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ルミノとA2E2世界で

「ど、どう言う事だ⁉︎」


 目の前には英雄の像が建っている噴水がある。

 これはWEの街の象徴。

 すなわちここはA2E2世界だ。

 元の世界に戻ろうとしていたのに、なぜ俺はここにいる?

 さらに……!


「なんでルミノがここに⁉︎」


「ライコ……えっと、ここは」


 ルミノは周囲を確認している。特に上の方向に目を向けていた。

 しかし360度周囲を見回しても。


「皇帝陛下の居城が見えない。それに見た事ない噴水と女の子の像……ここって」


「……異世界だ。A2E2って名前の」


 言おうか迷ったが、今は現状の把握が最優先だと判断した。

 ルミノにここがさっきまでいた世界とは別の世界だと説明した。


「もしかしてここがライコの元々いた世界なの?」


「いや違う。こことはまた別の世界だけど……、ルミノがここに来るはずがない」


「どういうこと?」


「俺もわからない」


 どうなっているんだ。

 腕時計を確認する。時間帯は……土曜日の15時辺り。

 これは俺がボウリング場にいた時間と同じだ。

 すなわちリアル世界と時間がリンクしているA2E2でも土曜日の15時であり、パーソナルワールドにいた10分間過ぎた状態ということ。


「本来なら俺は元の世界に戻ってたはず。なのに俺はA2E2世界に飛ばされた……なぜ?」


「ライコって複数の世界を行き来できるんだね。クラウンゼブラ様が言ってた異世界から来たってのは本当なんだ」


「あ、うん。ごめん、ルミノが一番訳がわからないよな」


「そうだけど。ここの街の人に話を聞いてみるってのはどう?」


「街の人……?」


 確かにA2E2世界とウチの学校は関係が深く、転移にも理解が深い。しかしなぜ転移装置が間違ったのか、異世界の住民に聞いてもわからないと思うが……いや、待てよ。

 市長に話を聞いてみるのはアリかも知れない。

 何か知っているかも知れない。


「確か市長の名前は……オムニバス・レイツだったな」


 そして市長がいる場所は、噴水のそばにある大きな屋敷だ。

 すぐそこにある。


「ルミノ、大丈夫?」


「うん。あの屋敷に行くのね? 私も事情を理解したいし、行こう」


「ああ……あ、いや、待って。その前に」


「ん?」


 ルミノに頭を下げる。


「ごめん! 俺のせいで騎士団と魔導隊が争うような事態になって……責任の取り方がわからなかった! だから最後、ルミノを無視するようなことをして……」


「……俺のせい? どこにライコの責任があるの?」


「ある。俺が、あの街に来たから」


「確かに空から落ちて来て不法入国者だったとは思う。でもその後に、ウチの騎士団に入ったんだからあなたは立派な国民だった。なのに皇帝陛下が魔導隊を使ってあなたを実験動物にしようとした。だったら……あなたが背負う責任なんてどこにもない」


