ソイル騎士団フェザー団長
「仲間、と言われても……」
目が覚めると、元の世界に戻る前と同じルミノの家で布団の中に入っていた。時間も夜だ。
布団から顔を出して天井を見上げる。
「仲間かぁ……」
理事長からフィフスキングダムにはパーソナルワールドから連れて来た仲間と参加してもらう方針に変更したと言われた。
パーソナルワールドからなら、A2E2世界に異世界人も飛ぶことができるのだとか。
とは言え、仲間を作るとか考えたことがなかったので困った。
「うーん……考えすぎて、疲れてきた」
体の疲れもそのままのようで、どんどん眠くなって来た。
自然とまぶたが落ちて眠りにつく。
意識がなくなる前に、隣のベッドからルミノの寝息が聞こえた。
△▼△▼△▼△▼
ゆさゆさ、と体が揺れる。
穏やかに意識が覚醒してくる。
「ライコ、起きて。朝よ」
「うーん……おはよう、ルミノ」
「今日は私騎士団の方で働くけど、あなたは家で大人しくできる? 外に出るなら私と一緒にいてもらうけど」
カーテンを開けたり、ベッドを整えたり、朝の支度をしながら説明される。
眠気まなこを擦りながら起き上がる。
家にいても何もすることはないし、外に出る方がいいと思う。
「ルミノと一緒って言うのは……?」
声がまだ起きない。
舌足らずになってしまう。
「まだ信頼されてないからね。昨夜ウチに来た先輩が言ってたでしょ? 大人しくしないと。そのためには、外に出る時あたしが一緒にいた方がいいから」
「たしかに」
彼女の言う通りだ。
でもそれはつまり、騎士団の仕事に同行するってこと?
「邪魔にならない?」
「どうだろ? 仕事は街の見回りくらいだろうし、多少は大丈夫だと思うけど」
着替え始めたので顔を背ける。
ベッドから出て、窓際に立つ。そして外の景色を眺めてみると……住宅街の密集した景色で、うわー素敵な景色ー、とはお世辞にも言えなかった。
だが異世界の煉瓦造りの建物なんかは物珍しかった。
家の近くの道路を、耳の長い美しい麗人、エルフが歩いていた。こちらに気づいて会釈してくれたので、こっちも頭を下げる。
「そういや俺の今の格好」
昨日のうちに服屋で買ったパジャマを着ている。
「ほらあなたも着替えて着替えて」
「うん」
ベッド横に置いておいたビキニブラとミニスカート、そして安全靴の、いつもの格好になる。
A2E2世界にいた時はこの格好だったが、こっちの世界に来ると寝ていた時のパジャマになっていた。そういうシステムになっている。
「それで、どうするの?」
「ついて行かせて」
「了解。なら朝は兵舎の食堂にしよっか」
明るい朝日の空、家から外に出る。
日差しが眩しい。
カチャカチャと金属音と共に歩くルミノの後ろをついて行く。金色の髪が揺れていた。
「いい? 昨日行った騎士団の兵舎に行くけど、多分今日は騎士団長がいるはず。事情はすでに伝わってるはずだけど、あなたは軍にとって不純物、決して暴れたりしないように」
「しないよ」
「わかってるわよ。でも、言わなきゃいけないの。っと、ほらついた」
兵舎の入り口の門番さんに挨拶してから、中に入る。
食堂に行くと騎士の人達でごった返していた。
「よー! こっちだ」
昨日のベテラン騎士さんが手を挙げて俺たちを呼んでいた。
ルミノがそれに手を軽く挙げて返事をしてから、配給を取りに向かう。
「すみません、この子にも一つお願いします」
キッチンのコックに俺の分を頼んでくれた。
長い帽子のコックは頷いて、配膳係の人に伝える。そしてルミノと、俺の分が配給された。
「それじゃ先輩のとこに行こっか」
「は、はい。本当に俺が食べていいの? 誰かの分が無くなったりとか」
「常に食事は十二分以上に備えるべし。ここの団長が取り決めた兵舎のモットーの一つよ。あなた一人の分を用意するくらいワケないわ」
歩いてベテラン騎士の座っている四人掛けテーブルの元に向かう。
途中、周りで食べている騎士から目を向けられた。珍しい物を見るかのような視線だった。
「やっぱり部外者は目立つよな……」
「いや格好のせいだと思うけど?」
「できれば公序良俗に沿った格好をして欲しいけどな」
ルミノとベテラン騎士から突っ込まれる。
二人で隣り合ってテーブルに座ると———真向かいの、ベテラン騎士の隣に一人の男性が座った。
まるで見計らったかのようなタイミングだった。
俺たちが座るのを待っていたような。
「ごきげんよう、お二人さん」
彼の姿を見て、ルミノがひどく驚いた表情をした。
「だ、団長⁉︎」
「え⁉︎ だ、団長って……⁉︎」
この人がルミノ達の団長⁉︎
中性的な顔立ちで、背筋に一本の芯が通った凛々しい男性。確かに胸には勲章が3つも輝いているし、着ているものも礼服っぽくて、周りにいる騎士達とは一線を画す風格がある。
「フェザー団長、なぜこんな不意打ち気味な登場を……」
