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火の町

「今日はコクーンエデンの街から、火の町に行く」


 火山地帯にある町で、鉄と鍛治の町だと聞いた。

 そこでもっと強力な新しい武器や防具を手に入れたい。もっともっと、モンスターを倒して、遠くまで行けるように。

 鍛冶屋は剣の町でもたくさんあったが、火の町はさらに多くの鍛冶屋があって煙突から噴き出る煙が灰色の空を作っていた。


「ここが、火の町……あっつ……」


 暑い、とにかく暑い。

 熱で肌が焼けそうだ……町に着く前の道中で、ファレーナさんからもらったジャケットを羽織った。


「町の中はさらに暑いな。稲神、帽子いるか?」


「……いや、大丈夫。ありがとう」


 隣を歩く火村(ひむら)君。

 CE街に異世界転移して来た際、冒険者ギルドで彼と会った。そして彼は俺が火の町に行くと言うと同行したいと申し出て来た。

 よく周りを見ていて、俺のことも気遣ってくれている。

 ちなみに彼は別のクラスだ。火村君はAクラス、俺はBクラス。


「さて、それじゃ稲神はこの町で武器や防具を探すんだっけ」


「うん」


「俺はこの町に火属性について詳しい竜人がいるらしいから、まずは町長に話を聞きに行く。何かあったら町長のところに来い」


「わかった。ありがとう」


 ふりふりと手を振って去っていく背中を見送る。

 火村鳳仙(ほうせん)。火属性の剣士タイプで、話に聞いたところ彼も理事長からパーソナルワールドの転移装置を貰ったのだと言う。

 右耳に赤色のイヤリングがキラリと光っていた。


△▼△▼△▼△▼

 良さそうな斧を見つけたので購入する。

 売ってくれた武器屋の店主はその斧を、『天狗の雷斧(シエルドッグ)』と呼んでいた。雷属性の使い手が待てば威力が上がる武器で、雷が刃の先まで伝達する速度が通常の斧や剣よりも早い。

 重量型と軽量型の二種類があって、俺は重いシエルドッグを選んだ。


「ボルケイノドラゴン⁉︎」


 と言う名前の、火山に住み着く最強のドラゴン族の噂を聞いて早速火山のダンジョンに乗り込んだ。

 新しい武器の性能も試す手前、喜び勇んで挑んだ結果……他のモンスターには遅れを取らなかったが、最強ボルケイノドラゴン、の幼体に全身燃やし尽くされてあっさり負けてしまった。

 目を覚ました時には、教室にいた。


「はっ! や、やられた……!」


 子供に負けてしまった。これでは大人のボルケイノドラゴンに挑んでも勝ち目は薄い。


「あ、おかえり稲神君」


 隣から名前を呼ばれて振り向くと、月城さんがいた。


「あ、月城さん。先に帰って来てたんだ」


「そうだよ。なかなか進めなくてさ」


 教室を見ると半数以上が異世界から戻って来ていた。

 誰も座っていない空席は、異世界に行っている生徒の席。なのでザッと見回して姿が確認できたクラスメイトはみんな、異世界から帰って来た人たちだ。


「……しかし、どうするか」


 幼体でもドラゴンは強かった。

 斧の刃が硬い鱗に効かないし、炎のブレスも広範囲だから素早く避けようとしても当たってしまう。

 スピードは俺の方が遥かに上だったけど、やはり攻撃が通らなければ意味がない。

 しかしシエルドッグ以上の武器を探すとなると……。


「……ねぇ、稲神君。私のこと忘れてるでしょ」


「え?」


 思考を中断して月城さんの言葉を頭の中で反芻する。

 そして昨日ここに帰って来た時、月城さんに『迎えにいく』と約束したのを思い出した。

 顔から血の気が引く。


「ご、ごめん! ごめんなさい! すっかり忘れてた!」


「あはは、大丈夫だよ。でも、実は今日ちょっと待ってたりもした」


「ごめんなさい! ごめんなさい! す、すぐに迎えに行きます!」


「すぐじゃなくていいよ。今は休んでるところだし」


 月城さんは疲れているようだった。

 その視線が俺の右耳に注がれる。


「……すごいなぁ、今日の朝教室に来た時知ったけど、稲神君はもうパーソナルワールドを貰ってるんだ」


「あ、うん。理事長から呼ばれて貰った」


「今朝はクラスのみんなに囲まれてて、すっかり人気者だったね」


「そんなことない。嵐山君だって貰ってたんだし、Aクラスでも火村君とか海郷(うみさと)君も」


 あとCクラスの黄土(おうど)君もだ。

 別に俺だけが特別ってわけじゃない。


「本当なら二学期にならないも貰えないのに、すごいよね」


「そこは俺もよくわかってない」


 昨日コクーンエデンの街まで到達したのが俺を含めた五人だった。だから先んじてパーソナルワールドを貰ったわけだが。

 今日、同じところまで到達した生徒がいるはずだ。


「もしかしたらこの後他の生徒も貰えるかも」


「それはないと思うよ。元々、二学期からって決められてたんだから。稲神君達は特別だよ」


(……もしかして月城さん、落ち込んでるのか)


 無神経だった。

 ……今は、異世界転移の授業中。やれることは一つだ。


「月城さんは魔法の町にいるんだよね」


「うん。まだね」


「わかった。今度こそ迎えに行く、だからもう一度異世界に行こう」


「……? 稲神君、どうしたの?」


「約束を果たす、それだけ」

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