友達
僕たち親子はマンションの一室に住んでいて、ペットを飼うことが許可されていたせいか、隣の家や、その隣の家の人も犬や猫を飼っていた。
小犬を連れ帰ってきた夜、早速、何て名前にしようかという家族会議が開かれた。
僕が、
「ジロちゃんがいいな」
と言うと、お母さんは、
「ジロって顔じゃないでしょ」
と、反論された。
お父さんは酔っ払っていつの間にか寝てしまい、家族会議は、お母さんと僕の2人だけになってしまった。
「あきらちゃん、可愛い名前にしましょうよ」
そう言ったお母さんは即座に、
「けど、確かこの子、10歳って言ってたわよね」
「うん」
「10歳の犬って、人間の歳で言ったら何歳くらいかしら?」
「わかんない」
「きっと、お父さんと同じくらいよ」
僕は驚いた。
「こんなに可愛い顔して、小さいのにお父さんと同じくらいなの!」
「そうよ。ワンちゃんはね、歳を重ねても、あまり変わらないのよ。シワができるわけじゃないしねっ」
お母さんは、笑いながら小鼻をきゅっとよせた。
結局、
『ラン』
と言う名前に落ち着いたが、別に、意味はなかった。
ただ、お母さんが、
「ランちゃんでいいわね」
と言ったからだ。
すかさず僕は、
「ランって女の子みたいだよ。お父さんと同じくらいの歳だし、オス犬だよ」
「いいの。可愛いし、大人しいから、いいじゃない」
と、膝元で寝ているランの頭を撫でて、お風呂に入っていった。
僕は、ランを見た。
ランは、ぼーっとした顔で僕を見つめ返した。
「らん、僕たちは、今日から友達だよ。明日から、一緒にご飯食べたり、お散歩行ったり、遊んだりしようね」
ランは、黙って僕を見つめ、すぐに丸くなって目を閉じた。
「すぐ寝ちゃうんだなこの犬は」
僕も、ランの横に体を横たえた。
「ねえ、ラン、僕はすぐに熱を出すんだ。なんでかな。みんな元気に遊んだり走ったり、缶けりとかしてるんだよ。なんで僕は走ることが出来ないのかな」
ランは目を閉じたままでいる。
「けどさ、僕もすぐに元気になって友達いっぱい作るんだ」
「そうしたら、一緒に外で遊ぼうねっ」
僕はランを抱きしめた。ランはされるがままに黙って抱かれていた。