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ボルト魔導隊

 俺は団長と副団長の“推薦”って形でソルト騎士団に入団することとなった。ただし役割は雑用係。

 結局、箒と雑巾で兵舎の廊下を掃除していた。

 掃除中、試験で戦った騎士の人たちと話した。話を聞くと歳は俺と同じくらいで、みんな新人騎士なのだと言う。

 確かにみんな若かった。

 そしてもう一つ、分かったことがある。


「位が高い人がなれるって本当なんだなぁ」


 ルミノから聞いた話を思い出す。騎士団には貴族や位の高い人が入れると。

 そしてじっくり話してみると、なんとなくだが気品の高さが見え隠れしていた。喋り方は丁寧だし、所作に礼儀正しさがあった。

 掃除をしている間に昼食の時間から、さらに時間が経ち騎士団の仕事も終わりに近づいていた。


(そう言えば一日だけ仲間を集める期間を与えるって話だったな。すっかり忘れてた。もう……間に合わないよなぁ)


 学園の理事長から言われていたことを今更思い出した。


「ちょっといいかな」


 中庭の花壇の水やりをしていると、優しい声色で話しかけられた。

 誰だろうと思い振り向くと、そこには凛々しくスマートに立つ……。


「団長?」


「その仕事が終わったら、顔を貸してくれ」


△▼△▼△▼△▼

 今朝の彼とは雰囲気が違った。

 柔らかくて、穏やかだった。

 夜の石畳の道を、フェザー団長の持つランタンを頼りに歩く。


「仕事はどうだ?」


 兵舎から出てずっと静かだったが、ぽつり、と聞かれた。


「始めたばかりなので、なんとも。ただみんな良くしてくれます」


「そうか」


 そこで再び静寂が訪れる。

 二人分の靴の音だけが聞こえる。


「副団長はどうだ? よくやってるかい?」


「こちらが上手く接せられてるかどうか不安ですが、ルミノさんはとても親切な方です」


「そっか。あの子、前一緒に住んでた子がいなくなって寂しそうにしてたからね。副団長に預けると判断したのは正解だったかな」


 またも静寂。

 ほどなくして、灯りが燈る店の前で立ち止まった。

 ここは確か前にルミノと一緒に来た酒場だ。


「ここまで来て遅いと思うけど、君、酒は?」


「飲めません」


「そりゃ良かった」


「え? 良かった?」


「私も得意ではないから、気を使う事なくお茶を頼める」


 入って行く団長の後に続く。

 酒場の店主がチラリとこちらを見て、すぐに興味なさげに目を逸らした。

 窓際の席に二人で座ると、可愛いウェイトレスさんが注文を聞きに来てくれた。何が美味しいのかわからないので、団長に注文を任せた。


「ありがとうございます、団長」


「いいって。それより、プライベートで団長はやめてくれ。フェザーでいい」


「え、でも」


「その方が気が楽になるから」


「……それじゃあフェザーさんで」


「ま、いいか。よろしくなライコちゃん」


 互いに、呼ばれて違和感のある呼び方に決まった。

 ほどなくしてウェイトレスさんが料理を運んできてくれた。ぐつぐつに煮込まれたシチューだった。湯気が立っていて、美味しそうな匂いがする。


(A2E2世界と合わせて、初めて美味しそうと思える料理だな……)


