四月五日土曜日
「あ! 稲神君! こっちこっちー」
土曜の休日。
駅前で手を振る同級生の女の子、月城輝夜さんを見つけて彼女の元へ向かう。黒髪ショートヘアーの髪型を少しカールをかけて、服装も落ち着いた雰囲気のままオシャレして来ていた。
彼女の周りには同じクラスの男女数人が集まっていた。当然みんな学生服ではなく、私服。
「ごめん、遅れた?」
俺も俺で自分なりに恥ずかしくないと思える格好で来た。オシャレに疎いから多分ヘンテコだろうけど。
月城さんは別になんとも思っていない表情だが、彼女の後ろにいる同級生の微妙そうな顔が全てを物語っていた。
「ううん、ぴったし。ただもう二人ほど来てないんだよ」
「誰と誰?」
「王来王家委員長と陽原さん」
晴れの休日。
クラスのグループチャットで今日みんなでボウリングに行かないか、と言う誘いを受けた。発起人で旗振り役は女子の鹿島さん。
特に予定がなかった俺は、鹿島さんから是非にと言われたので断りきれず、お誘いを受けることにした。
そしてこうして駅前にみんなで集まっているわけだが……。
「委員長が遅れるなんて」
「今日の朝当日に誘ったんだから仕方ない」
「と言うかチャットでも聞いたけどなんで急にボウリング?」
集まった人たちが騒ついている。
その中から鹿島さんへ質問が飛ぶ。
「大勢でやるってなると他に思いつかなかったのよ。どんだけ集まるかわからなかったし」
「と、言う口実で嵐山君と遊びたかっただけでしょ」
「なんで言うの」
揶揄うように鹿島さんのつっつく彼女の友人。
嵐山君……、見れば俺から見て集団の向こう側に彼がいた。俺の視線に気づいて向こうも見つめ返してくる。
「嵐山君……」
「稲神……」
「ちょちょちょ! 昨日の事は抜きにしよっ! ね? あ! ほら! ちょうど委員長と陽原さんが来たし!」
月城さんが俺と嵐山君の間に入るように止めて来て、そして遅れて来た残りの二人の方を指し示す。
見ればメガネをかけた真面目な雰囲気の委員長と、ボサボサな寝癖だらけの陽原さんがやって来ていた。
「もう陽原さん、すごい寝癖」
「急に呼ばれたからさ〜」
月城さんがバッグから櫛を取り出して陽原さんの髪を直していく。
眠気まなこな彼女の世話をする月城さんの横を通り過ぎた委員長が、鹿島さんにお辞儀する。
「今日はお誘いありがとうございます。お誘いいただいたのに遅れてしまってすみません」
「いやいや急に誘ったこっちが悪いんだからさ。それよりみんなで遊ぼー! さあさあこっちこっちー!」
鹿島さんが先導してクラスのみんなでボウリング場へ。
背中を月城さんに押されて、集団の真ん中でみんなについて行く。
着いたのは地元で有名な場所だった。人数が多いので1レーン5人組で分かれる。俺は月城さん、陽原さん、それと双子の心王院さん姉妹と一緒になった。
「8本! 惜しかったね稲神君。でも上手だよ」
「ボウリングなんてやる機会ないよねー、慣れないなぁ」
あとちょっとでスペアだったのに端っこの2本が倒せなかった。
六投目を投げ終わって戻ってくると月城さんに褒められた。
陽原さんの意見には同意。
「わー! すごい嵐山君! ターキーだよ! 三連続ストライク!」
鹿島さんの喜ぶ声が聞こえて来た。
隣のレーンに目を向けると嵐山君のスコアは俺よりずっと高かった。三投目からずっとストライクを取っている。
嵐山君と目が合った。
「はっ」
「っ! この……!」
胸を張って笑われて、勝ち誇られた。
ま、負けられない……!
