入団試験
「……団長の話はこう言うことみたい」
まだ事態が飲み込めてない俺に、ルミノが説明してくれる。
「あなたには騎士団のメンバーに加入して欲しいんだって。ただし騎士になれるのは本来、貴族か位の高い人間、もしくは平民でも実力を認められた者……すなわち私のような人間だけ。だから無条件で即加入ってわけにもいかなくて、一応試験しとこって事」
「それで、俺はここに立ってるのか……」
騎士団の兵舎から少し離れた、学校のグラウンドのような広い砂地の敷地。
暇している騎士達が観客として集められて、そんな彼らのど真ん中に俺は立たされていた。
「もし試験に落ちた場合、騎士にはなれないけど、兵舎の掃除係として雇うって」
「……俺的にはそっちの方がいいんだけど」
「ほんとに? 明日から一生箒と雑巾が家族になるけど」
「前言撤回」
俺は旅がしたいんだ。
蜘蛛の巣に絡まれて身動き取れなくなるのはゴメンだ。
「だったら死ぬ気で頑張って!」
「って何すんの⁉︎」
「渡された紙に書いてあったでしょ? 今すぐに騎士団に入ってもらうってズルをするんだから、早くて簡単にあなたの実力を測れる方法……すなわち、今から出てくる騎士を全員倒せ!」
(また対人戦⁉︎)
に、苦手なんだけど……!
まだ嵐山君に負けたショックも回復してないのに!
「とにかく頑張って!」
ルミノが離れて行ってしまう。
それと同時に、一人の騎士が目の前に立つ。細い剣を持った、歳若い女の子剣士だった。
「最初の相手は私です。お胸の大きな珍客さん」
「おむ⁉︎」
「食堂で初めて見た時から腹立チェストオオオオオ!!!」
「わわっ!」
振り下ろされた剣を横に避ける。
避けられたとわかった少女は、すかさず横に振ってくる。
それも身を翻してかわし、距離を取る。
「ま、待って! なんか私怨がない⁉︎」
「ゆっさゆっさ揺らして見せびらかしやがってよぉ……」
「びらかしてない!」
さらに追撃してくるのを躱していく。
らちが明かないと思ったのか、少女は剣に属性を纏わせた。岩のようにゴツゴツとした刀身に変化した。あれは土属性か。
だが岩のようにゴツくなったおかげで重量が増え、動きが鈍くなって躱しやすくなった。
しかしおもむろに地面に叩きつけたかと思うと、剣についていた岩が破裂して、勢いよく飛んでくる。
「っ!」
咄嗟に斧を出して盾にしてガードする。
「斧? 珍しい武器使ってるわね!」
軽くなった剣で連続した突きを繰り出してくる。
それらを斧で防ぐ。
「ほらほらほらほら!」
「もう、知らないからな!」
突いて来た剣を斧の刃と持ち手の付け根に引っ掛けて、捕まえる。そしてそのまま斧を回転させ、遠心力で剣を引っ張り込みつつ、激しく動かして彼女の手から奪い取る。
驚いた彼女のスキをついて、足払いして転かせた。
そしてすぐに立ちあがろうとした所で、片膝ついた状態の彼女に斧を向ける。
「まだ続けますか」
「……わかったわよ。降参」
「次は俺だ!」
少女剣士が降参して一息つけるかと思ったら、すぐさま違う騎士が現れた。
驚いたが、剣を横に広げて走って突っ込んでくるのが見えた。
あの位置なら剣だけを切れる。
斧をしまって剣を取り出す。そして嵐山君との戦いで最後に出した技———
「“風切迅雷”———!」
瞬きの内に走って来ていた騎士の剣を真っ二つに切り落とした。
「ええっ⁉︎ 何もできずに退場かよ!」
「次はこの俺だああ!」
次の相手は頭上。
上空から剣を突き刺そうと落ちてくる。
この位置関係も、嵐山君との戦いで経験済みだ。
斧に切り替えて、大きく飛び上がる。
「“唐傘雷撃”!」
勝ち上げた斧で剣を粉砕し、相手の体を天高く吹っ飛ばす。
