少しの時間が流れ
あれから1月ほど経った。その間に判明したことといえば
・とてもすごい左手剣+20さんはマジでとてもすごいさんだった
・オオアゲハの魂付き装備はすごいレアになってた
・上級職への転職法は不明になってる
・宿屋のラミリスおばさんは可愛かったらしい、ミミリスちゃんは進行形で可愛い(確信)
ぐらいか。
まずすごいさん何だが元々はただの左手剣だ、盾の代わりに左手に装備可能な短剣で相手の剣を絡みとって折るとか出来る的存在。英語で言うとマインゴーシュ。どうも日本版翻訳の都合でこんな名前になってるらしいんだが普通に右手装備にも出来る。
で、何がヤバイかって言うと強化値がアホみたいになっていることだ。βテスト終盤に鍛冶が実装された時作った物なんだけど本サービスが始まると強化を進めるにしたがって破損率が付くようになったんだよな、+10を超えた辺りから消失との戦いが始まる仕様で廃人ががんばって+18ぐらいで妥協するレベル。
+の数値にしたがって追加ダメージが発生するから幾人もがチキンレースを繰り広げたという恐ろしいゲーム内マネー回収機構だ。
βの時に作っておいて本当によかったよ、成功率はともかく壊れなかったからな。いまさらながら鍛冶職のアレクソンさん感謝。
それと鍛冶製造の段階でレア鉱石を混ぜると一定確立で頭にとてもとかすごいと付いて防御無視ダメージが発生するようになる、つまりその両方と+が付いてアホみたいなダメージがでているわけだな。
ただし実用的なのはゲーム序盤まで、そもそも左手剣自体弱い武器だし。それ以降は普通にもっと強い武器を強化した方が強くなる。
レベル制限でそれらの武器が装備できるまでのつなぎとして育成に使ってたぐらいの品なんだが見た目は普通の短剣なのにこんなに役に立つとは思わなかったよ。
ただし雑魚モンス相手に限る。ダンジョンのボスとかは流石に無理だろ……多分。
ベルトに刺してるだけでなぜか素手攻撃の威力まで上がる謎仕様になってるようで攻撃モーションなんてなかったんや。
リュックにしまうと普通にジェリーを倒せるようになったよ! アイテムもドロップするよ! やったねジズァーちゃん。
次に悲報:オオアゲハさん絶滅 更改間に合わなかったもよう
何時の間にかひっそりと幕を下ろしていたらしい、どうやって狩り尽くしたんですかねぇ……おかげでドロップ品が高騰して金持ちしか持ってないとかなんとか。
そりゃ供給が無いなら高騰するしかない罠、悲劇やな。
何度かテレポートの実験をしてみたところある程度の性能が判明した。まずマップ内ランダムテレポートではなくなっている。
そもそもサーバーの管理の問題で一定区画をマップとして区切っているだけなんだよな、リアル世界では境目なんてないし。現在地点に戻るまで歩いて1、2時間から換算した結果だが半径3~4kmぐらいの範囲をランダムで移動している。
街中で試すと家の中や屋根の上なんてところには飛べないので侵入不可の場所はあるらしい、街の外だと崖の上とかにもでるからそこはゲームと同じ仕様のようだ。
運が悪いと最初の場所から延々と離れて行ってしまうのは利点なのか欠点なのか……おいおい確かめることにしよう。
それから現在のプレイヤーというかプレイヤーがやってたプレイをやっている人間、所謂冒険者は初心者から次の職までしか転職できないらしい。それぞれの都市にあるギルドに登録したら剣士だの魔法使いだのと名乗れてスキルも覚えることが出来るようだ。
剣士の場合上級職に騎士と教会騎士、侍があったはずなんだけど転職クエなんてものがあやふやになっているのか何十年か経験を積むと気が付いたら新しい職になっているとか何とか。
そもそもレベルという概念が無いせいか指標が決められない。才能が有る人はもっと早いみたいだけど下級職のまま延々と旅するとか正直アホかと思った、効率的な意味で。
Pスキルは磨けるんじゃないかな? まあ一般論でね。
一方で村人とかは狩りをしないせいか一生村人のままってのを聞いたときはうわぁ……一般人の性能低すぎってなったわ。
例外として親が上級職なら最初から上級職のスキルを覚えられるというので血筋は重要視されているようだ、いや下級職でも重要なスキルはあるはずなんだけどそこの所はすっ飛ばして大丈夫なんですかねぇ。
重要スキルとらずに転職する僧侶とかPTお断られるレベルなんだが……まあ回復職はやったことないから詳しくはシラネ。
そんなわけで毎日野山を駆け回ってドロップ品を売る生活を続けていたところなんとなく収入も溜まって行く様になったし何とか生活できそうだ。
当面の目標は蜂の巣ダンジョンにいけるようになることにした、魔道師キャラの最終ログアウト地点だ。何か痕跡が残っていればいいんだが……
あと蜂の巣で取れる蜂蜜で作った飴をミミリスちゃんに上げて見たんだがなかなかチョロインになってくれない件について。15歳だからセウト、異論は認める。
大体そんな感じで人生日和を過ごしていたんだが今俺は首都から南に3マップ東に2マップの地点に当たる港町ニョルズに来ています。
なんでかって?
