アイライクジェリー
オッスオッス、俺の名前はジズァー・アイエン、高二病を患った時に発症したのは哲学と神秘学。趣味はタロットカードと占星術です。
うん、まあなんだ。転生とかトリップとかそういうのをしたらしい。
金髪ポニーテールの若者になってた、何を言ってるか分からないと思うが俺にもなんだかわからない。体が縮んでしまった以上の恐ろしい片鱗を味わったぜ。
あれから一週間ぐらい街の中を見回ってみたんだがここは本当に首都レーヴァのようです、夢にみたけど、夢じゃなかった。 やかましいわ。
城壁の外? 見た目は牧歌的だったけどモンスがいるかと思うとちょっと……いや今の俺は剣士Lv30ぐらいだから余裕のはずなんだけどね? 心構え的な意味でそれはちょっと後回しだ。
ほんとにゲーム世界だと気づくまでに相当時間がかかったがこういうのは高校生までの妄想なんじゃなかろうか。神とか天使が出てこないとか手抜き過ぎるでしょう? レベルが見えるわけでもなし何装備してるかも分からないし本当に不親切だよ。
この一週間が幻覚や夢じゃなければここはアースガルドオンラインの中の首都レーヴァ、時代はわからないけど俺が最後にプレイしてた辺りまでの地名はそのまま出てきているようだ。
じゃあ何が出来るのか? という問題が発生したが職業は剣士です(キリッ とやってみたがちょっと自分でやっててドン引きだわ、いや職業というかジョブシステムなんだけど最初は初心者から始まって
・戦闘系
・魔法系
・商人系
の三種類に派生してその中でさらに2~3種類に転職してどんどん上位ジョブに変わっていく仕様のはずなんだ。で、俺はいま戦闘系前衛職剣士になってるはず。少なくともゲームの中ではそうだった。
垢1つにつき3人までキャラクタークリエイトが出来て最初に作ったキャラがこのジズァーだ。没落貴族の3男で家を飛び出し旅暮らしとかそういう設定だったような……詳しい内容は黒歴史なんで勘弁な。
ただいくつか問題があって……まずステ振りに失敗している。
戦士系のキャラは固くするか回避を上げるかして前衛としてやっていかないといけないんだけど均等にステータスを振った結果どうにも中途半端なキャラクターが誕生してしまった。
おまけに商人と違って取引スキルが無いから自分で仕入れも出来ないしアイテム積載量もそれほどじゃない。仕方が無いので首都近辺での取引用キャラとして運用してた。
メインで使ってた2人目と3人目のガチ構成キャラなら無双できたのにな、悲劇やな。
次にたいした装備は持たせていなかったせいもあるが首都近辺の雑魚ならともかくガチダンジョンのモンスなら一撃とは言わないが二撃ぐらいで死ぬと思う。むしろ殴られたら痛みで動けなくなりそうだ。
街の入口にある石像でやってた倉庫サービス(通称お地蔵さん)はなかったことになっているし俺のしまっていたアイテムはどこへ行ってしまったんだろう。
幸いにも近距離移動用に持たせていたテレポートのタリスマンとβテストの最後に作った『とてもすごい左手剣+20』(正式名称です)らしきものがあるのでいざという時は逃げるか戦うか出来そうだが。
なんでよりによってこのキャラで始まってしまったんですかねぇ……レベル80の魔道師か98の狩猟者の方にしてくださいマジで。
あと黄金蜂の魂と合成用アクセサリもセットで持っていたがこれはどう活用するべきなんだろう……ボスドロップの中でも魂は0.05%でドロップすると言われているぐらいレアだ。見た目はビー球サイズで黄色く光り蜂の模様が浮かんでいるから間違いないと思う。
装備スロットに埋め込むと様々な効果を発揮する魂だが露天で見かけるのは雑魚モンスのやつぐらいだ、地味な色合いで区別がつきにくいがそれぞれ模様が浮かんでいる。比べる対象としては微妙だがそれでも100000sとかする。通貨単位はセルで1s=1\位だと考えて欲しい。ゲームの中では数値のやり取りだったがリアル仕様では硬貨でやり取りするようだ、数字が入っているから大体分かるというか会話に文字も日本語が通じて助かってる。
で、それがボス魂となると億の単位で取引されていたはずなんだ……けどリアルアスガル世界では同じ扱いなんだろうか。
宿屋が一泊2000s、一食500sぐらいなので売れたら一生遊んで暮らせるんだが……どうしたもんかね。
取引用キャラだったから財布の中身はまだ余裕があるけど収入が無いのは困るので外に出て稼げるか試してみないといけないがどうにも踏ん切りがつかないな。
とりあえず南門から出てノンアクティブのモンスでも見てみるか、やばそうだったらすぐ戻ってくればいいし。
そんなわけで南門をくぐって街道を進んでいく、人だかりがかしこに出来ているがこっちはゲームのときと同じなのかな。鎧姿で槍を持っているのもいればローブに杖で魔法使いらしい人間、露天を開いている商人や野菜を背負った村人らしき人まで様々だ。こういうのでいいんだよこういうので。
とりあえず先へ進むと見渡す限りの平原でたまに林も見えるが視界は良好だ。さてそろそろ何かに出くわしてもいいころなんだが……いた。
