ギルドに戻って
「冒険に詳しい人、いますか!」
放課後、俺は先生に許可を取って『A2E2』の世界に来ていた。
再度転移した時、転移者は最後にいた場所から近い場所に現れる。建物の中なら外に転移。なので俺はギルドの前に転移して、そしてすぐさま受付に行って聞く。
受付嬢さんは耳の穴をかいていた。
「あの、もう一度お願いします」
「冒険に詳しい人いますか!」
「……そりゃあここは冒険者ギルドですから、詳しい人しかいませんけど。どういうご用件なんですか?」
「どうしたら斧を自分の武器として扱えるようになるのかが知りたいんです。最初に持っていた剣なら何もない空間から取り出したり、しまったりできますけど……ミノタウロスが持っていた斧は、それができないんです」
パーソナルワールドにて、最後巨大な鬼にやられて俺は戻って来た。
その後、再度異世界に行くと使っていたミノタウロスの斧が消えていた。
「拾っただけの武器は帰還すると消えてしまいます。次も使いたい場合は、武器ポーチ空間に保存する必要があります」
受付嬢の説明を聞く。
武器ポーチ空間とは、今まで剣を出し入れしていた時に、見えないけど俺の中にある不思議な空間のことで、そこに武器をしまっている。
保存するには一度そこにしまう必要があった。ミノタウロスの斧を手に入れた時、最初にしまっておけば良かったと後悔する。
「そうですか……」
「ご用件は以上でしょうか。でしたら、こちらからの用件をお伝えしてもよろしいですか?」
「え?」
「なぜ下着姿なんですか⁉︎ 上半身ブラジャーだけって、確かにウチには荒くれ者がいて上半身裸な人もいますけど……あまりにも、あまりにもなんですよ!」
腕を引っ張られてギルドの奥へと連れて行かれる。
そこでギルドから貸し出している服を着せてもらった。パリッとした硬めのシャツと、赤いジャケット、それからジャケットとデザインを揃えた可愛らしいミニスカート。
ニーハイの靴下と歩きやすい靴も履かせてもらった。
「こちらの服は差し上げますので、もうあんな破廉恥な格好してウチに来ないでください」
「あの、上脱いでいいですか?」
「なぜ⁉︎ どうして⁉︎ 露出狂⁉︎」
服は雷を使う時に邪魔だ。
戦闘時、全身に雷を纏った時のあの熱さや痛みが一番良い。
スカートはいいけど、ニーハイも布面積が広くて微妙だ。
「……確かに戦う時に衣服が邪魔だという冒険者もいますけど、でも普段はちゃんとした服を着てください。もしくは防具屋や服屋に行って、見せブラとか露出の高い鎧などを着て、適した格好をしてください」
「見せブラならいいんですか? 今着てるやつを見せブラって言い張るのは」
「ダメですよ!」
防具屋か、確かに行ってみても良いかもしれない。
最初に訪れた街でも店に寄ってみたが、鎧甲冑とかしかなかった記憶。でもこの大きな街でなら俺の戦いに適した装備があるかも知れない。
「防具屋はどこに?」
「街のあちこちにありますけど、一番近くて大きい店はギルドの真向かいにある“ソード&ポケット”ですね。武器屋と防具屋を兼任している店です」
「ありがとうございます」
武器屋もあるならついでに斧も探してみよう。
「そう言えばイナカミさん。こちらのお金のことは大丈夫ですか?」
「あ、はい。この世界に来る前に先生から聞きましたし、最初の街でも使いましたから」
手を広げて金額を思い浮かべる。
すると元の世界での通貨と単位を思い浮かべても、それに応じたお金が出て来る。便利だ。
試しに一円を想像してみると、手の上に青くて小さな宝石が一枚コロンと出て来た。
「青宝石一つが一円なんですよね」
「そうです。ここのお金の単位はヴィータです。一円は青宝石で1Vとなります」
宝石の色で価値が変わる。
青、紫、赤、銀、金と上がっていき最大の一万円相当の宝石はダイヤモンド。
「そして、お金の出どころはモンスターを倒した時でしたよね」
「はい。光の粒子になって消えるのは、消滅すると同時にそれがヴィータに換金されていて、自動的にあなたのヴィータポーチに入金されていきます。お金の取引をした場合も、受け取った時に自動的にポーチへ」
「いくら持っているのかを確認するには」
「私たち現地民は違いますけど、あなたがた転移者は……ほら、左腕につけている腕時計をご確認ください」
転移装置の腕時計だ。
盤面には時間の数字が表示されている。
「横のつまみをいじってみてください」
転移した時に押したボタンとは別の、隣にあるつまみを指で摘んで回してみると、盤面が切り替わった。
一回回すと自分の名前と属性。稲神雷狗、雷属性と書かれている。
二回回すと現在地が表示され、街を上から見た地図とギルドの中にいる俺の位置に赤い点が付いていた。
三回回すとヴィータの数が表示され、四回目は冒険者ランク、五回目は最初の時間に戻った。
「冒険者ランクの項目は、ここでギルドに加入した際に新しく追加されたものになります。それで所持しているヴィータはいくらほどでしたか? 言いたくなければ構いませんよ」
「いえ、三万ほどでした」
「ダイヤモンド3つ分……? あれ、今日が初めてでしたよね」
「はい。でもずっとモンスター倒してたんで貯まったんだと思います」
「にしてもこの額は……って、あ。そうか。パーソナルワールドでもモンスターを狩ったんですね」
「あ。はい」
そう言えばあそこでもモンスターを倒すと光の粒子になって消えていたな。
「あちらの世界で倒したモンスターもヴィータに変換されるんです。なるほど……しかし、稲神さんはかなり強いようですね」
「まだまだです」
謙遜じゃない。
実際自分の雷の速度に思考が追いつけていない。
いつか改善したいと思っているが。
「これはCランクにした采配は正しかったのでしょうね」
「そう言えば受付嬢さんは俺をDランクと見定めたんでしたっけ」
「ええ、その後にモズールさんが……あ、モズールさんというのはあなたをCランクに認めてギルド加入の最終契約をした男性です。こわーい顔の」
「受付嬢さんは良かったのですか? ご自身が見定めたことが後から変えられて」
「そういう仕事と役割ですので。しかしCランクというのは過剰評価ではないと、今納得いたしました」
受付嬢さんは綺麗なお辞儀をした。
「私はファレーナと申します。以後お見知り置きを。そしてあなたのこれからの活躍を期待しております」