「ルミノ……でも、俺は」


「まあでも確かに、最後シカトされたのは寂しかったかな」


「う……ごめん」


「ふふっ、でも責める気はないの。私を守ろうとしてくれたんでしょ? 私だけじゃなく、そばにいたルクスさんも」


「いやあれは責任の取り方がわからなかったから、勝手に動いただけで……」


「でも守ってくれた。それは事実」


 優しく肩に手を置かれて、顔を上げると柔らかな微笑みをたたえた少女がいた。


「ありがとう、あなたは私の大事な友達よ。だからこれからは私もあなたの力になる」


「と、友達……」


「何より同僚かつルームメイトだし」


「……ありがとう」


△▼△▼△▼△▼

 市長の屋敷を訪ねた。

 メイドさんに断りを入れて、市長を呼んでもらった。するとすぐにオムニバス市長が来てくれた。


「どうしたんだね。こんな時間にエスポワール学園の学生さんが来るなんて。おや? そちらの騎士の方は?」


「市長、すみません。一年B組の稲神雷狗です。俺も何が何だかわからなくて、助けて欲しくて訪ねました。こちらは別の異世界の……」


「ルミノです。ルミノ・エクレール」


「別世界の住民。なるほど、理事長さんが実施している対決の件か。君たち五人の戦いは、我々現地民も見させてもらっているよ。一種の娯楽になっている」


「い、いや……俺はドベなんで」


「それでも学年唯一のCランク冒険者なんだろう? 実力の高さは知っているよ。何より実際君の戦いを見せてもらって、かなりの腕前だと思っている」


「ありがとうございます」


 ルミノに脇腹を肘で突かれる。


「対決? なんの話?」


「後で説明する」


 先に何が起きているのか知りたい。

 市長に全てを話すと、彼は思案顔になった。


「うーん、私にも詳しいことはわからないけど。例えばほら、君たちは時に強制送還されて突然元の世界に帰るだろう?」


「あー、はい。学校側が操作して帰らされるんです。現実世界とリンクしている以上、朝から晩まで一日中異世界に居させるわけにはいかないとか、他にも色々と理由が……」


「その操作ってのは学校側がやってるんだよね。だったら、君をこっちに飛ばしたのも学校側と考えられないかな」


 確かにありうる。

 だが、怪しい点が一つある。


「俺は学校の敷地内で転移したわけじゃありません。俺の行動を学校側が逐一監視しているわけでもない限り、そんな操作出来なさそうですけど」


 ———と思うじゃん?逐一監視してるんだな、これが。

 俺でも、ルミノでも、市長でもない男性の声が聞こえて来た。

 振り返ると玄関の扉が開けられる。そして中に入って来たのは……、犬の被り物を被った顔の見えない男だった。

 背が高く、筋肉質なのはわかるが、正体不明だ。


「え、ど、どちら様?」


「理事長の使いだ。君に報告しに来た」


「理事長の?」


「君をこちらの世界に飛ばしたのは、そこにいるルミノって人と共にA2E2世界に行ってもらいたかったから。元の世界に戻るのを挟む余裕がなくて、このような処置になったことを詫びていた」


「なぜ、ルミノを一緒に?」


「『五界神対決(フィフスキングダム)』だ。稲神君の仲間には彼女が適任だろうと言っていた」


「そんな! 勝手に……!」


「文句は承知の上だ。それともう一つ連絡がある」


「まだ何か?」


「稲神君は現在学校の敷地外から転移している状態。帰れることは帰れるが、しかしこのままルミノさんを放置はできないだろう。この世界と元の世界は時間がリンクしている、向こうで時間がかかればかかるほどルミノさんは待ちぼうけを喰らうことになる」


 確かにその通りだ。

 し、しかしルミノをここに連れて来たのは理事長の判断だろうに!


「なので今から明後日の月曜日の学校が始まり、“冒険科”の授業が始まるまで稲神君にはルミノさんと一緒にこの世界に留まってもらう」


「……は⁉︎ え⁉︎ ちょ、も、戻れない⁉︎ 丸一日⁉︎」


「戻ろうとしても装置は起動しないようになっているから強制的だね。じゃあ、連絡は伝えたから」


「ちょっと待って———!」


 犬の男は言うだけ言って元の世界に帰ってしまった。


「あ、ああ……そんなことってありかよ」


「あのー、稲神君。大丈夫かい?」


 市長さんから心配されている。

 こんなむちゃくちゃな状況、優しさが身に染みる。


「よかったらウチの部屋を使うといい。今日と明日、寝るところが必要だろう」


「そこまでご厄介になるのは……」


「構わないさ。無駄に広い屋敷で人が少なくて寂しかったところだ。稲神君とルミノさんがよければ、だけど」


 本当になんて優しい方なんだ。


「ルミノ、その、ごめん。こっちの事情に巻き込んでしまって」


「まだ全貌が見えてないから感想も何も言えないけど、とりあえずオムニバス市長のご厚意に甘えさせてもらいましょう」


「うん。ありがとうございます、市長」


「大丈夫ですよ。ではメイドに部屋に案内させますので」

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