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魔法の町

「へー、ここが魔法の町なのか」


 火の町から雷を纏って猛スピードで魔法の町に来た。

 町の入り口にいた月城さんと合流して、町の中に入る。


「なんか不思議な香りがするな。甘いようで、酸っぱいようで、透き通るようで、粘っこくもあって……複雑すぎて臭く感じる」


「私も最初来た時変な匂いだって感じた」


 剣士の町と比べると静かで、木造建築や木漏れ日の下にある家など、自然と調和している。

 こう言う雰囲気は好きだ。


「魔法の研究のために色んな実験や、薬品を使ってるからだって言ってた。まあでも、匂いって慣れちゃうよね」


「魔法かぁ……魔法ってどう言う感じ?」


「その前に一つ言っていい?」


「ん?」


 町の中央まで来たところで、月城さんが立ち止まった。そして俺をつま先から頭の先まで見てくる。


「ゴッツい靴、短いソックス、とびっきり短いミニスカート、胸元はまんまビキニブラ、髪の毛はボサボサ……うーん、色気はあるのにファッションには無頓着ね。ザ・男の子って感じ」


「へ、変かな?」


「おへそ丸出しは、私はしないかなぁ。まあおへそだけじゃなく、もはや胸と腰回りと足しか隠してないけど」


「うーん、でもこれが一番戦いやすい格好だから」


「……もしかしてそう言う意識の違いのせいで、強さに差ができるのかなぁ?」


 ……そうだ。

 異世界にきてから戦いにしか関心が向かなかったが、他にも楽しみはあるはずだ。


「月城さんはこの町の美味しいご飯とかわかる?」


「ご飯? いや、知らない。昨日も今日も授業中にしか来てないから、ご飯食べよーって気分にはならなかったから」


「それもそうか。でも学校の授業中にご飯食べれるって考えると、ちょっと悪いことしてるみたいでワクワクしない?」


「稲神君ってそういう事も考えるんだ。初めて会ったのは学校説明会の時だったけど、あの時も大人しい感じに見えたのに」


「……ん? ガッコウセツメイカイ?」


 学校説明会……。

 あれ?あの時月城さんと会ったっけ。

 や、やばい覚えてないかもしれない。そう言えばずっと月城さんからの距離感が近いと思ってたけど、入学式よりも前に面識があったから……なのか?


「えっと、と、とにかく探してみましょう」


「あ、距離遠くなった。もしかして覚えてなかった?」


△▼△▼△▼△▼

 イモリの佃煮に焼きカエルのソテー、ミミズのスープにサソリの串焼き……。


「……魔法の町、か。よし。別の町に行こう」


「そうね」


 この町の料理店に並ぶメニューは、まるで魔女が食べるようなゲテモノばかりだった。

 即断即決でこの町での食事は諦めることにする。


「それじゃあ、どうしよう。担いで行くにも触れている部分から月城さんに電気が流れてしまうかもしれないし」


「ん? 担ぐ?」


「あ、台車を引っ張るのはどうだろう。台車に月城さんが乗って、それを俺が引っ張って街の方まで……」


「ちょっと待って。もしかして稲神君が走って行くつもり?」


「……? そうだけど」


 火の町からここまでも走って来たし。雷のスピードならすぐだ。


「いや稲神君忘れてない?」


 月城さんが何もない空間から何かを取り出した。

 それは見覚えのある羽だった。


「あ、それって……」


「街に一瞬でテレポートできるアイテムだよ。初めの街でみんな買って準備したでしょ?」


 すっかり忘れていた。

 俺も羽を取り出す。


「それじゃWEの街でね」


「う、うん、了解」


 二人で羽を使って飛んで行く。

 瞬きするうちに魔法の町から、WE街に移動していた。英雄像の噴水広場に、月城さんと並んで立つ。


「あっという間だったね」


「本当に一瞬だった。それで、確か最初に来た時商店街があるって市長さんから聞いたよな」


「うん。行ってみよう」


 商店街に行くと普通に美味しそうなお店が並んでいた。

 二人で相談してオシャレな喫茶店に入る。互いにサンドイッチと甘めのコーヒーを頼んで、席につく。


「異世界の料理かぁ、どんなんだろ」


「メニューの絵や、他のお客さんの頼んでるものを見る限り普通に美味しそうだよ」


「ところで、さっき聞きそびれた魔法についてなんだけど」


「うん。わかった。私も全部詳しいわけじゃないけど」


 彼女の手の上に、土塊が出現した。ポンッと手品のように。

 そしてそれを床に向かって落とし、床にあたる前に土塊は消えた。

 出て来た時も、消える時も一瞬だった。まるで武器ポーチに剣を出し入れする時のようだ。


「魔法って言うのは基本は放出。私は土属性だから、土や石を何もないところから生み出せる。石の礫を手の先から飛ばして攻撃もできる」


 注文したサンドイッチが来たので、一旦話を止めて食べ始める。

 味は、薄い。

 元いた世界とは調味料が違うし、品種改良もされてないから、味に物足りなさを感じた。美味しいけど……、健康料理を食べてる気分だった。


「ふーん、魔法は放出、剣士は纏う。それぞれ属性の使い方が違うんだな」


「もしかしたら剣士の方がよかったかも。礫をモンスターに当てようとしても、避けられるから」


「……避けられる? 狙って当てようとしてるってことか?」


「え? そうだけど」


「ピストルや狙撃銃のような真っ直ぐ飛ぶ仕組みがなく、速度もなく、手の先から飛ばすだけなら狙っても外れると思う。だから狙うんじゃなくて、狙わなくてもいい効果的な攻撃手段に切り替えた方がいいかも」


「……えっと、例えば?」


「散弾銃のように数を増やすとか。地面や木に礫を当てて破裂させ小石、砂、木っ端の破片を飛ばすとか。とにかく点じゃなく面の攻撃を……」


「な、なるほど」


 月城さんが座っている椅子が軋んだ。

 その音を聞いて口を止める。


「あ、もしかして困った?」


「ううん。参考になったよ。戦闘中は緊張して何も考えられなくなるからさ。魔法にとって緊張は動揺は大敵だから」


「大敵……?」


「魔法を使う時、何を考えると思う? 『剣を振れば切れる』、『ピストルは銃弾を発射して相手を撃つ』なんてのと同じように、自分の体から石や土を出せると心の底から信じて使ってると思う?」


「……原理がわからないから、本当に自分が魔法なんて使えるのかどうか信じきれないってことか。確かに、あるかも。俺も自分から雷が出てくるなんて転移する前は想像だにしてなかったわけだし」


「それでも信じなきゃ魔法は使えない。だから心の動揺は、魔法が使えなくなる弱点なの」


 魔法使いの弱点は、魔法を使うための心の強さ、心が乱されれば魔法が使えないってわけか。

 ふぅーん、なるほど。


「だったら魔法使い同士の戦いは、相手を驚かせた方の勝ちってわけだ」


「ん? そう言うことになるのかな」


「魔法の攻撃方法を模索するよりも、どうすれば相手を驚かせられるかって考えた方が近道なのかもな」


 そう考えると人を切るためにある剣とは違って、魔法の本質ってのは人の心を動かすところにあるのかも。

 攻撃する必要があるから攻撃方法が編み出されてるだけで、実際のところ魔法はもっとキラキラしてて素敵なものなのかも。


(魔法か)


 剣士タイプの路線を選んだわけだけど、魔法にも興味があるな。

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