第4話 聖断の間
「ここはあの時の森なの?」
カレンはまず一番最初に思い浮かんだ疑問を口にした。
「もちろん違う。ここはあの森に連なる系譜なんだ」
「ふぅん…」
(うーん、全然分かんない…)
「分からなくていい、兄弟のようなものだって感じられれば」
モノリスのその答えに思わずカレンは匂いを嗅いでみた。
共通性があるのなら何か気付くものがあるかもと考えたのだ。
森の匂いは森ごとに個性がある。
木々の匂い、大地の匂い、風の匂い、そして…
森の匂いを嗅ぐ事でカレンの意識が広がったその瞬間、カレンはここではない何処かへと飛んでいた。
周りの景色がゆっくりと消え、そうして変わりに新しい景色がカレンの周辺に浮かび上がっていく…。
「ここが君に来てもらいたかった場所…」
「な、何?あなたがこの場所に?」
「そう…聖断の間と我々は呼んでいる」
「聖…断…?」
はっと気がついたカレンはグルッと周り見渡した。
聖断の間と呼ばれたその場所には複数のモノリスが立っていた。
「ひぃ…ふぅ…みぃ…」
カレンはその場にあるモノリスの数を指差し確認する。
「全部で6体…まるで時計みたい」
円周状に等間隔に並ぶモノリスにカレンはそんな感想を漏らした。
その中心に立つカレンの影…その光景はさながら日時計だろうか。
「何かすごく不思議な感じ…」
「僕達は意識を共有している…誰と話しても構わないよ」
「私…やっぱり私にはまだ…」
カレンは答えるのを躊躇した。
自分の答え次第で世界が大きく変わってしまうかも知れないと言う責任に耐えられなかった。
「難しく考える必要はないよ…今を望むか、新生を望むか」
「そんなの今を望むよ!このままが続くのが一番いいよ!」
「本当に今のままでいい?」
「やめてよ!私には決められない!」
カレンは耳を塞ぎしゃがみこんだ。
子供の頃から成長したとは言えまだ彼女は女子高生。
世界の命運を決めるにしてはまだ幼すぎるのではないだろうか?
「直感で答えて欲しい…君の感覚は今、星の意識と通じている」
「その意識と自分の考え、魂と対話するんだ」
「そうすれば自ずと答えは導かれる…」
カレンはここに呼ばれた理由を心の中で考えていた。
すると様々な意識が心の中に流入してくるのを感じていた。
(これが…星の意識…?)
多くの人々の祈りがカレンの心に届く。
人々の祈りはこうしてこの星へと届くのかと彼女は感じていた。
人々ばかりじゃない…多くの動物達、植物達の波動が彼女の心を震わせていた。
そしてその意識の深層には大きくて暖かくて優しくて厳しい存在も…。
「時間がないって…」
「僕達も星の意識とコンタクトを取っている」
「そう それはこの星の…」
カレンは地球の意識を感じる事でこの星の状況を知った。
身体としての地球は長年の循環により衰えはまだ見せていなかったが
心としての地球の意識はもうボロボロだった。
マイナス感情が人の心を弱らせるように多くのこの星の生物の負の意識が星の意識を衰弱化させていた。
「ねぇ…新生を選んだらどうなっちゃうの?」
「新生はこの星の環境を新しい環境に作り変える事なんだ…今の多くの生物はその環境に耐えられない」
「え…」
「けれどいつかはそうしないとこの星はやがて力を失ってしまうだろう」
モノリスの話によれば
星が力を失えば循環の調和は崩れ天候は荒れ地震は多発し…やがて生命 の住めない惑星になってしまう。
それを防ぐために環境を作り変える事でその危機は回避されるが環境が変わるために多くの生物はその変化に耐えられず死滅し、新しい環境に耐えられる生物のみが生き残る。
つまり生物が全て滅ぶのではなく新しい環境に耐えられない生物だけが滅びると…。
勿論人類も例外ではなくその多くが耐えられないだろう…と言う事だった。
地球の事を思えば今すぐにでも新生をした方がいい。
けれどそうすれば多くの命が失われてしまう…。
カレンは流れてくる地球の苦しみと自分たちの未来の板挟みになってしまった。
そしてこの星に流れこむ負のイメージが彼女の心を蝕み始めていた。
「ダメだカレン、あまり入れ込み過ぎちゃ!」
「ごめん…手遅れかも…」
カレンはしゃがみこんだまま意識を失ってしまった。