冒険者ギルド加入
雷を纏って身体強化とはどう言うことだろうと思っていた。
しかしやってみるとこれがすごい。
全身に雷を纏えば腕の振りも、足の回転も速くなって高速で動けるし、剣に雷を纏わせれば硬い甲羅を持つ亀のモンスターも一撃で切り裂けた。
剣の先が振動しており、それが硬い外皮を切断する。さらに雷は相手の肉を焼き切る。
とにかくすごいスピード、すごいパワー。
まるで超人になった気分だ。ただ問題点を挙げるとするなら、髪が静電気でボサボサになってしまうこと。あと動きが早くて心身が追いつかない場合がある。
瞬間瞬間の判断力が試される。
「あっという間についたな」
またしても一番乗りしてしまった。
魔法の町からCE街に辿り着いた人もいなかった。
CE街は最初の街よりも大きな都市だった。
「すみませーん、転移者の方は辿り着いた方から中に入ってください」
待っていようと考えたが、門番から催促されてしまった。
巨大都市で人口が多いため、転移者一人一人に対応していられる余裕はないとのこと。確かにみんなは今もモンスターと戦闘をしていて、死んだら最初からリスタートするから全員集まるのはいつになるかわからない。
門の前で待たれて、クラスメイト達が大勢たむろする状況は好ましくないのだろう。
後から来るみんなには悪いけど、先に街へ入ることにした。
「で、でかー」
外から見ても壁が高く、中から賑やかな声が聞こえてきていた。
そして中に入ってみると大通りには人がごった返していて、奥の奥にはかっこいいお城が聳え立っていた。
城があると言うことは王様とかがいるのだろうか。だとしたらこの賑わいは納得だ。
(人がいっぱいいる。この中にも、俺と同じ転移者がいるはずだ)
ウチの学校だけでなく、他の学校も異世界転移カリキュラムを採用しているところから人が来ている。
ただ姿が変わっているため、同じ転移者かどうかは一目ではわからない。
「どうしようかな。月城さんが来るまで待つにしても、この人混みの中じゃ何も目印がないし。あ、あれは」
大通りの途中で、冒険者ギルドを見つけた。
転移者なら誰でもギルドに加入可能だ。
(一旦ギルドに加入しておいて、俺がここに来たと言う証を残しておこう。そうすれば月城さんがギルドに入る時俺がこの街にいるってわかるし、ギルドの人に月城さんが来た時連絡して欲しいと伝えておくだけでもいいはずだ)
人混みをかき分けてギルドに入る。
中も喧騒で溢れていて、受付カウンターがどこにあるのか入っただけではわからなかった。近くにいた人に聞いて、案内してもらった。
カウンターに行くと加入の手続きをしている行列ができていた。
しばらく並んでいると俺の順番が来た。
「ようこそコクーンエデンの冒険者ギルドへ」
「コクーンエデン?」
「この街の名前ですよ。CEはコクーンエデンの略です。あなたはどうやら転移者の方のようですね。いつごろにこちらの世界へ来られました? あと、どちらから来られましたか?」
「はい。今日一時間ほど前にWE街の方へ来たところで」
左腕につけた腕時計を確認しながら答える。
転移前に教室でつけた転移装置だ。時計の役割もある。
「ダブルE、エッグエデン街からですか? 異世界に来たばかりなのに、わずか一時間でよく来られましたね」
「そのー、夢中でモンスターを倒しながら走っているといつのまにか着いちゃってて」
「ふぅむ、未経験で精神の制御に難ありといったところですかね。実力はあるみたいですが」
手続きのため差し出された紙に学校名と名前、最初に訪れた街の名前と属性を記入した。
「エスポワール学園の稲神雷狗さん。WE街から来て、属性は雷……と。はい、終わりました。こちらの札を持って正面のカウンターで最終手続きをお願いします」
異世界語だろう、読めない文字が書かれた小さな木の札を渡される。
それを持ってまた長い行列に並んだ。
カウンターにたどり着くと厳つい男性が疲れた目を向けてきた。
手のひらを差し出してきたので、札を渡した。
「……加入段階でDランク推薦? ふぅん」
