土神軍団
気づけば俺は異世界から戻って来ていた。
理事長室のソファーに座っていて、周りを見ると嵐山君や火村君も帰って来ていた。
(あ、あれ? 強制的に帰らされた? まだ一日経ってないけど……)
なにより、ボルト魔導隊のウルラシアさんから『異世界から来た』と言われた瞬間に帰らされた。
意図を感じざるを得ない。
理事長の方を見ると、こちらに背を向けて顔が見えなかった。
「おかえりなさい、さて続いてすぐにA2E2世界に行ってもらいます。よろしいですね」
「あの、自分の世界で作った仲間ってどうなるんですか?」
海郷君が身を乗り出してそう聞いた。
って、そうだ。仲間に関して俺は何もできてないや。
海郷君は仲間を作ったのかな。
「A2E2世界に連れて行けるのですか?」
「もちろん」
「しかしA2E2世界とパーソナルワールドでは時間の進み方が違います。不具合とか起きないのですか?」
「ええ、大丈夫です。あなた達から仲間達に別世界について来て一緒に戦ってほしい、と頼み。そして仲間達が応えたのなら、それだけで充分です。では質問は以上ですか?」
俺を帰したタイミングについて、聞きたい事はあった。だけど言い出せなかった。
五人とも何も言わずに黙っていて、質問がないと判断した理事長は異世界転移装置の作動を命じた。
俺たちは腕時計を操作して、異世界に飛んだ。
「———さて、次こそは本気になってくれるかな」
飛ぶ前に理事長のそんな一言が聞こえた気がした。
△▼△▼△▼△▼
黄土side
魔法の町に繋がる道、四人の少女が横に並んで歩いていた。
「へー! ここがフッシーの言ってた異世界かぁ。でもフッシーが元々いた世界もあるのよね」
「ああ」
黄土伏峰。
土属性の剣士タイプで、初日にパーソナルワールドを貰い、五界神対決に参加している学年で優秀な生徒の一人。艶やかな茶髪のポニーテールをしている女の子。
彼の周りには三人の少女がいた。
「フッシーの世界はなんて名前?」
真っ白なロングヘアーに、優しそうな瞳が特徴的な彼女はノメス。
あだ名で呼んで親しそうにして、伏峰と距離感が近い。もはや密着しているくらいだった。
「別に世界に名前があるとか考えた事ないなぁ。地球とか?」
「でしたらわたくし達が出会った世界はどういう呼ばれ方なのでしょう。もしかして……オウド様の世界、という名称なのでしょうか」
次に伏峰に話しかけたのはお淑やかな女性。胸部に特徴的で暴力的なまでな巨大な二つの山を持っていて、包み込むような雰囲気は母性や包容力が感じられる。
彼女の名前はノイン。伏峰に対して近い距離感で話す。
「そんなわけないだろ。なんで俺の名前が……恐れ多い」
「…………でも、フシミネが来なければワタシ達は会えなかった」
最後の一人は、無機質な表情だった。
体のあちこちが金属光沢で煌めいていて、地面に足を付けておらず浮遊していた。
彼女の名前はノクーン。ゴーレムの一種であり、魔法の力によって動いている。
ふわりふわりと上昇して、伏峰の頭上に浮かび、そのまま垂直に降りて伏峰の肩に乗っかった。
「…………もしやすると、同じ世界にいた三人だって会えなかった可能性がある」
「そうかな、俺なんかが」
「「俺なんかなんて言わないで」」
「………デ」
伏峰の自虐の言葉にノメスとノインが同時に否定し、少し遅れてノクーンも短く彼女らの意見に同意する形で言った。
「え、えっと……ありがとう」
伏峰はそんな彼女らの温かい気持ちに触れて、照れ臭くなった。
「ふふっ、そうですわ。オウド様はもっと胸を張ってよろしいですのよ」
「ところでさー、さっきの話に戻るけど。このA2E2って世界の名前ってなんかの略?」
「…………そこそんなにキになる?」
「ほらさっき私らがいた“WEの街”だって二つのE、ダブルEって意味で、本当の意味はエッグエデンって名前なんでしょ?」
「ああ」
ノメスの純粋な疑問に伏峰が答える。
「A2E2は2つのA、2つのEって意味で。正式名称は“アダムとイ———」
『気配』。
前方に何か大きな気配を感じ取り、伏峰は思わず歩いていた足を止める。そして前方を注視すると、その気配の正体がこちらに来ているのがわかった。
「……」
伏峰はやってくる相手が誰なのか『期待』した。
ボサボサの金髪に、ビキニにミニスカという格好。明らかに常人の格好ではなかった。
さてあれは、『誰だ』?