 異世界で、今まで舌に合わない料理を食べて来ていた。

 しかしこの店のシチューは、一口食べたところから旨みが口いっぱいに広がって、暖かなスープが体を温める。

 具材のにんじんは、ちょっと苦味があったけど、クリームの甘さで調和されている。味に工夫が感じられた。


「どうだ? 美味しいだろ?」


「はい、とても」


「ふふっ、よかった。ここは副団長にもオススメして、もうすっかり気に入ってるらしいからな」


「昨日ここに来た時、行きつけって言ってました」


「それは良かった」


 食事に集中して一気に平らげてしまった。

 食べ終わって顔を上げた時、ニコニコと微笑む団長の顔が見えて照れ臭くなった。


「す、すみませんガッツいちゃって」


「いいよ。それより、君と話そうと思ってね」


 シチューを一口飲んだ後、団長がゆっくりと話を切り出す。


「でも私の話はいきなりするには重いかな。少し、他愛もないことを話そう。ライコちゃん的に、何か気になるものはないかな?」


「気になること、ですか?」


 パッと思いつくもので言うと。


「フェザーさんってオフだと柔らかい感じなんですね」


「ん? あはは、今朝の説教がよほど堪えたか」


「今朝はもっとグワー! って来る感じでしたから」


「お目付け役がいた手前、対応は厳しくしないといけなくてね」


「お目付け役?」


 誰のことだろう。


「覚えてない? ほら君らが部屋に入って来た時、私と一緒にいた帽子を被った長剣使いの」


「ああ〜、あの用心棒の人」


「用心棒に見えたかい? 彼は騎士団長(わたし)の側近だよ。皇帝陛下の息がかかった監視役とも言う」


「監視役……」


「私と騎士団の仕事がちゃんとしているかってのを見てるんだよ。だから今朝はああ言う対応になった。ただ今夜は、君と仕事抜きで話そうと思ってね」


 凛々しくて、厳しくて、そして今は物腰が柔らかく余裕があって優しそうなフェザー団長にも、色々と“しがらみ”があるらしい。


「さてと、私の話ばかりしていると脱線したまま帰って来られなさそうだ。本題に入ろう。君はこの街の住民じゃないんだろ? どこから来たんだい」


「どこからって……その、ボスコドンナって呼ばれてる雷の降る森から」


「それは知ってるさ、報告書にあったからね。ただどうもそれだけじゃないと、私の勘が言ってる」


「……えっと」


「森にいた以前の記憶がない、なんて言われても納得できないほどに君は———()()()()()()()()()。根底にある文化の違いって言うのかな、喋ってる言葉は同じなのに、中身はまるで私の知らない“世界”で生きて来た人間のようだ」


 世界……!

 もしかしてフェザー団長は、俺の正体に気付き始めている……?


「人を見る目に自信はないが、人を見て来た数なら自信があってね。この街一つとっても端から端まで人を見ていけば、まったく違う価値観を持っている人がたくさんいる。そのおかげで君の違和感にもすぐ気づけた」


 そもそもエルフとかドワーフとか異種族も一緒に暮らしているし、と団長は付け加えた。

 俺は今朝窓から見たエルフの姿を思い出した。


「……」


「答えない……いや、その顔は()()()()()()が正解かな? それもライコちゃん自身が言えないと決めたものじゃなくて、君よりも上の人間から言ってはいけないと言われているのかな?」


「!」


「図星か。さて、ずいぶん難問になってきたな。身元不明の君の上には一体誰がいるんだろうね、まるで想像がつかないや」


 あるいは……、と続ける。


「与太話だと思って無視してたけど、雷神の子(トールオブキッズ)だと仮定するのなら、君の上の人間……いや、人間ではなく神が君に口止めしている」


 ど、どうしよう。

 もうどんどん真実に近づかれていっている。

 いずれ俺が異世界人だってバレるだろう。バレた時、俺はこの国でどう言う扱いになってしまうのかわからない。


「皇帝陛下もトールオブキッズだ、もし君が皇帝と同じならもはや騎士団だけで収まる話ではなくなって……っと」


 話の途中で、団長が口を閉ざして唇の前に人差し指を立てて、俺に静かにしろとジェスチャーして伝えて来た。

 酒場の入り口の扉が開いて、客が入って来る。

 それを団長は注意深く見つめていた。


(? さっきまで話してる途中に客は来ていた。なのになんで今は気にして?)