何人も相手にして疲れていたのだろう。
しかし札の文字を見ると表情が一変し、興味深そうにこちらを値踏みしてくる。
「……ま、いいか。ほらよ」
俺の名前、属性、そしてCランクと書かれたカードを投げ渡される。慌ててそれをキャッチする。
「あ、あの、ランクCってどう言うことですか? そもそもランクっていうのは」
「受けられる依頼の難易度適正。SABCDEの六段階ある。受付のやつの見立てではお前はDランクの適正があるらしいが、まあCでいいだろ」
「い、いいんですか?」
「いいからさっさと行け。後がつかえてる」
不安だけどよけるしかなかった。
カードを持ったまま歩いていると、ギルドの役員に呼び止められた。
「すみません、お待ちください。うちの者が不安にさせたみたいで……、詳しいご説明をいたしますのでこちらへどうぞ」
優しそうな役員さんは、俺をテーブル席に座らせる。飲み物を注文してから、役員さんが話し始める。
「まずランクと言うのは先ほど説明があった通り受けられる依頼の難易度に対する適正を表しています。あなたはCランクですので、CからEまでの依頼を受けられます」
「でも、その、俺は初めてここにきたので一番下のランクからじゃないんですか?」
「当ギルドでは人が多く厳正な審査ができない状況にあります。そのためベテランの冒険者が二人、その場で査定して決めています。あなたは最初の受付嬢が Dランクと見定め、次の受付がCランクと定めました。だからあなたはCランクなのです」
「厳正な審査は、本当にできないんですか?」
「ええ。異世界から来る人が後を絶えないので。ただまあ、命に別状はありません。あなた方転移者は死んでも、元の世界に帰るだけですので」
確かに学校で説明を受けた時にも、死んだ時のデメリットは元の世界に帰るタイムロスだけと聞いた。
「……とはいえ、不安です」
「申し訳ありません。なにせ、異世界人は増えていく一方ですが、現地にいる我々は減っても増えはしませんので。働く人にも限界があります」
役員さんは運ばれてきたミルクを飲み干すと、立ち上がる。
「では、これで。あなたの活躍を願っています」
「ど、どうも」
役員さんが立ち去った後、左手首の腕時計から軽く小さな音が鳴った。微弱な振動も起きていて、目を向ける。
音声が流れる。
『転移者の皆様、一度教室の方へ強制送還いたします』
「えっ」
月城さんが来るのを待ってから冒険に行こうと思っていたのに———と、言う思考が終わる前に目の前が暗転した。そして目を開けると教室にいた。
戻ってきたんだ。
「あ、危なかった……またトロルに殺されるところだった」
「くぅぅ、俺なんかまだ最初の街から出られてないんだけど」
「魔法使いはやっぱり近距離戦で厳しいわね」
みんな戻ってきていて、各々安堵の息を吐いたり、悔しがったりしている。
月城さんも帰ってきている。
「ふう、ふう……全然進まなかったなぁ」
「月城さん? 大丈夫?」
「あ、稲神君。えっと、ごめんね? まだ魔法の町から出られなくて……」
「俺は大丈夫だけど。魔法の町にいるなら、次の実習の時迎えにいくよ」
「え? 稲神今どこにいるの?」
「コクーンエデン、CEの街」
「はやっ」
パンッパン。
大きな音で拍手が聞こえてきて、教壇の方に目を向ける。手を叩いて注目を集めた担任の先生だった。
「はい、感想会はそこまで。まだ初日だから落ち込んだりする必要はないわ。そして強制送還を行なったのには理由があります。一つは初日からずっと異世界にいると、現実感が欠如してしまう恐れがあるためです。徐々に慣らしていきます、次の実習は来週の月曜日です。そしてもう一つは———」
先生は俺に目を向けてきた。
「稲神君、理事長が呼んでいます。この後すぐ理事長室に向かうように」
「え……⁉︎」
な、なんで俺だけ?
何か悪いことしたっけ……?
クラスメイト達もざわついている。
「では実習授業はここまで。あとの時間は自由時間とします、意見交換や感想会などしておいてください」