腕時計からベルの音が鳴る。向こうもベルの音が鳴っている。すなわち五界神のうちの誰かで……。
「まさかッ! お前はッ!」
手の中に剣を出す。
ノメスも剣を出し、ノインは槍、ノクーンは伏峰の体から離れて宙に浮かぶ。
「稲神かッッ!!」
「……? えっと」
向こうは誰かわからない様子だった。
姿が変わってるからってすぐに気づいて欲しかったものだ。
「……お前らは手を出すな」
「え? でもフッシー……!」
「頼む、念願の勝負なんだ」
「……わかった。二人とも、退がろう」
伏峰の気持ちを汲んで剣を納めたノメスが、他の二人と一緒に離れていく。
ノインは心配する目をしつつも頷いて離れて行き、ノクーンは無表情のまま浮遊して離れていく。
伏峰が剣を構える。
「俺の! 名前は!」
ゴオッ!と剣の周りでいくつもの石が巻き上がって、まとわりついていく。
そして瞬時に石を纏った剣、『岩座剣』を構える。
「黄土伏峰だ!!」
剣を横に構え、走って近づく。
だが遅すぎた。
ギャルギャギャギャギャ!!
稲妻を纏いながらジグザグに迫って来た稲神が、いつのまにか出した斧て剣ごと伏峰の体を吹っ飛ばした。接近して斧を当てるまで一秒も満たない速度だった。
(は、はや……⁉︎ それにチカラも……!)
吹っ飛ばされて背中を大木にぶつける。
稲神の通った道にはイナズマの火花が散り、地面は抉れていた。
「ぐっ……こ、これほどまで……」
「黄土君。あっちの三人は戦う?」
余裕な顔で聞いてくる。
その質問に、イラッときた。
他の奴に意識を向けて、もう自分は眼中にないのかと。
「俺だけだ!」
剣を地面に叩きつけて、纏っていた石を散弾銃や手榴弾のように飛び散らせ、稲神に向かって飛ばす。
稲神の驚いた顔が見えた。
このスキに距離を取って体勢を立て直す———ガンッ!
「ブゲへッ!」
横に走って距離を取ろうとしていた。
だがそのすぐ目の前に稲神が現れて、頭を拳で殴られた。
飛ばされて、また木に体を打ちつけてしまう。
(あ、あの散弾の雨を大きく回り込んでかわしながら、俺が気づけない速度で接近して来て、殴って来た……どんな速度だよ)
石の剣を再び作りながら、立ち上がる。
それを見て何を考えているのか、稲神は斧をしまって剣を取り出した。
「はあっ⁉︎ なんのつもりだよ!」
「……“厄介”だから」
さらに剣の鞘を出して、それに剣をしまった。
そしてそれを両手で構える。
「ナメてんのか……やっぱ、才能のあるヤツってのはそうなんだよな!」
「才能?」
「わかるだろ? 俺はパーソナルワールドもらったって言ってもコクーンエデンに辿り着いたのは一番遅かった。だがお前は俺より何倍も速かったらしいじゃねーか……それが、気に入らねぇ!」
石の剣で殴りつける。
それを躱されて、横から切りつけて来たのを防ぐ。
鍔迫り合いの形になり、互いの顔が接近する。
「お前は才能の塊! 俺は無能! そこが……どうしようもなく遠いお前が!」
「……もしかして前に睨んできたのも」
「絶対に倒すと決めたからだ!」
膠着した状態からなら伏峰にも攻撃を当てるチャンスがあった。
腹を思いっきり蹴飛ばす。
「グハっ!」
「絶対に勝つ! お前に!」
遠くなった距離を縮めて剣を振る。
稲神はそれを受け止めず、躱していく。
「どうした! 最初の攻めっ気はどこいった!」
(攻められない……!)
