夢の中のふたり
年が明けて暫らくすると僕の容態が急変した。
救急車で病院へ運ばれた僕は、朦朧とした意識のなかでランのことを考えていた。
「ラン…ラン…」
僕は、病室で高熱にうなされながらランの名前を呼び続けた。
「あきらちゃん、ランちゃんは家で、あきらちゃんの帰りを待っているのよ。早く元気にならないとね」
耳もとでお母さんが優しく囁いてくれた。
毎日毎日、点滴をされた。
針を刺した腕が痛くてたまらなかった。点滴をする度に針を刺す場所が違っていたので、僕の腕は穴だらけにならないかと、心配になったほどだ。
ポタポタ
ポタポタ
点滴がたれる。
ノロノロ
ノロノロ
ランが歩く。
(なんだか似ているな、点滴がたれるペースと、ランが歩くペース…)
いつもいつも、ランのことを考えていた。
毎晩、夢にランが出てきた。
僕とランは、いつも夢の中で走り回っている。
夢の中の世界は、現実の世界とは正反対なんだ。夢の中ではいつもランと二人きり。だけど、現実の世界は、お母さんとお父さんもいる。
僕は、夢の中でらんと二人きりで生活したかった。
夢の中では熱も出ないし、追いかけっこもできるしね。
体調は、徐々に良くなっていった。
だけど、薬を飲むと、気分が悪くなりご飯も喉を通らなかった。
お医者さんにそのことを話すと、
「あきら君、お薬は、病気をやっつけるために飲むものだよ。病気に勝つためにも、頑張って飲んでいこうね」
と、言っていた。
それから暫くして、退院の許可が出た。
家に着くと、すぐにリビングに向かった。
ランはベッドの中で丸くなって目を閉じている。
「ランっ、ただいまっ!」
と、ランに抱きつく僕。
「らん、会いたかったよぉ。ランも会いたかったよねっ」
ランは、チラッっと僕を見てまたすぐに目を閉じて眠ってしまった。
僕も、ランのベッドに頭を載せ、ランの体に顔を埋めて目を閉じた。
「あきらちゃん、風邪ひくわよっ」
と、台所から母の声が微かに聞こえた。