自分だけの異世界
「初日一時間半の間に、冒険者ギルドで冒険者登録を済ませたのは君一人だ」
緊張しながら理事長室に入った。
そして窓からの光が後光となって神々しく照らされている理事長から、開口一番にそう言われた。
「一年生ABCの3クラス合同で行っていた今回の実習だが、その中でたった一人だ」
返事はできなかった。
緊張し過ぎていたし、理事長の威圧感が凄まじくて怖い……。
「君に【雷神】の称号を与えよう。そしてもう一つ、これを渡す」
えっ称号?
戸惑っていると、理事長は机の引き出しからイヤリングを取り出した。
目の前に置かれたイヤリングに、見覚えがあった。
「これって、『パーソナルワールド』に行くための転移装置……ですか⁉︎」
「その通り。さっきまで君たちがいたA2E2とは違う、一個人専用の異世界。本来なら二学期開始頃に渡すものだが……君なら今からでも大丈夫そうだと判断した」
「な、なぜ」
「君が一番速くて強いからだ。それに、欲しかったのだろう?」
見透かされてる気分だった。
「強制送還された時、とても不満そうに見えた。そして異世界での動き方もとにかく冒険がしたくてしたくて堪らなそうだったな。だったら自分だけの異世界と聞いて、気分が湧き立ち止まらないだろう」
全部その通りだった。
イヤリングを手に取る。
これを付けて装置を作動させれば、俺だけの世界に行ける。
「知っての通り『パーソナルワールド』はA2E2世界とは違う。A2E2の場合はこちらの世界と時間がリンクしていたが、パーソナルワールドはどれだけ異世界に滞在しようとも現実世界では10分しか経たない」
「は、はい、知ってます」
「どれだけ冒険しようとも現実世界への影響は、10分間いなかったというだけ。ただしA2E2世界と同じく、ダメージを負い過ぎてHPが0になると強制的に帰還する」
「わかってます。その……本当に貰っていいんですか?」
「ああ。別に君だけが得をする話ではない、こちらは君の異世界での行動を常に記録している。一年間過ごしたのなら一年分のデータがこちらのパソコンに転送され、写真や動画も添付され詳細がわかる。それがさらなる科学の発展につながるのだ」
本当に良いらしい。
この学校に来るまで、ずっと夢見た自分だけの世界。自分だけの冒険。
「それら写真や動画は宣材広告にも使わせてもらうからな」
「あ、わかってます。だから女の子に変身するんでしたよね」
「ああ。男はウケない、からな」
(そ、それはどうなんだろう)
「事実、美少女が戦う写真や動画の閲覧数は軒並み高い。装置を開発した会社からも強く念押しされている、溜飲してくれ」
「はい」
△▼△▼△▼△▼
教室に戻る前に、廊下で金色に光るイヤリングを手に取ってみる。
キラキラと光っていて、まるで宝石のようだ。
この中に俺だけの冒険が待っている。
「……まだ自由時間の最中、次の授業までにも休憩時間があって、10分なんて余裕」
胸の動悸が止まらない。
行きたい、行きたい、行きたい!
気づいた時にはイヤリングを耳に付けて、そしてボタンを押して装置を作動させた。
理事長side
「ふっ、やはり早速使用したか。まあいい、予想通りだ」
パソコンに映し出していた一年生全員の学生証のうち、稲神雷狗の学生証が赤く光った。これは彼がパーソナルワールドに行った事を示している。
卓上電話であるところに電話をかける。
「ああ、予定通りだ。これから言う四人の一年生を呼んでくれ」
引き出しから4つのイヤリングを出して、理事長は静かに指示を伝えた。
パソコンの画面に並んだ学生証の中から四人をクリックして拡大する。
火村鳳仙。
海郷龍斗。
嵐山風雅。
黄土伏峰。
彼らは、コクーンエデンまで到達した四人だ。理事長の瞳がギラリと光った———