最初に遭遇したのはゼリー型モンスターのジェリーだ、遅い柔い非力と三拍子揃った雑魚モンスで水滴のような形を変えて弾みながら移動している。色違いでやばい奴もいるが公式マスコットにもなったんだったかな。
とりあえず攻撃してみようか……と思ったら2匹いるのか? ジェリーが重なってぷるぷるしているんだが……こいつ……ジェリーを喰ってる。
リアル世界パない、生存競争に情け容赦がない。
まさか共食いするとかどういう生態してるのかと問いたい、いやまてよ? ひょっとして合体してるんじゃなかろうか。交配的な意味と融合的な意味、両方ありえそうだ。10体集まったら巨体になるかも分からんね。
漁夫のベネフィットを得るべく突撃だ、2匹おいしいです^^ 全力で物理キック、相手は死ぬ。
ジェリーが弾け飛びました、爆発的な意味で。
まず装備を確認しておこう、アースガルドオンラインでの装備カテゴリは
頭
体
首
腰
外套
靴
アクセサリ*2
に加えて片手武器と両手武器、盾を選択するようになっている、今は
頭 革のヘルメット
体 ハードレザーロングコート 蛾繭の魂(HP+10%)
首 タリスマン オオアゲハの魂
腰 革ベルト
外套 革マント
靴 鉄のグリーブ
アクセサリ なし
右手 とてもすごい左手剣+20
左手 鉄のバックラー
のはずなんだがぶっちゃけほとんど店売りの貧弱一般装備です。あとは干し肉と果物、水筒が入ったリュックを背負ってるけどインベントリが無くなっている系の不具合、修正されてください。
それなのにサッカーボールキックが決まったと思ったら超エキサイティング状態になったでござるの巻、あわれにもジェリーは飛沫になる。
いや威力高すぎじゃないですかねぇ……倒したときのエフェクトってモンスによって様々だけどジェリーの場合は水風船みたいにはじけるだけだったような。
パッシブスキルで片手剣熟練を取ってたはずだからそれが効いてるんだろうか? それにしたって車に接触したかのように吹き飛んで小規模だけど爆発するとか想定の範囲外です。何これ? ちょっと安全委員会かGMに調査してもらいたいんですがヘルプとメールボタンが無いからどうしようもない件について。
何時の間にかリアルではモンクタイプになってしまったんだろうか? その時俺に電流走る……転生チートか前世の記憶補正来たんじゃね? これで勝つる!
「私はジェリーが好きです、転生補正はもっと好きです。ということはそろそろ商隊襲撃イベントとか街娘が絡まれてるのを助けるイベントが起こる可能性が」
ないな。オンゲーでそんな個別イベントなんてチュートリアルぐらいだわ。いやリアル世界になったんだからありえなくもないのか?
しばらく考えていたが一向に起こらないところを見ると元から存在しないかフラグが足りなのかも分からんね、仕方が無いので探索を続けよう。
それからウサギや芋虫なんかのモンスを何匹か倒したがどうしても爆発コンボで吹き飛んでしまう、パンチなら大丈夫かと思ったら同じでしたサーセン。剣とはいったいなんだったのか。
1時間ぐらい経っただろうか、平原が終わって鬱蒼とした森との境目に着いたが流石にこの中に入るのは怖いな。
よし、ここはテレポートで帰ろう。
スイマセンスキルってどうやって使うんですかね? HPやMPが確認できないし本当に使えるんだろうか? それにシフト押しながら1とかそういう操作できないでしょう、リアル(笑)。
笑ってる場合かバカ、あれだこういうのは叫べば大抵なんとかなる仕様に違いない。頭の上に吹き出しが出たら成功だろ。
「テレポー」
「――ト?」
視界が切り替わったと思ったら*もりのなかにいる*状態です。そういえばマップ内をランダム移動でしたね。いしのなかじゃなくて本当に良かったんだけど……え? 南口マップにこんな森あったっけか?
すいませんやっぱり仕様が違ってる問題が発生してます、GMはよ。いや3年間もやってなければ地形がアップデートされることぐらいあるかもしれない、そもそもリアル世界の段階でそこは当てに出来ない罠。
しかしどうしたものか、右も左も木しか見えない。MP消費を考えると10回も使えればいい方か? 剣士にMP量を期待すること自体間違いだが街中のテレポートなら十分だったんだよな。
とりあえず座ってれば回復するかもしれないししばらくじっとしておこうか、遭難した時は動くなって言うしな。
小腹が空いたのでリュックから干し肉を取り出して齧ってみる、サラミみたいで案外いけるな。銅だか錫だか分からない水筒を開けて直接口をつける、ぬるくて微妙。魔法瓶さんやコンビニは本当に偉大だったんやろなあ……冷たいもの売ってる店があればいいのに。
人心地が付いたので少し歩いてみるか、リュックを背負いなおしてとりあえず草を掻き分け真っ直ぐ進んでみる。
しばらく進むと木の間隔が広くなって見通しがよくなってきた、水の流れる音も聞こえる。
かわらにたどり着いたぞ! 記憶を辿っていくと首都の南西に流れている川だろうか、上流に進んでいけば帰れそうだ。
まったくランダムテレポったって範囲が広すぎるでしょう。
それから2時間ぐらい歩くと街までたどり着けた、テレポさんを使う時は慎重にしようと思いました。
やけに疲れたのですぐに宿屋に入って就寝。