稲神は実は焦っていた。
最初の斧の攻撃は一撃で倒すつもりで放ったものだった。だが伏峰の剣はとてつもない硬さを持っていて、斧の攻撃が通らなかった。
次に殴りつけた時も、彼の体の防御力も高いから全然ダメージが通っていなかった。
だから剣の鞘で素早く、着実に少しづつでもダメージを与えていくつもりだった。
(まともに黄土君の攻撃を受けては無理だ……こっちの剣が壊れる!)
ヒビの入った鞘を見て、冷や汗を流す。
伏峰からの連撃から逃れるため、スピードを活かして大きく距離を取る。
距離、速さ、時間。
離れた距離を詰めるにはスピードが必要。時間を開ければそれだけ稲神に考える余裕を与えてしまう。そう考えた伏峰は走るが、稲神のスピードに適うはずもない———と、言うのを考えたのはノメスだった。
「———ッ⁉︎」
稲神は突然横から振り下ろされたとびっきりゴツゴツな剣に驚いて、咄嗟にガードする。
だがその剣は伏峰の岩座剣よりも重かった。
防ぐために咄嗟に前に出した剣の鞘が粉々に砕け散る。
「………」
ノメスは黙ったまま、稲神と直面する。
怒ったのは当然伏峰だ。
「な、何してんだノメス⁉︎ 手を出すなって言っただろうが!」
「ごめんねフッシー。でも、あなたが自分の事を無能って言ったのがどうしても、許せなくて」
「な、なにが⁉︎ だ、だからって俺との約束を破って」
「あなたは無能じゃない! とても優しくて、努力家で、常に前と上を見つめて突き進む! だから私たちも助けになりたいとここに来たんじゃない!」
突き出してくる剣を、稲神は体を左右に動かして躱す。
ノメスの剣は振るたびにブォンブォンと重量感のある音が鳴る。それもそのはず。黄土の剣よりも石が……否、もはや岩というべき大きさの岩石が纏わりついている。
ハンマーを振り回しているのと同じだ。
「もう、あれしかない……意識を集中させて……っ! また横から!」
またしても稲神の横から、槍の切先が飛んできた。
腕を大きく回して、剣で槍を絡め取って、いなして躱す。
槍を突き出して来たのはノイン。
そしてこの二人が動いたということは。
「ガッ! グアアッ!」
頭上から落ちて来たゴーレムのノクーンが、稲神の肩に思いっきりのしかかる。重さと、落下の勢いで稲神は倒れそうになる。
重さに耐えるために、動きが止まった。
右から剣が、左から槍が、頭上ではノクーンが杖を振り上げる。
「待て———ッ!」
伏峰の制止の声も間に合わない。
「……! やってやる!」
稲神はまず剣をしまった。
ノクーンののしかかる重さを利用して、勢いを持ってしゃがみ込む。バランスを崩したノクーンは、立て直すためのスキが生まれた。
ノメスとノインは、攻撃の先にノクーンがいるのに気づいて逡巡した。
稲神はその場で高速回転し、ノメスとノインの足を払う。
「きゃあ!」
「くうっ! は、速い……!」
二人を転ばせたのち、肩に乗っているノクーンの杖の攻撃を躱しつつ、彼女の足の間から後方に潜り抜けて、ノクーンの腰を持ちあげる。
そして駆け寄って来ていた伏峰の方へ投げ飛ばした。
「お、お前ら……!」
キャッチしたノクーンに文句を言おうとした伏峰。
「アレッ!」
だがノクーンはそれよりも、大きな声を出して稲神の方を指差す。
稲神は大木に向かって走り出していた。
「ノイン! 槍で奴のプリケツを突き刺して!」
剣では間に合わない。
だからノメスは槍持ちのノインに攻撃を指示した。
しかしノインの攻撃よりも先に、稲神は大木に飛びつき、そして幹の周りを高速三回転……からの———
「“電回砲”!」
次の瞬間、ノメスの岩の剣を突き抜ける蹴りで砕いていた。
近くにいたノインではなく、ノメスの剣を攻撃した。
