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ここは帝国トルゼノオ

 ルミノさんの自宅から出て、真っ先に目に入って来たのは天を衝くほどに高く聳え立つ、塔。

 真っ白な神々しい塔。

 それが街の中心に建っていた。


「あれが、この国の“王城”です。あそこに皇帝陛下が住まわれており……」


 銀色の鎧を着たルミノさんが隣に立つ。

 ちなみに俺の格好はルミノさんの服を借りて着ている。体のサイズは、ルミノさんの方がちょっと背が高いくらいで大きくも小さくもなく、ちょうど良かった。

 こちらを見るルミノさんの目は、納得しているようだった。


「街のどこからでも見えるあれを知らないとなると、もはやすでに証明されてしまったような気がしますけど」


「あ……」


「でもキチンと調査はします。まずは近くの公園まで行きましょう」


 トルゼノオ帝国の都市はとてつもなく広かった。

 世界最大とも言われる大国で、都市も繁栄っぷりを表して広大で、所狭しと高い建物が立ち並んでいる。

 隙間を縫って入り組んだ路地を進むと、公園に着いた。人口が多いためか公園で遊ぶ子供達が沢山いる。

 ルミノさんはベンチに座って談笑していた奥様がたに話しかけに行った。


「すみません、お話の途中お邪魔します」


「あら、ルミちゃんいらっしゃい」


「お久しぶりです。実は、ご協力いただきたいことがありまして」


「もー、そんな他人行儀じゃなくて、昔みたいでいいのに」


 ルミノさんは親しまれているみたいだ。

 話しかけた奥様や、近くにいた子供からも警戒されていない。

 一人の鼻水を垂らした男の子がこっちに走って来た。


「ねぇーちゃん誰ー? ルミお姉ちゃんのお友達ー?」


「ううん、俺はルミノさんに助けられたんだよ」


「あーわかったー! ルミお姉ちゃんの彼女だー!」


「か、彼女⁉︎ 友達じゃないって言ったのに飛びすぎじゃない⁉︎」


「前はリアお姉ちゃんだったけど、今はボサボサお姉ちゃんが彼女なんだね」


「ボサ……」


 確かに静電気で頭はボサボサだけど。

 お風呂入ってもボサボサなくらい筋金入りのボサボサだけども。

 なんだか不名誉だ。


「というか、彼女じゃないよ」


「じゃあストーカー?」


「違うよ! さっきから極端! 俺とルミノさんは会ったばかりなんだから」


「どりゃあー!!」


 完全に意表を突かれた。

 子供と話している最中に、別の子供が背後から忍び寄る気配に気づかず、思いっきりスカートを捲られてしまった。ルミノさんから借りた服はロングスカートだったが、スカートの裾が腰につくまで捲り上げられた。


「あれ⁉︎ このパンツってルミっちが前に履いてたやつじゃん! なんでねーちゃんが履いてんのー?」


「やっぱり彼女なんだね」


「だ、だから違うって!」


 借りたパンツを見られてしまい、さらに疑念が深くなる。

 さらに子供達が集まってくる。

 だ、誰か助けてー!


「ちょっと君たち! その人をあんまり揶揄わないの!」


 奥様方から聞き込んでいたルミノさんが助けに来てくれた。

 俺と子供達の間に入って来て、子供達に背中を向けて両腕を広げる。


「この人はまだ調査中だから……」


「スキありーー!!」


 ガバッ!とルミノさんのスカートも捲られた。

 上半身や腕や足に鎧を身に付けているが、腰回りはスカートだった。それを、子供達に背中を向けていたせいで思いっきり捲られた。

 可愛らしいピンクのパンツが俺の目の前に晒される。

 慌てて目を逸らした。


「きゃあ! ちょ、ちょっとそれどころじゃないんだってば! えっと、一緒に来て! 逃げるよ!」


「え、あ!」


 腕を引っ張られて公園を出る。

 そして人気のない裏路地に逃げ込んだ。

 顔を真っ赤にしたルミノさんは、恥ずかしそうにスカートを抑えている。


「お、お見苦しい物を見せてしまい申し訳ありません」


「いや……」


 あれ?でもさっきお風呂に一緒に入ったよな。

 彼女が恥ずかしがる基準がわからない。


「こほん。で、お母様方に聞きました。あなたのことは知らないとのこと。外見を見てもわからず、噂などもないとのこと」


「そうですか」


「わかりきった結果、と言った感じですね。まあ予想してましたが。次は商店街に行きますよ。ここから近いのは北の商店街ですね」


 人通りが多い店が立ち並ぶ商店街。


「お! ルミちゃん! 今度ウチに寄ってってくれよ! いい肉が入ったんだ!」


「ルミノ副団長ー! こっちにもおいでよ! 歓迎するぜ!」


 ルミノさんが歩いていると、街の人からよく声をかけられていた。

 彼女は街の顔、という感じだ。

 慕われていて、親しみを持たれている。いい人なんだろうな。


(ただ、さっきの彼女の行動)


 俺と子供達の間に入った時、彼女は子供達に背を向けていた。

 俺から子供達を守るように。


(素性のわからない俺を警戒するのは当然、それは全然いい。ただ……場合によっては敵対してしまう可能性がある)


 今の俺は嘘をついている状態、十分疑われて仕方のない。

 今以上に怪しまれるようなことはしないように気をつけよう。


「うーん、今通りを歩いてみた感じ、あなたのことを知る人はいませんでしたね」


「そうですね」


「ただこれでは詳しいところは調べられていません。路地裏の奥まった所にある酒場に行きます」


「酒場⁉︎ いや、俺入れないですよ、未成年ですから!」


「……ちなみに、歳はおいくつで?」


「15です」


「成人は14からです」


「……………」


「…………まあ、調査は続けますよ。一応」


 もはやここの人ではないと言ってしまったようなものだ。

 針の筵を歩く気分で、酒場に向かうルミノさんについて行く。

 店に入って真っ直ぐカウンターに歩いて行く。昼間だから客は少なく、カウンターにいる店主しかいなかった。


「マスター、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」


「下戸の嬢ちゃんが来るところじゃねーぜ」


「この人、知りませんか?」


 手から出した赤宝石を一つカウンターに置きながら聞き込む。あの宝石は情報料か。

 ここの通貨もヴィータなんだな。

 マスターと呼ばれた店主は、くたびれた目をこちらに向けてから首を振る。


「いや、知らねぇ。恋人自慢なら他所でやれ」


「ち、違います! 単なる素性調べですから!」


 また勘違いされた。

 なんで誰も彼もそう思うんだよ!


「素性? 調べられてるあいだに逃げ出す様子がなさそうだから、別に怪しむ必要は無さそうに見えるがな」


「……わかってますよ、そんなこと。だけど私は」


「ふっ。わかった。ウチでもなるべく情報集めておく」


「え? でも」


「副団長就任の祝いだ、気にすんな」

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