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僕らのシナリオ  作者:
1/1

はじまりの春










穏やかな春の空気、なんていうのは安っぽい歌とかドラマとかによく聞く言葉だ。




でも僕はそんな春の空気は嫌いじゃなかった。


ちょうど良い日の光に、目にとびこむ鮮やかな景色。


でも慌ただしい春はどちらかというと嫌いで、みんなが落ち着き始めた時期がちょうど良い。



用は、そういうこと。



安っぽい歌でも、安っぽいドラマでも、僕らの生活のほうがよっぽど安っぽいのだ。


世間にはヒーローと呼ばれるような生まれつきの英雄がいて、そうじゃない僕みたいなやつは、ベタな人生を送るしかない。


でもそれは嫌いじゃない。


目立つのは苦手だし、疲れそう。


かといって僕は自己嫌悪したりだとか、ネガティブなわけでもなくて、僕は僕のベタで普通な人生に満足してる。




特に現実的な夢があるわけでもなく、日々平々凡々と生きている。




そんな僕の、小さな、小さな、はなし。

























春っていうのは、いろいろなドラマや少女漫画なんかで、あまりにもベタなはじまりの季節だ。でも実際、春にはそんな素敵な何かを期待させてしまうような不思議な感覚がある。


桜に世の中はピンク色に染められ、暖かい日差しが優しく包み込む。冬の寒さに凍えていた人達がせかせかと動き始めたり、逆に春先の忙しさから開放された人々が気を緩めてのんびり過ごしたりもする。


僕は素直に、そんな春が好きだった。


窓から差し込む日差しが少しずつ鋭くなってきて、薄く柔らかなカーテンが幻想的に揺れながらそんな日差しを和らげてくれている。遠くから体育の掛け声が聞こえる中で、静まり返った教室には黒板を走るチョークの音が響いていた。


数学の田中先生が書き連ねる数式はどれもすでにノートに書き上げてあり、僕は頬杖をついて重たいまぶたを必死で持ち上げた。


2年生にあがって、クラス替えによってそわそわとしていた雰囲気もやっと落ち着いた4月の下旬。新しいクラスはうるさくも静か過ぎてもなくて、穏やかな空気が漂う良いクラスだった。しかも最初の席替えで当てたのはこの一番後ろの窓際の席。最高のポジションだ。それだけで人生うまくいっているような感覚に陥るのだから、自分はとても単純なんだと思う。


(お腹、へったな......... )


そう考えた途端に小さくお腹が鳴って、ほんのり顔が熱くなる。すると隣の席からくすくすと笑っているような息遣いが聞こえて。


横を見ると、しばらくのお隣さんになる天野奈々がノートで顔を隠すように笑っていて。


天野とは小学校からの仲だ。この学校は地元からだと自転車でも少しかかるし、近くにいくつか他の中学が点在するおかげで、小学校からいっしょの同級生は数えるほどしかいなかった。そんな天野と同じクラスで、隣の席になるというのも何かの縁なのかもしれない。天野とは小学校のころから特に仲が良かったし、この席がこれだけ楽なのも隣が天野だからというのもあるだろう。


(おなか、すいたね。)


笑いながらだれにも聞こえないような声でそう言う天野に照れ笑いをし、


(せいちょーきなの。)


と返したところで、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。


「はい、じゃあここまでー。委員長。」

「はい。起立、礼。」


委員長の飯島さんの号令と共に教室にざわめきが満ちる。大きくあくびをし、ノートを引き出しにしまっていった。


「ごはん、いっぱい食べてきてね。」


すでに隣でお弁当を取り出して立ち上がった天野が意地悪そうに笑う。


「変なとこばっか聞いてないでよ。すごいはずかった。」

「あはは、さすがに気になっちゃった。」


「ななー!中庭行こー!」


「はーい、じゃ、またね。」

「ん、じゃね。」


天野を見送り、かばんから財布を取り出す。


「みーやけー!はやくしろよ!学食いくぞ!」


間延びした声で呼ばれそっちを見ると、クラスメイトよりも頭一つ背の高い中村がこっちに向かって財布をひらひらと降っていた。


「へーい、ちょいまちー。」


財布をポケットに入れたことを確認すると、俺は中村に着いて学食に向かった。



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