予想外の攻撃と、凄まじいスピードと破壊力に対する驚きで、ノメスはただただ背後にいるしゃがんだ状態の稲神の姿を見つめるため、振り向くだけだった。
「ノメス! 避けろ!」
伏峰の指示が飛ぶも遅かった。
またしても稲神の足払いでノメスは地面に倒れる。
稲神は覆い被さる形で、彼女の体の上にのし掛かり、地面を一緒に転がる。そしてノインの方へ放り投げた。
「わわっ!」
ノインは飛んできたノメスを受け止め……。
「えっ? 重っ、むえっ⁉︎」
稲神がノメスの背中側から押し飛ばしたことで、二人で吹っ飛ばされる。
ズザー、と地面を滑る。
ノインを下にして、二人重なって倒れ込んでいる。
そんな彼女らの上に飛び上がり、稲神が追撃しようとした———が、ノクーンの飛ばした岩の礫がそれを防いだ。
咄嗟に剣で弾いた稲神は、近くの木の上に着地する。
そしてそこから“電回砲”を使って、伏峰とノクーンの背後に飛ぶ。
「ぐ、くぅ……つ、強い……」
「い、痛た……」
「…………立って、二人とも。フシミネを守る」
伏峰と稲神の間に入って、ノクーンが体を張って守る体制。
「なあ、黄土君」
「……なんだ」
一連の稲神の動きを見ていた伏峰は、もう仲間達を止めようとしていなかった。
それが全てを物語っていたが、それでも稲神は聞く。
「仲間って、良いものか?」
「……」
その問いに伏峰は少しだけ考えた後、ノクーンの体を横にどかして前に出る。そして答える。
「どの道俺は、こうするしかないんだ!」
彼の周りに三人の仲間が武器を構えて布陣する。
「そっか……羨ましいよ」
ドォン!と剣を持った稲神がイナズマのスピードで走り出した。
「みんな! フシミネの周りに固まって!」
「———? ノクーン! あなたまさか何か作戦があるの⁉︎」
ノメスとノインが伏峰の背中を守り、ノクーンは三人の頭上に浮かぶ。
稲神はそんな伏峰達の周りを走り回り始めた。
「………うん、きっと勝てる。というかもう、勝ってる」
「なに?」
「フシミネ! ワタシたちでアイツのスキを作る! だからそこを、フシミネの一撃で倒して!」
「ど、どういうことなんだよ」
ギャルギャルと地面を抉りながら走り回る稲神。
恐ろしいスピードとパワー。
だが段々とノクーン以外も違和感に気づく。
「……攻撃、して来ない⁉︎」
「アナタの敗因は」
ノクーンが静かに、冷たく見下ろして、言う。
「ワタシ達を殺そうとしないこと」
稲神の走るルートは予測しやすかった。
その道筋にノクーンは、大きめの石をポイッと放り投げて、コトッと置くだけで良かった。
イナズマの速度に意識が間に合わない稲神は、道化のようにそれに躓くだけ。
「ガウッ⁉︎ ぐ、がっ!」
転がって、地面で何度もバウンドして、その転がった先にノメスとノインが突撃する。
咄嗟に躱すか、防ぐかしようとしたところに、上からノクーンが落ちてのしかかって来た。
「…………今度は、逃がさない!」
「はあああ!」
ノインが槍を投げて稲神の右腕を貫き、槍の切先が地面に突き刺さる。
稲神は動けなくなった。
そしてそこにノメスの剣が振り下ろされる。それを左手で持った斧で防ぐが、完全に右側が隙だらけだ。
「終わりだ、稲神」
稲神の右脇腹を、伏峰の剣が貫いた。
ゴツゴツした石は稲神の体を抉り、掘り進み、内臓を破壊する。
剣の先が左脇腹から突き出る頃には、稲神のくびれていた腹部は、石が入り込んでボコボコに変形していた。
稲神は血反吐を吐く。
「ぐ、ふ、ごほぁ! お、黄土ぉ……はあ、はあ……!」
「稲神……」
「こ、れが、お前の……俺にない、才……の」
ダメージが許容範囲を超えたため、稲神の体は消えていった。
元の世界に戻ったのだ。
そして腕時計から聞こえてくるアナウンスでは、伏峰の勝利を宣言していた。




