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 ベーコンが焼けたところで、皿に盛りつけてふたりでテーブルへ向かう。

 もう何度も繰り返した光景。なのに、お嬢が椅子に座るたびに、胸の奥にある柔らかい何かが灯る。


 俺はカクテルを飲みながら、お嬢はコーラを飲みながら、ふたりで同じ皿のベーコンをつつく。


「ねえ、おじさん」


「なんだ?」


「レモンって、アイスにしたら美味しいのかな」


「アイス?」


 突然の話題に目を瞬かせると、お嬢はストローをもてあそびながら続ける。


「今日バイトしてたらさ、アイスの発注のレシートがあって。レモン味のアイス……じゃなくて、レモンシャーベット? そういうのがあったの」


「ああ、シャーベットな。さっぱりしてて美味いぞ」


「食べたことある?」


「そりゃああるさ。大人になると、濃いアイスよりシャーベットがありがたい時があるんだよ」


「へえ……。なんで?」


「胃に優しいから」


「おじさん、年寄りみたい」


「ほっとけ」


 いや、実際年寄りなんだが。


 とはいえ、お嬢とアイスの話なんて珍しい気がする。

 俺はレモンのカクテルを飲みながら、つい興味が湧いた。


「お嬢はアイスだと何が好きなんだ?」


 すると、お嬢は少し考えてから答えた。


「バニラ。いちばんシンプルで、いちばん安心する味だから」


「そう言うと思った」


「え、どうして?」


「君、甘いもので安心するタイプだろ。……普段の環境が環境だからな」


 言った瞬間、しまったと思った。

 お嬢は敏感だ。家庭の話題になると、どうしても心が揺れる。


 だが彼女は、意外にもふっと笑って肩をすくめた。


「うん。バニラは優しい味がするから。嫌なことあっても、これ食べれば落ち着くって感じ」


「なるほどな。そういうもんか」


「おじさんは?」


 そう聞かれて、俺は少し悩んだ。

 俺は基本的に酒で満足してしまうタイプだから、アイスについてじっくり考えたことがあまりなかった。


 だが——。


「ラムレーズンだな」


 即答していた。


「ラム……? レーズン……?」


「大人っぽいだろ? 酒が入ってるしな」


「あ、そうか、ラム酒だ……」


 お嬢が妙に納得した顔をする。


「おじさんらしい」


「だろ? アイスでもアルコールに頼りたいんだよ、俺は」


 言うと、お嬢は声を立てて笑った。

 笑い声が家の中に満ちると、こんなにも温かくなるのかと、胸の奥で驚いていた。


「じゃあさ、おじさん。もしレモンのアイスがあったら、食べてみたい?」


「まあ、試しにはな。レモン好きだし」


「じゃあ、今度買ってくるよ」


「お嬢が?」


「うん。おじさんに食べさせたい」


 少し照れ臭くなる。

 俺は誤魔化すようにカクテルを飲んだ。


 レモンの酸味が喉にしぶくて、どこか胸に響いた。


「……君は、ほんとに俺のことをよく見てるな」


「だって、毎日一緒にいるじゃん」


「毎日……そうだな」

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