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五界神対戦

 その夜、皇帝陛下に報告しに行ったベテラン騎士が、『保留という扱いになった』と家に報告に来てくれた。これから滅多なことをしなければ、普通に暮らしていける。なので今日のところは一旦寝ようということになった。

 そして布団の中で、元の世界に戻った。


「っと、戻るのも慣れて来たなー」


 転移した時、昼時でご飯前だった。そこから十分経過した世界に戻って来た。

 屋上からグラウンドや中庭を見ると、主に一年生が昼食のお弁当を食べていたり、遊んでいたりする。二年生、三年生の姿が少ない理由は彼らが異世界に飛んでいるからだ。

 お腹が鳴る。パーソナルワールドに限り、向こうでどれだけ食べても、こっちではお腹が空いたまま。昼食は何にしよう。


 ———ピン、ポン、パン、ポーン。


 校内放送のアナウンスが聞こえてくる。

 足を止めて、耳を澄ませる。


『一年A組火村君、海郷(うみさと)君。B組稲神君、嵐山(あらしやま)君。C組黄土(おうど)君。理事長がお呼びです、手を止め至急理事長室に移動してください。繰り返します———』


 理事長からの呼び出し?

 昨日の今日で、また?

 というか今呼ばれた五人は、パーソナルワールドを貰っている五人だ。


「とにかく行こう」


 早歩きで理事長室に向かう。

 速く走れないのがもどかしかった。


△▼△▼△▼△▼

 理事長室の前に着くと、すでに呼ばれた他の四人が揃っていた。

 火村君、海郷君、嵐山君、黄土君。


「よお、稲神。午前中ぶりだな」


 一緒に火の町に行った火村君が一番に反応してくれた。


「お前はなんで呼ばれたのかわかるか?」


 同じクラスの嵐山君も話しかけてくれる。

 しかし俺もわからないので首を横に振る。


「共通点はやはりパーソナルワールドだろうな」


 海郷君がそう言う。

 この五人が呼ばれたとなれば、やっぱりそう言うことになるんだろうか。


「…………」


 黄土君は、ジッと俺のことを見つめていた。

 真顔で、無表情で、なんの感情も読み取れなかった。


「ど、どうかした? 黄土君」


「……いや、なにも。それよりパーソナルワールドと言えばさっきまで俺はそこにいた」


「あ、俺もだ」


「同じく。稲神もか?」


「う、うん」


 全員頷いている。

 全員さっきまでパーソナルワールドにいた。

 そして10分経って全員戻って来たところで、理事長からの呼び出しのアナウンスが鳴った。


「入れ」


 扉の向こうから理事長の声が聞こえた。

 みんな顔を見合わせる。火村君がゆっくりと扉を開けた。その後ろについて行く。

 中ではデスクに理事長が座り、応接用のソファーに一人の女性が座っていた。

 相変わらず窓から差し込む日光が、理事長を神々しく照らしている。


「用件は、あらかた予想がついているか」


「パーソナルワールドですよね」


 黄土君が返す。

 それに理事長が深く頷いた。


「その通り。っと、その前に彼女のことはもうみんなわかっているよな」


 ソファーに座る女性。

 メガネをかけて、猫背気味の彼女を知らない人はここにいない。


「知っての通り、彼女は異世界転移装置を開発した会社から派遣されて来た特別教師の小研(ことぎ)華式(はなしき)先生だ」


「どうも」


 ずり落ちそうなメガネを押さえてお辞儀する。

 自然と俺も頭を下げてしまう。


「さて、想像の通り今からするのはパーソナルワールドに関してだ。今日の昼、君たちはかの世界へ行っていた。そしてそこでの記録はこちらで全て把握済みだ。特に印象的だったのは……黄土君かな」


「え、俺ですか?」


「君は向こうの世界で仲間を使っていた。とても親しげで、君のことを信頼しているようだったな」


「えっと、あの人たちは別に仲間ってわけじゃ……」


 黄土君は仲間を使っているのか。

 仲間か……。

 もしかして仲間がいれば、もっと遠くまで冒険できるのだろうか。


「それから火村君」


「はい」


「君はとにかく強くなろうとしていた。火の属性を鍛え、剣の腕前も鍛え続けている。熱意のある姿勢で、とても感心した」


 火村君は強くなろうとしている。


「海郷君は異世界で起きていた事件を解決し、悪事を行う者と戦う決意をした。嵐山君は、他の子とは違いとにかく自由を求めて動いていた。そして稲神君……は、まあ、大変だったな」


 俺だけ同情された⁉︎

 大変だったって……ああ、ゴミ箱に突っ込んだことか。そうかあれも理事長に全部見られてるのか。

 は、恥ずかしい。


「ゴミ箱に頭から突っ込んだり、スカートを子供に捲られたりと」


「い、言わなくていいですよっ!」


「でも女の子と風呂に入り、街中をデートし、同じ部屋で眠ったのはそれらを超えてあまりある幸福だったかな」


「言わないでくださいっ⁉︎」


 他の四人や女性の小研さんから見られている。

 羅列されると改めて自分の行動を客観視でき、とても恥ずかしいことばかりしていたのだと気付かされた。

 あ……穴があったら入りたい。


「と、言うわけで二日の間に色々と進展している君たちだが、気になっているのだろう? なぜ私が君たち五人にだけパーソナルワールドを与えたのか」


 本題に入りそうだ。

 気を引き締めて、理事長の次の言葉を待つ。


「ちょっとした実験をしてみたくてね。君たち五人は初日に目覚ましい成績を残した。だから早い段階からパーソナルワールドを渡し、実力を向上させて、五人での“対戦”を行ってみようと考えた」


「対戦?」


 五人とも同じ疑問を抱いて、首を傾げて聞き返す。


「異世界で五人が戦い、実力を確かめる。人対人の勝負試合だ」


 それは、もしかしてここにいる五人での戦闘試合を行うってことか。

 つまるところ対人戦。


(た、対人……それはまずい!)


 さっきベテラン騎士との勝負を思い出す。

 足がすくんで、転けてしまったのだ。まともに剣を構えることもできなかった。俺は人と戦うのが苦手なんだと思い知った。


「火神火村鳳仙(ほうせん)、水神海郷龍斗(りゅうと)、風神嵐山風雅(ふうが)、雷神稲神雷狗(らいこ)、土神黄土伏峰(ふしみね)。君たちに与えた称号にちなんで〈五界神対戦(フィフスキングダム)〉を開催する。もちろん異世界での戦いはデータとして、世間に公開する。恥のないよう存分に戦ってほしい」

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