「君たち二人を逃がさないためにね、そこにいるモレイル君に頼んだんだ」
「あははー」
ベテラン騎士さんが頭を掻いている。
モレイルって名前だったのか。
「では俺はこれで」
愛想笑いをして、すぐに立ち上がって去ろうとするモレイルさんの腕を、団長が掴んだ。
「どこへ行くんだい?」
「お、俺がこの場で話せることなんてありませんから」
「僕が不在の時、君の裁量で決めたことだろう? 身元不明の少女の身柄を副団長に預け、皇帝陛下に直談判して彼女がこの街で住むことに許しを得た、なにより……彼女の身柄を我々ソイル騎士団で預かる、と」
「う、ぐ、く………そうです」
観念して座り込んだ。
淡々と詰めるフェザー団長の言い方には、柔らかくも確かな重圧があった。ニコニコ笑顔だが目が笑っていない。
「おっとごめんね、君を怖がらせるつもりはないんだ」
「い、いえ! 怖がってません! えっと……その、お邪魔してます」
「うんうん。その食事を食べ終えたら、改めて話そうか。後で団長室においで。もちろんモレイル君と副団長もね」
「「は、はいいい!」」
二人とも団長の冷えた圧力に逆らえないようで、団長が食堂から立ち去って姿が見えなくなるまで、立ち上がって敬礼していた。
「うう、わかった? ライコ。あれがウチの団長で、怖いでしょ?」
「う、うん。なおのこと、ここに居ていいのか不安になって来た」
「今居なくなられると俺らの首二つが飛ぶ。頼むからさっさと飯を食って、団長室に来てくれ。俺は先に行くからな」
モレイルさんは先に行った。
残された俺たちは、通りにくい喉に無理やり食事を押し込んで、なんとか食べ終わって団長室の方へ向かった。
食事は量は多くて、味は……まあ、正直に言うとイマイチ。
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「ここで問題です。透き通った透明な聖水の中に、赤ーい絵の具を一滴垂らしこむとどうなるでしょう」
団長室の中には二人の人間がいた。
一人はフェザー団長。
もう一人は帽子を目深く被った、長い剣を持つ用心棒のような男性。一言も喋らず、部屋に入って来た俺たちに目を向けることなく、ただただ静かに佇んでいた。
そして三人横並びで整列すると、団長がクイズを出した。
「絵の具を水に垂らすと……?」
「はいイナカミ君が一番に反応した。答えてごらん」
「えっ? えっと、聖水は赤く染まると思います」
「そう! その通り!」
大袈裟な身振り手振りで、団長のデスクから椅子をわざわざ俺たちの目の前まで持って来て、そして笑顔で座り込む。
「いいかい? 聖水は我らソイル騎士団だ。そして赤い絵の具とは君だ、イナカミ君」
「ど、どう言うことでしょう」
「すなわち君が突然この騎士団に入ってくると、規律と礼儀で整った我ら団の色がたちまち変わってしまう恐れがあると言うことだよ。すなわち君は不純物、わかるかい?」
「は、はい」
「出て行けとは言わないよ、でも入ってくる時に一言何か言ってもらわないとねぇ? こっちも組織だからさ。どんだけ緻密に編んだ純白のウールの服だって、虫に食われたら価値が下がってしまう。組織に穴ぼこを作るわけにはいかないんだよ、わかる?」
「す、すみません」
「穴ぼこって言うのは落とし穴って意味合いもあってね。弱点とも言う。君がこの騎士団の弱点になるかも知れないんだ。もし君が外で誘拐されたら、どうなると思う? そこのベテラン君が勝手に騎士団預かりにしてしまったもんだから、我々は総力を持って君の救助に向かわなければならない。兵舎ん中を空にして、そんで君を助けている間に、別の事件が起きたらどうしよっか? ねー? まあ君が市民なら助けないと言う選択肢は元からないけどねー? 助けなければならないって状況が厄介だって話してるんだよー? ニュアンスの違いがわかるかねー?」
しかも身元不明でそもそも市民じゃないかも知れないと来たもんだ、と団長の説教は続く。
か、体がどんどん縮んでいくみたいだ。
あ、圧力がすごい……。
「さてと。んじゃ、とりあえず君にはこの仕事をやってもらう」
おもむろに紙を渡された。
こっちの世界の文字だが、転移した際にこちらの文字や言語でも読めるようにしてもらっているので、読める。
「え? ちょっと待ってください、ライコに仕事をさせるんですか⁉︎」
紙の内容を読む前に、ルミノが横から俺の腕を掴んで読むのを止めて来た。
そして団長に問いただす。
「そうだよ。ま、とりあえずね」
「とりあえずってなんですか。どうして部外者のライコに⁉︎」
「副団長。ちゃんと内容を確認してから文句言って欲しいな」
「内容?」
ルミノが紙を覗き込んできて、俺も改めて内容を確認する。
そこに書かれていたのは。
「「騎士団入門試験?」」
「預かりとか扱いが面倒くさいから、もうウチに入っちゃいなよ」




