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ボクとランのモノガタリ  作者: 今田信義
9/9

ふたりの旅立ち

ランが家に来て、1年が経とうとしていた。

この1年は僕の短い人生の中で忘れることのできない大切な時間だった。

ランと過ごした楽しい時間。

毎日毎日、お喋りをして、体調の良い日はお散歩にも行った。

僕は、ランの優しい瞳に包まれて毎日を送ってきた。

かけがえのないたったひとりの友達。

僕の生涯のたったひとりの友達。

その友達とのお別れも近づいていた…


ある晩、夢を見た。

その夢は、不思議な夢で、ランがお婆ちゃんになっていた。

お婆ちゃんになったランは、僕の手を掴んで空を飛び始める。


「あきら、いいかい、よく聞くんだよ」


ランお婆ちゃんは、下を指さし、


「ここから、お父さんとお母さんをずっとずっと見守っていくんだよ。あきらが、みんなに見守られていたようにね」


「うん」


それからランお婆ちゃんは、馬になって空を走り始めた。



その日以来、あまり、起き上がることができなくなった。

熱も下がらなかったし、此処がどこなのかさえ定かではなかった。

目を開けると、お母さんの顔がうっすらと見えた。

ある時は可奈子さん。ある時はお父さん。ある時は学校の先生の顔が見えた。

だけど、すぐに目を閉じた。

目を閉じると、いつもランがいるからだ。

だから、目を開けることはしなかった。

目を閉じてランとお喋りするんだ。


それ以来目を覚ますことはなかった。


「ああっ、あきらちゃん…」


母が僕の冷たくなっていく体を抱きしめた。


「なんでっ!何でなのっ。この子が一体何をしたっていうのっ。ねぇ、何でなの…何で…」


お母さんはいつまでも泣いていた。


ランは、お母さんをじっと見つめていた。


お父さんがお母さんの肩を抱き部屋を出ていった。


「少し休みなさい」


と、優しい声をかけながら。


ランとふたりきりになった。

ランは僕の顔をペロペロ舐め始め、舐め終わると枕元で丸くなって目を閉じた。



僕のお葬式が終わると、仏壇に遺影が飾られた。

遺影の周りには果物や僕の大好きだったポテトチップスや、コーラが並べてある。

ランは僕の仏壇の前でじっと僕を見ていた。

遺影ではない。仏壇の中の生きている僕をだ。



それから暫くして、ランの後ろ脚が麻痺し始め、感覚がなくなったのか、動かすことができなくなった。

歩けなくなったランは、前脚だけで身体を引きずって移動した。


「ランちゃんこっちよっ。さあ、おいで」


お母さんはなるべくランの身体を動かすことを心掛けた。

後ろ脚も丹念にマッサージしてあげる。

そのうちに前脚も動かなくなった。


ランも寝たきりになった。

お母さんは、ランのベッドを僕の部屋に移動した。

笑っている、僕の遺影の前にだ。

ランは、横たわったまま僕を見つめている。



そのまま、目を開いたまま息を引き取った。


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