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ボクとランのモノガタリ  作者: 今田信義
4/9

すきっ歯

僕の家はマンションの5階だった。

窓の向こう側には小さな公園が見える。

天気のいい日は、網戸越しから、ランとふたりで公園を眺めた。

ランの頭を撫でながら、


「ねえ、ラン、どうして、花は咲くのかなぁ?ランは、いつも花や草の匂いを嗅いでいるよね」


ランはボーッと前を向いてる。


「分かんないよね。ねえ、僕の言葉をランは理解できるの?」


ランは目を閉じていた。


「また、寝ちゃったよ」



ランは、1日のうち、ご飯と散歩以外はずっと丸くなって目を閉じていた。

名前を呼んでも玄関のチャイムが鳴っても、じっと目を閉じている。


「この子は、耳が聞こえないのかしら…」


お母さんは一時期、ランの耳のことを心配した。


「だけど、ご飯よって、話しかけると来るから大丈夫ねっ」


ランは、ご飯になると起き上がって僕たちのテーブルに近寄ってくる。


「はい、いい子ね。たんと、召し上がれっ」


はにかむように、お母さんはランの食器にドックフードを入れた。


ランは、お手もおすわりも何もできない。

だけど、トイレだけは絶対に家の中ではしなかった。


「どういう育てかたをされたのかしら?」


と、お母さんはいつも首を傾げていた。


ガツガツ


ガツガツ


ランはすぐに食べ終わる。


食べ終わると、僕を見上げる。

お母さんは、ランに人間の食べ物を与えないようにしていた。

家で引き取ってすぐ、予防接種をしにペット病院に行ったときに獣医師から言われたらしい。


「あきらちゃんもお父さんも、ランちゃんに食べ物あげたらダメよ。与えすぎると長生きできないんだから」


だから、僕は、ランを無視してご飯を食べる。


ムシャムシャ


ムシャムシャ


ランはじっと見つめている。


ムシャムシャ


ムシャムシャ


お母さんのすきを見て、こっそり、ランの食器におかずを落とす。


ランの歯はスキッ歯で、アゴも弱かった。だから、固いものをあげると、噛み砕くことができず、いつまでも口の中でムシャムシャしている。柔らかいものをあげないと、すぐにお母さんにバレた。

お父さんも、酔っ払っうと、すぐにランにスルメなどの酒の肴を与えていた。


「おーい、ラン、こっちにこぉ」


と、メザシやイカを与えてはお母さんから叱られていた。


みんが食べ終わると、ランも窓の隅に戻って目を閉じた。






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