 扉を開けて入って来たのは、酒場に似つかわしくない瀟洒で可憐なドレスを身に纏った美しい女性だった。

 その後ろからは、青いふわふわとした髪型の女性も入って来る。前を歩く女性とはまた違った種類のドレスを着ていて、胸元がパックリ開いていた。

 酒場のざわつきの種類が変わる。呑んだくれの騒ぎではなく、現れた二人の美女の登場に対する動揺したざわつき。

 二人とも貴族だらけの騎士団の人たちを、輪にかけてさらに高貴な雰囲気を醸し出していた。身なりだけでなく余裕な歩き方からもそう感じた。


「ボルト魔導隊の隊長と、その側近だ」


「え?」


 わからない俺に団長が耳打ちして教えてくれたが、余計にわからなくなった。

 魔導隊とは一体?初めて聞く単語だ。

 それを聞く前に、団長がおもむろに立ち上がった。


「ウルラシア様! こっちですー! こっちこっち!」


 団長が呼びかけると、呼ばれた二人の美女は一瞬驚いた表情を浮かべたが、こちらにやって来た。


「おやおや、フェザー様。ごきげんよう。これはこれは奇遇ですこと。そちらは?」


 団長がウルラシアと呼んでいたドレスの女性が、うやうやしくスカートの裾を掴んでお辞儀をした。そして俺に目を向けて来る。


「こちらは今日入ったばかりのウチの新人で、ライコって言います」


「おや、お噂は聞いておりますわ。確か騎士団の団員100人を切って捨てたと」


 どういう伝わり方してるんだ⁉︎

 100人も相手してないけど⁉︎


「耳が早いですね。あ、どうぞこちらにおかけください。そちらのルクスさんもぜひ」


 団長が俺の隣に座り、自分が座っていた席を差し出す。

 ルクス、と言うのは一緒に来ているふわふわヘアーの人のほうか。

 しかし彼女は胸の下で腕を組み、口を歪ませてそっぽを向く。


「お気遣いどうも、でもお断りするわ。私は一人飲みがいいの」


 ツンツンしていて気難しそうな人だと思った。

 そんな彼女の肩を掴んで、ウルラシアさんが座らせる。


「だったら私と一緒に来たのはなぜ? ほら座ってくださいまし。フェザー様のご厚意を無碍にすることありませんわ」


「ちょ、ちょっと!」


「感謝しますわフェザー様。新人さんとお二人で楽しんでおられたのに、我々が来たからわざわざ呼びかけてくださったのでしょう? 水を差したようですみません」


「いえいえ、しかし珍しいですね。こんなところでお会いするとは」


「ふふっ。実はフェザー様がこちらにおられると聞いて飛んできたのですわ」


「……? ……、そう、ですか」


 一瞬団長が考えるそぶりを見せた。しかし答えが出なかったようで、ウルラシアさんへの返答を優先して返事をした。

 団長は、怪しんでいる?

 何か思惑があって彼女達がここに来たと考えているのだろうか。


「おほほほっ! そんなつまらないお顔浮かべないでくださいな。ふふっ、わかりました。正直に話しますわ。本当のことを言うと……実は我々はフェザー様ではなく、そちらのタラコ様を監視していました」


「た、タラコ?」


「あ、すみません。トラコ様でしたっけ」


「ライコよ」


 間違えまくるウルラシアさんを、横に座るルクスさんが止めてくれた。

 タラコとか、トラコとか、そんな間違いされたの初めてだ。

 素で間違えられたようで、彼女に悪気はなさそうだった。


「あっ! そうでしたそうでした、カイコ様でしたわね」


「どうしてウチの団員を監視なんてしていたのですか」


 また間違えられて俺とルクスさんが訂正しようと身を乗り出したが、それより先に、ピシャリと団長が指摘した。

 あ、確かになんで俺が監視なんてされてたんだろう。


「耳の早さは監視してたからって説明がつくけど……なぜ監視なんてしていたのかがわかりません」


「なぜ、と言われましても皇帝陛下直々のご命令ですので」


「陛下が……? だけど、昨日は一旦保留ってことで大人しくしてれば大丈夫だと」


「その辺りは私もわかりませんわ。私はただカイコ様を監視しろ、とだけ命令を聞かされましたから」


「…………でも、あなた方が今ここで接触しに来た理由は答えられるはずでしょう?」


「あら」


 ずっと余裕そうにしていたウルラシアさんが目を丸くした。そしてニタリと嬉しそうな笑みを浮かべた。


「流石はフェザー様、鋭いですわね。ふふっ、先ほど監視の任務は終わりましたの。もう隠すことは何もありません。ですからこうして、対象と実際にお話ししてみたいと思いまして」


「任務内容を軽い感じで明かしたから、そう言うことだろうと思いました。ただ今の彼女は団に入ったばかりで、まだ心の整理ができていません。ですのでまともな回答は得られないかと」


「構いませんわ」


 ウルラシアさんは、俺の方に身を乗り出して来たかと思うと、笑みを浮かべたままこう聞いて来た。


「あなたは異世界から来たお人ですわよね」


 次の瞬間———俺は元の世界に戻って来ていた。

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