空中で三人目を倒し、地上に降り立った所で何かが飛んできた。小さなシルエットが三つ。
斧でガードするものの、一つが隙間を抜けてしまい、俺の左肩を削った。
飛んできていたのはナイフだった。
「続いては私よ!」
(さ、さっきから不意打ちばかりじゃないか⁉︎)
次はナイフ使いの女性騎士。
ナイフを投げられる前に雷の速度で走って近寄り、ナイフを持った手を掴み上げる。
「は、速い⁉︎ 近づいてくるのが見えなかった⁉︎」
「でぇりゃああああ!!」
今度は背後から切り掛かってくる相手。
腰の後ろに回した左手から剣を出して、背後からの攻撃を防ぐ。そして相手の武器を弾いて、振り向きざまに斧を叩き込み、武器を粉砕して相手の体を吹っ飛ばす。
「まだ私は降参してないわよ! ———むぎゃっ!」
ナイフの騎士が切り掛かって来ようとしていたが、さっき天高く吹っ飛ばした騎士の体が彼女の真上から落ちて来て彼女を押し潰した。
そのまま地面に伸びてしまった。
だ、大丈夫だろうか。落ちて来た人も。
「人の心配している場合かな?」
「ッ!」
地面が盛り上がって、こちらに向かって近づいて来ている。
モグラか何かが地中を掘り進んで来ているのか?
いや違うこれは、土魔法だ!
咄嗟にその場から離れると、俺のいた場所に鋭く尖った岩が突き出して来た。あのまま留まっていたら刺されていた。
「ふふふ、もしかして騎士団にいるのが剣士だけだと思った?」
術者の位置はわかった。
地面から突き出した岩を根本の方でぶった斬る。そしてそれを斧の腹に乗せて、術者の方へ打ち返す。
「はっ⁉︎ ちょ⁉︎ 私の魔法が利用され———むぎゅっ」
飛ばした岩を追い越して、着弾するより先に、術者に雷のスピードで駆け寄って地面に組み伏せる。
頭上を飛ばした岩が通り過ぎて行った。
「まいったは?」
「ま、参りました」
「次は俺だ!!」
まだ来るのかよ!
次々と襲って来る騎士達。攻撃を躱し、いなし、武器を破壊して無力化させて、降参させて行く。
もう何十人倒したかわからない。
「はいはいはい! そこまで! 副団長命令よ!」
ほどなくした頃にルミノが手を叩いて騎士達を止めた。
俺も動きを止める。
「もう十分ライコの実力はわかったはず! 何十人で挑んでも勝てなかった!」
その言葉にみんな納得した様子だった。
良かった、最初の方に挑んで来た少女剣士とかが再度挑んで来た時には、いつ終わるんだと絶望していた。
「なあ! お前! ライコって言ったっけ」
「あ、はい。イナカミ・ライコです」
挑んで来た騎士から名前を呼ばれて、声がした方を振り向くと、そこには目をキラキラ輝かせて集まって来る騎士達の姿があった。
「え? え? な、なんですか集まって……」
「すげぇ! すげぇよお前! とんでもねぇ強さだ! しかも武器だけを攻撃したり、地面に組み伏せたりと、俺たちを傷つけないようにしてくれたな! ありがとう!」
「あ、あはは」
アンタ達は本気で切り掛かって来たように見えたけどな!
途中ナイフとかに斬られたし!
自分の体を確認してみると小さな傷が目立つ。と、頭に回復ポーションが投げ込まれて、ビンが割れると同時にポーションが体にかかって染み渡る。
傷が癒えて行く。
「おお、回復して行く……」
「あっはっは! いやー、見事見事!」
ポーションを投げたのはフェザー団長だったらしい。
帽子を被った用心棒を引き連れて、笑いながら現れた。
「この実力なら誰も文句は言わないだろう。おめでとうイナカミ君! そしてようこそ! ソイル騎士団へ!」
「は、はあ」
強い力で無理やり握手をされる。
こ、これで良かったんだろうか。




