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雷の子

 水を浴びている感覚。頭から全身に、暖かい水が流れている。髪が濡れて、頬から顎へ、顎から胸元へ、谷間に溜まって胸の下に水滴が伝って流れていく……。

 女の子の体で、お風呂に入って体を洗われて……。

 ん?

 洗われて?今俺、裸⁉︎


「うわぁ!」


 驚いて一気に目が覚めた。

 目を開けると、濡れた前髪が視界を覆っている。隙間から見えるのは大理石の壁と、タイル床。


「こ、ここは、風呂場?」


「あ、目が覚めましたか?」


 後ろから声が聞こえる。

 気づいてみれば頭の上に手が置かれていて、洗われていたのがわかった。

 ていうか今の女の子の声……?


「ゴミ箱に頭から突っ込んでいたのをここまで運んで、今体を洗ってましたんですよ」


「わ! わ! わぁ!」


 後ろにいた女の子が前に回り込んできて、何も身につけていない生まれたままの姿が目の前で露わになる。


(き、綺麗な金髪と青い瞳、顔も可愛いし、胸も大きく……ってうわうわうわ!)


「あ、もしかして急にお風呂に入れられてて動揺していますか? 安心してください。とりあえず、私はあなたの味方です」


「そ、そういうことじゃなくて……」


 金髪の女の子のハダカを見ないように、目を伏せてしまう。

 視線を下に落とす。

 すると今度は自分の体を見てしまう。女の子の体で、大きく膨らんだ胸と、谷間が……。


「ど、どこもかしこも……!」


 目を閉じるので精一杯で、体を洗われている間ずっと俺は何もできなかった。


△▼△▼△▼△▼

 真っ白なバスローブを肩から羽織る。腰にベルトがついていて、巻くと細い腰にピッタリフィットして、これでずり落ちない。


「まず私の自己紹介からですね」


 俺と同じバスローブを巻いた少女が目の前のベッドに腰掛ける。彼女から言われたので、俺も真向かいのベッドに座らせてもらった。


「私の名前はルミノ・エクレール。トルゼノオ帝国ソイル騎士団の副団長を務めております」


「ルミノさん……? とるのぜのお帝国に、ソイル騎士団? すみません、何が何だかサッパリで」


「え? 帝国の名前も知らない……? あの、たしか目撃者の証言によればあなたは空から落ちて来た、とのことでしたが。今までどこにいました?」


「えっと」


 学校で聞いた説明を思い出す。

 みんなで共有しているA2E2の世界には、転移者の存在のことを教えている。だから転移者に対して対応ができている。

 だが一人だけが使うパーソナルワールドは、俺以外に転移のことを知らせる人間がいないため、この世界の人たちは転移のことを知らない。


(俺は強い武器が欲しい。もっとモンスターと戦いたい。もっと遠くまで旅がしたい……転移のことを伏せたほうが、この街で活動しやすいか)


 転移のことを話したら怪しまれてしまう。

 ……いやでも、待てよ。

 俺の身元なんてこの世界のどこにもない。どこから来たかと聞かれると、最初に転移した場所からとしか答えられない。


「あの、どうかしましたか?」


「いえ! 別に」


「先に言っておきます。今は味方ですが、私も軍人です。国に忠義を尽くしています。ですのでもし、国に害を及ぼす疑いが生まれれば、必然私はあなたを斬らなければならなくなる」


「う……す、すみません。その、実は雷が降る森の中にいたんですが、それより前の記憶がなくて」


「雷の降る森? それって、崖向こうの?」


 頷くと、ルミノさんは驚いた表情で立ち上がった。


雷の森(ボスコドンナ)から⁉︎ あそこはこの国の住民が決して立ち入ってはならない危険区域! 強力なモンスターが沢山いる場所です! なぜ、そんなところに……」


「すみません! でもそれ以前のことは、えっと、お……覚えてなくて」


「以前の記憶がない。雷の森で生まれた……? 雷神の子(トールオブキッズ)ってこと? 確かにさっきまで着ていた服も見慣れないものだったし、左手首の腕輪もお風呂に入れる時外そうと思ったけど、決して外れなかった……摩訶不思議な格好と装備、まさか」


 しまった、余計に怪しまれてしまっている。

 嘘をつくとさらに嘘をつかなくてはいけなくなるとは、本当だった。

 転移装置でもある左腕の腕時計に目を落とす。失敗したが、転移のことを説明しても同じようになっていた。

 ど、どうすればいい……。


(……罪悪感があるけど、ここは覚えてないを貫き通すしかない)


 そして早いうちにこの街から出ていく。

 強い武器と、次に行く目的地を決めたら姿を消そう。


「その、俺は」


「……いいえ、すみません。こちらの考え過ぎでしたね」


「え?」


「街の住民なのでしょう。それがボスコドンナに迷い込んでしまった。そして何かがキッカケで記憶を失った。そう考えるのが自然です」


 ルミノさんが俺のそばまで近寄ってきて、そして優しく手を取った。

 スベスベして、綺麗な肌で、確かな感触がある。

 彼女の手がゆっくりと俺を引っ張り上げる。


「まずは街の人に聞き込みしてみましょう。あなたがどこの誰なのか調査します」


「……もし、何も情報がでなかったら?」


「はい?」


「情報を集めれば集めるほど、俺がこの街にいなかったという証明になったら……本当に俺が身元不明の怪しいやつだと、確信を得たら……どうなりますか」


「そんなことあり得ないと思いますけどね。でももしそうなった場合……上層部に判断を仰ぐ必要があります。天から神の子が落ちて来た、と」

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