あれは昼前ぐらいだっただろうか、いつものように野山に混じりてジェリーを採りつつ万の事につかおうとしている俺、名おばジズァーのアイオンとなむいひけるがテレポで遭遇したのは狼の群れに襲われている集団だった。
いや襲撃イベントって起こるんだね、しばらく静観していたが戦っている冒険者達がこちらに向かって逃げてくる。
「サム、逃げるぞ馬鹿野郎」
「前金分働いたからここまでだぜ」
「でもっ、でも」
「心中はごめんだ、俺は逃げさせてもらう」
残っているのは馬車に乗っている商人らしきおっさんと剣士が1人だけだ。あっ、剣士さん弱肉強食で輪廻に入られましたわ。ああ無常。
諸行って本当に難しいなと思っていると何匹かこちらに向かってきている、まったくもって理不尽だがこの一ヶ月俺がただ歩き回っているだけだとでも思ってるの? 馬鹿なの?
いやテレポで森の中に飛んだと思ったら中ボス狼がいる群れに襲われたことがあってさ、死ぬかと思ったら噛まれても痛くないのね。レベル補正でもあるのか革装備のジョブなのに案外頑丈で助かったよ、そんで雑魚を蹴散らして中ボスと戦ったんだわ。
さすがに中ボスは強かった、具体的に言うとすごいさん装備で切りつけても爆発しないぐらい。なのでみんないっしょうけんめいたたかっているをした結果勝利。そりゃ相手の攻撃くらってもノーダメなら勝利できる罠、狼さんは逃げるべきだったね。モンス的に考えて探知範囲に入ったら死ぬまで攻撃してくる仕様なんだろうけど生物本能という物はないのかと問いたい。
切りつけると血が出たけど倒したらドロップ品を落として消えていった、どこまでがゲーム仕様なんですかねぇ……まあ解体とか怖いし汚れるのもいやだからいいんだけどさ。
そういえばこの辺りのフィールドボスってキングジェリーと大狼だったな、中ボスなら普通に戦えるとかおかしい気がしないでもない、いやゲームなら雑魚モンスを作業狩りしてレベルを上げてたからある意味正しいのか?
なんてことを考えていると脛に噛み付いている狼がいることに気づく。ああ、そんなのあったね。
すごいさんなしパンチでアイテムに変えた後馬車の方へ近づいていく、長物を振り回しているが商人は装備できたっけか? リアル仕様ですねわかります。
「もしもし、お困りでしたら手伝いましょうか?」
「おおおおおねねえがいしますひぃぃぃぃいいいいい」
見事なパニック状態だがどこもおかしくはない、群れに囲まれて護衛らしき人が貪り食われている様を見ればそうなる罠。これはグロ画像注意。
流石に人間はsinでもアイテムになるってことはないらしくスタンダールもびっくりなぐらい赤黒い。これはうまくないな、フロイト先生はよ。
慌てずすごいさんを装備してただの鉄のグリーブキックをお見舞いしていくと皆はじけ飛んで爆発になる、やはりすごいさんは格が違った。
「ああありがとうございます、まさかこんなところで群れに襲われるだなんて」
「まれによくあるらしいですよ、護衛の方はちゃんとしたところで雇われました?」
「いや……街の出口で移動先が一緒だから安くでいいというので」
背伸び冒険者、便乗しようとして危険に晒す なお一名死亡したもよう
「それはまたひどいですね、ちゃんとしたところから紹介してもらう方がいいですよ」
「身にしみて分かりました。これからはそうします」
「それがいいですよ、では俺はこれで」
だるいし今日はもう帰ろうか、がんばった自分へのご褒美でおいしい物食べよう。
「ま、待ってください。港町までの護衛をお願いできませんか? 報酬はこのぐらいで」
商隊襲撃イベントが起こってたのを助けたら護衛してくださいと頼まれました。ただし――半泣きで髭面の兄ちゃんにだが。美少女商人なんてなかったんや……
姉も妹もいないなどと供述している商人ジャックさん(仮名)の荷馬車に揺られて半日ほどで到着、死んだ護衛から装備をはがして積んでいる辺りたくましいことだ。
道中アクティブモンスらしき猪が突進してきたが投石が当たると破裂した。いったいどこまでがすごいさんの効果が乗るんですかねぇ、慣性とはいったいなんだったのか……まあ便利だが。
報酬も貰ったし髭兄ちゃんのことは記憶から消す。せっかくなので観光していこう、その前にこの街には剣士ギルドが有った筈なので寄って見ないとな。より詳しい仕様が分かるかもしれないし。
早速ギルド前に到着だ、いかにもな頑丈そうな建物だが転職クエが終わって以来来たことがなかったな。むしろそれ以外で来る必要が無いという悲しみを背負っているような気がしないでもない施設だが運営ェ……とりあえず中に入る。
なんていうかむさい、そりゃ前衛職は全般的に男くさいのが多い傾向だけどあまりにもおっさん率が高すぎる、癒しはないんですか? 中の人はともかく女キャラでも性能は同じでしょう? やはりリアルは格が違った。
避けるように人ごみを抜けてカウンターまでたどり着いたが空だ、隣に並び直すか。振り返ろうとしたその時だった。
「こんにちは、何かお探しですか?」
おや、声がどこからか聞こえるぞ? よく見ると奥から小さな人影が近づいてきている。いやなんで子どもが受付をしているんだと思っていたら効果音がおかしい、なんかドシンドシンと重量感が溢れている系の不具合で聞こえてくる。
何度か瞬きして確認してみたが俺の目に映っているのはミニチュアフルアーマー幼女だった。