次投ストライクを取ると、嵐山君は動揺したのか初球でガーターになっていた。
「はっは!」
「てめぇ……!」
今度はこっちが勝ち誇る番。
向こうは悔しがっていた。
「なんでここでも対決が始まっちゃうのー⁉︎」
月城さんが頭を抱えて叫んだ。
最終的に序盤のリードがあったため、負けてしまった。く、悔しい……。
「月城さん、ちょっとお手洗い行ってくる」
「わかったー」
投げ終わってみんな帰り支度をし始めた頃、俺はトイレに行った。
そしてトイレから出たところで……。
「なんで負けた?」
嵐山君が待ち構えていた。
「嵐山君。なんで負けたって……そりゃ、最初の方ターキー取られてたから」
「そっちじゃない。黄土との勝負の話だ」
体が硬直してしまう。
負けた記憶が蘇る。
昨日の夜、悶々として寝付けなかったのを無理やり頭から離す事でやっと眠れたと言うのに。思い出さされてしまった。
「実力ではお前の方が上のはずだった、それはお前も実際に戦ったからわかるはずだろう。なのになぜ負けた?」
「……」
「仲間、か。火村も仲間を連れて来た海郷のリベンジに負けていた。仲間とは……そこまで強力なのか」
敗因は二つ。
仲間の有無と、気の弱さ。
それだけだ。その二つを黄土君は持ってた。
ただそれを嵐山君に言う気にはなれなかった。
代わりに、昨日の夜からずっと考えていた事を言う。
「……俺、辞退しようと思ってる」
「なに?」
「フィフスなんとかって理事長が企画したこの対決。最初は新しい異世界が欲しいから参加したけど、俺には……向いてなさそうだから」
「逃げんのか」
「……そうだよ。理事長も負けてばかりの俺のことを見限っているはずだし。俺以外の四人はみんな一勝してるから」
逃げる、と言われて悔しい気持ちがないわけじゃない。
でも例え後ろ指さされても、やりたくない気持ちが大きくなっていた。
「俺はここで、脱落だ」
「……なあ、お前はなんで異世界を望む?」
え?
唐突になんだろう。
「なんでって……特に深い理由はないよ。ただ旅がしたいだけ、冒険がしたいだけだった」
「そうなんだろうな。お前の本質はそれでしかない。だが俺が聞きたいのはその先だ」
「先?」
「先、奥、深み、もしくは“闇”。なぜお前は旅を求める? なぜお前は冒険がしたいんだ?」
なぜ、か。
……思えば、どうしてだろうな。
考え直してみると自分でもよくわからない。ただ。
「学校説明会の時、お試しで異世界に行かせてもらったことがあって……嵐山君も行ったはずだけど」
「ビーンズって異世界だったよな」
「その時の異世界での体験が今でも鮮明に思い出せて、見たことない景色と剣を持ってモンスターと戦い前に進む冒険のワクワクとドキドキは忘れられない」
「だから冒険を望むと?」
「答えになってない事はわかってる。でも、それしか答えられない」
「……そうか」
なんで異世界を望むのかって質問に、わからないけど楽しかった記憶はある、なんて答えが返って来たら困るだろうな。
肩に重みを感じる。
気づけば、俺の肩が掴まれていた。
「稲神、聞け」
「な、なに?」
「お前は雷だ」
「……っ! か、雷……」
「雷の生まれ方って知ってるか? 雷ってのは雲の中で沢山の雨粒がぶつかり合って電気エネルギーが作られて、電気が集まって重くなると地上に向かって落ちて行く。それが雷だ」
雲の中で粒子がぶつかって生まれた雷の一生は、一瞬だ。
雲から抜け出して、大地にぶつかり消滅する。
空から陸までのほんのちょっとの距離を一瞬だけ輝き、生まれ落ちて、轟く音と燃える雷火を残す。
「お前は雷だ」
「そ、それがなんだって……」
「いいか? 稲神」
「?」
「雷は逃げない」
一度雲から抜け出した雷は、雲に戻らない。
一度生まれた雷は戻らないし、逃げ出さない。
大地にぶつかって消えるまでのほんの一瞬のひとときから、逃げない。
「………! っ! お、俺は……」
「お前には悩める時間があるはずだ。行って来い」
「……え?」
「クラスのみんなには俺から言っておく」
後ろから嵐山君の手が伸びて来て、イヤリングのボタンが押された。
それはパーソナルワールドに飛ぶためのスイッチ。なぜこの装置がイヤリングの形をしているのか、それは顔という人間が警戒する箇所に付けておく事でこうやって他人が作動するのを防ぐため。だが俺は警戒心が薄れていた。
それほど、弱っていたんだと思う。
次の瞬間、俺は異世界の酒場にいた。
おまけ
[王来王家レーン組]
王来王家雪美 おくおか ゆきみ
牧統弦水 まきとう げんすい
明空十勝 みょうくう とかち
岸部大志 きしべ たいし
柳生燕児 やぎゅう えんじ
[嵐山レーン組]
嵐山風雅 あらしやま ふうが
鹿島紅楓 かしま べにかえで
猪俣萩哉 いのまた はぎや
蝶野桜花 ちょうの おうか
梅小路鴬 うめこうじ うぐいす
[稲神レーン組]
稲神雷狗 いなかみ らいこ
月城輝夜 つきしろ かぐや
陽原亞幌 ひばる あぽろ
心王院昼 しんのういん ひる
心王院夜 しんのういん よる




