第3話 森とモノリス(2)
「僕達モノリスは星の発展に寄与する存在として送られた…
長い年月をかけて生命は適切な発展を経て今の状況へと移行してきた
そして生命がある程度発展した今、次の段階としてその星の住人に未来の選択権が与えられたんだ」
モノリスは地球ではない何処かからこの星の生命を発展させる使命を帯びてやってきた。
最初の計画は現住生物を高度な知的生物までバージョンアップさせる事だった。
その次の計画がグレードの上がった原生生物に次の未来を選択させる事だと。
「どうして私…なの?」
カレンは根本的な質問をモノリスに投げかけた。
今の彼女は特に何かの能力に秀でた人間ではない。
だからこそモノリスに自分が選ばれた事が不思議でならなかった。
「君は石と心を通じる事が出来る…約束の子供なんだ」
ちなみにカレンが石の声を聞けるようになったのはこの後の事。
この時点で彼女はまだ石が好きって言うだけの普通の少女だった。
だからこのモノリスの答えにも納得は行っていなかった。
「私が未来を選ぶの?そんなのまだ分からないよ」
「分かった…それではまた経験を積んだ頃に会おう…」
カレンは今の状況が夢か本当が分からなくて混乱していた。
だからこそ自分を落ち着かせるためにその事をモノリスに質問した。
「ねぇ…これは夢?それとも現実?」
「君が望むのは?」
「え…?こんなのまだ信じられないし多分誰も信じてくれない…」
カレンは素直に自分の心情を吐露した。
選べるとするならこれは夢であって欲しいと願った。
子供心に不条理な発言が周りに及ぼす影響を恐れたのだ。
「分かった…それではこの記憶は私が預かろう…私の力を使って」
「それって大丈夫なの?」
「大丈夫…少し僕の力がその瞳に宿るだけだよ」
モノリスはそう言ってカレンを強い光で包み込んだ。
次にカレンが意識を戻した時、不思議な事に彼女は近所の空き地に横たわっていた。
それまでの記憶を忘れ、瞳を翡翠の色にして。
それがずっと忘れていたカレンが翡翠の瞳になった理由だった。
全ての記憶を完全に思い出した時、彼女を包む翠の光は消えていた。
そしてカレンはゆっくりとまぶたを上げた。
現実の世界に戻って来たのに意識はまだ夢の中にいるようだった。
(そうか…私は未来を選ばなくちゃいけないんだ…)
この合宿で訪れた森はあの時カレンが迷い込んだ森と同じ森なのだろうか?
隕石の爆発で一瞬で燃え尽きた森がそんな簡単に復活するはずがない。
だから本当のところはまだよく分からない。
ただ、目が覚めたカレンの目の前にモノリスがある。
見つけた時にただの大きな石だと思っていたそれはあの時に遭遇したモノリスだった。
当時と形は変わっていても醸し出す雰囲気でそれは間違いようがないとカレンは感じていた。
「久し振りだね」
カレンはモノリスに向かってそう言って笑った。