそも君を助けて、僕に何の得があるの。元々、君が勝手に……』

 ぶちっ

 電話が切れた。

「はあ、身勝手な女だ」

 電話の前で、蓮が言う。

 蓮はピザを食べながら、ゲームと読書を一緒にやっていた。

「まあ、いっか」

 気にせず遊んでいた。


「何よ。薄情者。って、電話がつながらない。電波ジャックされた?」

 蘭は戸惑いながら、ジャックされたオークション会場を見ていた。

 瑠衣が船内で出会った。雑誌記者の小久保と美人セレブの瞳がいた。

 皆、縄で拘束され、海賊達は銃をちらつかせていた。

「妙な真似するなよ。殺されたくなければな」

(どうしよう)

 蘭は困っていた。

 船内に残っている人も次々集められる。

「くそー」

 小久保が、異能力で水を起こし、海賊達に立ち向かう。

「利かないな」

 海賊の1人がスタンガンで雷を起こし、小久保を痺れさせる。

 そして、小久保は腹部を撃ち抜かれた。

「きゃー」

 人々の叫び声がする。

「抵抗した奴と異能力者は殺せ」

 オークション会場で、異能力者を判断されると、次々見せしめで殺されていった。

「どうしよう」

 蘭は困惑する。

 そして、背後から、蘭の口を抑える。

(えっ)

 そのまま、近くの部屋まで連れて行かれる。

「ちょっと、何をするのよ!」

 抑えた体の拘束が緩んだ隙を狙い、蘭は一本背負いをお見舞いした。

「どう!」

「あたたたっ、蘭ちゃん強すぎだよ」

「瑠衣」

 蘭が投げたのは瑠衣だった。

「蘭ちゃん。1人で突っ走っても解決しないよ」

「だからって、後ろから口を抑えても……」

「蘭ちゃん静かにして」

 瑠衣が近くの部屋に蘭を連れ入り、息を潜める。

「まだ、人が残っていないか?」

「あっちを探せ」

「ああ」

 2人の覆面の男が別れて、船内を探す。

「ふう、あぶねぇ。さて、これからどうするか?」

「どうするも、人質を解放して、海賊をやっつけるのよ!」

「携帯使えないし、どうやって?」

「何か方法があるわ。絶対、どうやってか外に連絡して」

「外に連絡しても、ここは海の上だぞ。助けが来る前に、皆殺しにするのは可能だ」

「だからって、見捨てるの?」

「そうは言ってない」

「じゃあ」

「いたぞ!」

 扉が開き、銃口に火が噴く。

「げっ、バレた」

 瑠衣は咄嗟に火の噴いた銃を目掛けて蹴り、銃を吹き飛ばした。

「まずは1人」

 隙ができ、顎を目掛けて蹴る。

 男は一撃で気絶した。

「瑠衣」

 蘭が吼える。

「ガキが!」

 別の男が銃を撃とうとする。

「俺は25才だ!」

 瑠衣は懐に隠していたナイフを取り出し、男の腕を切った。

「こいつ」

 それでも、銃を撃とうとする。

「動きは見えている」

 瑠衣は背後に回りこみ、腕を締め付け、男の首にナイフを当てる。

「あんま手荒な真似したくないから、大人しく、縄につながれて、話をしてくれない?」

「ううん」

 仕方なくしたがった。

(瑠衣、強い)

