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天より子、降り

 昼休みが始まったくらいに、俺はパーソナルワールドに飛び立った。

 ここに来るのは三回目。変わらず空は雲で真っ暗、雨は常に降り続けていて、雷は十分のあいまもなく鳴り止まない。


「やっぱり服はいらないな」


 前は雨で濡れて煩わしかったが、可能な限り脱ぎ捨てたおかげで気分は快適。

 短パンにするかスカートにするかで悩んだが、ズボンは濡れた時張り付くかも知れないと考えて、スカートにした。それが功を奏してこっちも快適。


「さて」


 全身に雷を纏わせる。

 熱い、痛い、それがいい。雷と一体化している感覚に浸れる。


「行くか。今日は周囲の探索だ」


 一回目の転移の時、最後に戦って負けた巨大な鬼へ再挑戦することも考えた。

 だが新しい武器を手に入れたばかりで、その戦い方に慣れていない。もっと戦闘経験を積んでから挑みたい。

 今日はさらなる強い武器を求めて、拠点となる街を探したい。

 ……森と雨雲と雷、それとモンスターしか見たことないから人の住む場所があるのかどうかわからないけど。


「“雷奔”」


 バチ———ッ。

 今いた場所にイナズマを残し、瞬きする内に黄金の火花を纏って走っている。

 さっき月城(つきしろ)さんにこの走る技を見せた時、彼女が見た光景をそのまま教えてもらい、名前も付けてもらった。

 雷奔とは雷のように走る例え。あまりのスピードに、降り落ちる雨粒がスローモーションに見える。


(やっぱり木が多い)


 スピードを少し落とす。木をかわすためだ。

 そしてこのまま森の中を走り、街を探す。

 途中、モンスターがいたので〈天狗の雷斧(シエルドッグ)〉で切り伏せていく。

 だが途中、俺の攻撃を受け止めて来た牛の化け物がいた。前に戦ったミノタウロスと同じようだが、あれより強い。斧を掴んで拳を突き出して来たので、それを大きく後ろに飛び退くことでかわす。


(戦うか? いや)


 今の目的は街探しだ。

 モンスターは後回し。

 ……またここに来よう。

 ミノタウロスを避けて、さらに進んでいく。


「これは、山壁?」


 ほどなく進むと険しい山肌に行手を遮られた。

 山に沿って走っていくと、今度は深い奈落の崖に当たった。


「ん、向こう側に雨雲がない?」


 影の向こうには青空が広がっていた。

 雨雲と晴れ空の境目が、この崖だった。


「……渡ってみるか」


 周囲を見渡す。

 右を見ても、左を見ても崖が続いている。


「橋とかはかかってないのか。なら……」


 飛べるか?

 いや、あの方法なら飛んでいけるはずだ。心配なのは飛距離だけど……。

 うーん、まあ死んでも元の世界に戻るだけだし、試してみるか。

 崖から背を向けて、森に目を向ける。そして太くて頑丈な木の枝を見つける。それに掴まって回転する。


(より遠くに飛ぶように、前より回転する!)


 これで充分か、と思うたびにまだだ、まだだと回転数を上げていった。

 どんどん枝を掴んでいる手が疲れて来た。完全に力が抜けてすっぽ抜ける前に、飛ぶしかない!


「〜〜〜〜ッッッ!?!?」


 あまりの勢いに声が出ない。

 崖を越え、雨雲の境目を突き抜けて、日が照らす晴天の下に飛び込んで———さらにさらに、飛んでいく。

 明らかに回転しすぎたーー!!


△▼△▼△▼△▼

 ざわざわと周りから人々の声が聞こえる。


「パンツ? パンツ、パンツだ……!」


「パンツが降って来たわ」


「いやヒトだよ! 空から女の子が!」


 周りからどう見られているのか想像してみる。

 現在、俺は頭からゴミ箱に突っ込んでいる。そして超短いスカートが捲り上がって、パンツ丸出し……二本の足がゴミ箱から生えている状況だ。

 騒がしくなってしまうのもおかしくない。


(人がいる……! 街かどこかだ。望んだ通りの場所に来られた)


 足をばたつかせて抜け出そうとするものの、完璧に体がハマって出られそうにない。


「出ようとしてる? 手伝った方がいいのかな」


「でもあんな遠い空から落ちて来たのよ? 生きているけど無事で済んでないかも。引っ張り出したらぐっちゃぐちゃな血みどろの顔面が出てきたら……」


「や、やめろよ。怖くて近づけねぇ」


 周りの人たちには怯えられてしまっている。

 誰かに助けて欲しいくらいハマってしまっているのだが、これは自力で抜け出すしかなさそうだ。


「あー、なあ、これ出るまで待つのか?」


「出てきても臭そう。帰ろっか」


「……俺ぁ帰るぜ、恨まないでくれよぉ〜」


 周りにいた人たちが去っていく。

 いよいよ救いは無くなって来た。

 足を動かし続けて疲れて来た。一息しようと息を吸い込むと、ゴミ箱の臭い匂いを吸い込んでしまう。

 逆さまだから頭に血が登って来て、クラクラしてきた。

 これは……ピンチ。


(せっかく街に着いたってのに、こんな情けない死に方してしまうなんて……)


 意識が薄れていく。

 完全に意識が消える直前、駆け寄ってくる足音が聞こえた———

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