「蘭ちゃん。縄」

「あっ、はい」

 蘭は言われた通り、縄で縛った。

「凄い。瑠衣って、何処でそれを?」

「昔取った杵柄だ。ただの喧嘩作法だよ」

「喧嘩って」

「さて、聞かせて貰おうか。この船を何故襲った?」

「分かっているだろう。金持ちばっかじゃん」

「ああ、確かに。だけど、猛者だってこの船に乗っているだろう。それこそ、異能力者だって、どうやって……」

「それはこうやってだ」

「お前は、しまった」

 瑠衣の背後から、いきなり水が流れ人の形になり、小久保が現われた。

 瑠衣が振り向いた時には既に小久保の右腕が伸び、瑠衣の首を絞める。

「どうして、あなた撃たれたんじゃ」

 蘭が指摘する。

「ああ、撃たれたが、俺の身体は水で出来ている。撃たれても死なないんだよ。あれは演技だよ。それより、RUI君が、まさか、海賊を手玉に取るとは思わなかったよ。そんなに強かったんだ。でも、異能力者の前では無力だな」

「どう言うつもりだ?」

「海賊が豪華客船を襲うなんて、いい記事が書けるじゃないか、俺はドキュメントが書きたくってね」

「海賊と手を結んだのか。バカだな」

「何とでも言え」

 小久保が力強く首を絞める。

「あっ、ああ」

 瑠衣が手を上げ、ナイフを取り出したが、力が入らず、落としてしまう。

「無駄だ。お前の身体と俺の手は同化している。呼吸は出来ないが、脳にも水を浸食させたから、力も入らないはずだ。死ね」

「に、逃げろ」

「出来る訳ないでしょう! 瑠衣から離れなさい!」

 蘭が突進する。

「ダメだ。そいつは……」

「おてんばだな」

 左手が水の玉になり、蘭の顔を覆う。

 蘭は息が出来ず、気絶した。

「止めろ……」

「RUI君。やっぱり、好きなんだ。彼女の事」

「だから、何だ? 関係ないだろう」

「そうだな。ふん。気に入らないな。死ね」

「ああっ」

 瑠衣は全身の力が抜け、首を倒した。

「いいさ。その子は助けてやる」

 瑠衣を落とし、蘭を連れ去った。



『瑠衣。あなたにこれを』

 赤い石がはめられた指輪を渡した。

「姉さん?」

 幼い瑠衣が美女から指輪を貰う。

『あなたには必要な物だから、肌身離さず持っているのよ』

「うん。姉さん。ありがとう。大事にする」

 瑠衣は笑顔で受け取る。

 美女は瑠衣の頭を優しく撫でた。



 それからしばらくの後。

 瑠衣はゆっくり、目を開けた。

「大丈夫ですか? RUIさん」

「ううっ、直美ちゃん」

 瑠衣は部屋にあったソファの上に眠っており、近くで、女性スタッフの直美が、異能力で、瑠衣の傷を治していた。

「ありがとう……」

 瑠衣は起き上がり、咳き込む。

「まだ、大人しくして下さい。生きている事だって不思議なんです」

「そうか。所で、直美ちゃんはよく捕まらなかったね」

「はい。この部屋のクローゼットに隠れていました。異能力者を駆逐させていたみたいだけど、この部屋にはあなた方がいたので」

「そうか、あのドサクサで気付かれなかったか、ともかく助かったよ」

 瑠衣はナイフを拾い、懐にしまう。

「はい」

「さて、あいつら潰しに行くか」

「ダメです。敵が多すぎです」

「そうだな。でも、蘭ちゃんが連れ去られたんだ。黙って退くほど俺はお人よしじゃないんだよ」

「ですが」

「直美ちゃんはここにいてよ。すぐ終わらせるから」

 瑠衣は笑顔で部屋を出て行く。

 しかし、その笑顔は少し不気味な雰囲気が見え隠れしていた。

 その顔は瑠衣が見せた事の無い。少なくとも、モデルのRUIは見せない笑顔だった。

 直美はそれを見て瑠衣を追いかける事が出来なかった。



 人質を船の甲板に上げ、蘭を小久保が甲板に連れて行く。

「どうして、こんな事するの!」

「知ってしまったからさ」

 蘭は縄に縛られ、小久保が今から海に落とそうとしていた。

「変態・外道・自己チュー」

「何だと、俺は変態でも外道でもない!」

「自己チューは認めているんだ」

「黙れ、死ね」

 小久保は蘭を落とそうとする。

 しかし、炎の玉が飛び、海賊の1人に当たる。

「蘭ちゃん。助けに来たよ。ついでに俺の愛も受け止めて」

 瑠衣は投げキスをする。

「あんたバカか!」

「瑠衣。生きていたのか?」

 小久保が驚く。

「ああ、回復の能力者が近くにいたからな」

「中の見張りは?」

「全員寝てるよ。言っただろう。俺は喧嘩に強いんだ。異能力もあるしな」

「バカな。異能力者はあらかた調べ、片付けたはずだ」

「みたいだな。外で死んでいた船員は大体、異能力者だったみたいだから、そうだと思った。しかし、異能力者が同じ異能力者を殺める何て不届きもいいもんだな」

 瑠衣は指から火を出しタバコに点け吸う。

「まあ、どっちでもいいけど、それよか、せっかく料理と可愛い女の子とのパーティを楽しんでいたのに、よく台無しにしたな」

「あんた、やっぱりアホなのね」

 蘭が呆れる。

「だから、何だ。俺は水の能力者だ。火の力に負けるか」

「やってみろよ」

 瑠衣が挑発する。

「黙って聞いていれば」

 小久保は蘭を投げ飛ばし手に集中させ、腕を変形させ剣を作り上げる。

「なる程、本気のようだな」

 瑠衣が目を細め、分析する。

「悪いが、その程度なら、俺は倒せないよ。自慢じゃないが、俺は本当に強いんだ」

 瑠衣はタバコをくわえたまま、小久保の所へ向かう。

「ふざけるな!」

 小久保は腕を振り下ろす。

「何もふざけて無いさ」

 瑠衣は左手1本でそれを受け止める。

 すると、腕が蒸発を始めた。

「熱い! 何だと、だったら、これならどうだ」

 小久保は身体の一部を水にして、海水に流れ身体とくっついた海水で大波を起こし、どっと船の中に入ろうとする。

「お前、味方も巻き込んでいるぞ」

 小久保の後ろにいた海賊は大波に流される。

「はあはあ、関係無い。お前はどうする?」

 息を切らせ言う。

 今の攻撃で精神力を使ったようだ。

「そうかい」

 瑠衣は瞳を赤く光らせる。

「ファイヤーウォール!」

 残った右手を使い、蘭の目の前に火で出来た壁を作り、海水を蒸発させた。

「バカか船が燃えるぞ」

「いや、燃えないよ。俺の炎は青の炎と呼ばれ、無害の者には、触れても熱く無い聖なる炎となっている。お前の攻撃は蒸発するが、船は燃えない」

 小久保とは違い、瑠衣は息1つ乱れていない。

「本当だ。熱さが感じない」

 1番近くにいた蘭がその火に触れる。

「お前の異能力とは格が違うんだよ」

 瑠衣は残った右手で小久保の顔面を殴り、小久保の体を上手く倒す。

「お前みたいなクズ。虫唾が走るんだよ」

 瑠衣は見下し、そして……。

 ボキッ

 小久保の右腕を有り得ない方向に曲げ、骨を折る。

「ああああっ」

 小久保が大きな叫び声を上げる。

 それだけでは飽きたらず、瑠衣は左腕も同じように折った。

 その時の瑠衣の顔は怪しく笑っている。

「俺に喧嘩売ったんだ。その位の対価は払って貰わないとな」

 顔面を踏みつける。

「ほらほら、異能力出してみろよ。ああ、腕が折れたから無理か。ざまあねーな」

 瑠衣はしばらく、小久保に暴行をくわえ、白眼を向いた所でその手を止めた。

「何だ。つまんねー」

 蘭はしばらく、声がかけられなかった。いや、その場にいた全員が瑠衣に声をかける事が出来なかった。

 瑠衣はタバコを携帯灰皿に入れ、新しいのを吸う。

「さあ、コイツら縄くくりつけようか」

 瑠衣がいつもの笑顔で言った。

「ん? みんなどうしたの?」

 恐れている事に無自覚であった。



 その後、港に着き、瑠衣には迎えが来ていた。

「楽しかったぜ。蘭ちゃん。又、何処かで会えるといいな」

「えっ、うん」

「じゃあな」

 瑠衣は手を振り、車に乗り込み、車は発進した。

「変な人」

 蘭も微笑み帰った。


 後部座席に瑠衣は乗り、隣に座っていた男と話した。

「どうだった。瑠衣」

 その男は蓮を幽閉した柳川緋矢である。

「まあまあだな。海賊が襲いかかったのはくだらなかったよ。大した事無かったからな」

 瑠衣はタバコをくわえる。

「そう言うな。しかし、チケットを置いて乗り込むとはな」

「爺ちゃんの預言にあっただろう。忘れた方が、いい出会いがあるって、実行しただけだよ」

 火の力を出し、タバコを吸った。

「そうだな。それで収穫はあったか?」

「ああ、バッチリあったよ。あの子は蓮にとって必要な子だって分かったよ。とても、欲しいな」

 瑠衣は怪しく笑う。

「そうか、玩具が見つかってよかったな」

「ああ」

 瑠衣は短く頷いた。



 蓮は書斎で、本の整理をしていた。

 本棚から本を取り出すと埃をはらう。

 そして、本棚に戻したり、いらない本は床に置いたりしていた。

 その床に置いた本をダンボールにいれているのが、蘭である。

「蓮君。写真が落ちたよ」

 ヒラヒラと本と本の間から落ちて来た写真を拾いそれを見た。

「あれ、蓮君。知り合いだったの?」

「誰と誰が?」

「蓮君と、ほら話したでしょう。変なモデルさんと仲良くなったって、写真にその人写っているじゃん。蓮君の隣に」

 蘭は蓮に指を差し写真を見せる。

 蓮はそれを見て、持っていた本を落とす。

 そして頭を抱える。

「そんなバカな」

「何言っているの?」

「そんなはずない」

「だから」

「君が出会ったのは本当にその人なのか?」

「失礼ね。本当よ。瑠衣って言って、大食らいで気さくな人だったわ」

「そんなはずない。柳川瑠衣は半年前僕がこの手で殺めた僕の叔父だ。生きているはずが無い」

「嘘」

 蘭はその男を思い出し絶句した。



 オマケ

「あっ!」

 蘭が急に大きな声を上げる。

「どうした? 気でも狂った?」

 蓮は大きな声に驚く。

「そうじゃなく、蓮君。大変なの」

「何が?」

 蓮はソファに座り、テレビゲームを始めた。

「大学の宿題、レポートが出来て無いの」

「……僕には関係無い」

「もう、手伝うとか、気の利く言葉無いの!」

 蘭は少し怒る。

「君ね。自分でやらなきゃ意味無いだろう」

「そんな事無いわ。蓮君がレポートを提出した方が、評価が上がるでしょう」

「君の評価。が上がるだけで、僕の評価は上がらないでしょう」

 蓮は言葉を訂正して、蘭に話す。

「そう? ともかくやって、お願い。ほら、行列の出来る銀座の牛乳プリン買ってきたから、私の分も上げるよ」

 蓮は手を止める。

「銀座の牛乳プリン……分かった。いいだろう。君がどうしても僕の頭脳が必要なら、今回だけ特別に手伝ってやる」

「ホント。ありがとう。やっぱり、蓮君は優しいね」

「別に、僕は……ほら、早く牛乳プリン出せ。脳を動かすには糖が必要だ」

「はいはい」

「飲み物は?」

「アイスコーヒーだ」

「用意するね」

 蘭はキッチンに向かう。

(牛乳プリンか〜)

 蓮の顔が自然と綻んでいた。

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