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第一章:愛のない結婚(7)

 それからしばらくして、学園も夏休みに入った。


 術師としての必須科目の「術師実技」に点数がつけられない乃彩は、夏休みに補習がある。


 霊力はじゅうぶんにある。霊力の塊の玉も作り出せるようになった。だけどそこからの応用で、その玉を使って攻撃をしかけたり、相手の攻撃を防いだりすることができない。恐らくここにも、力が及ぶ範囲は家族のみという制約が生きているのだろうと思われる。


 そして「術師教養」の成績はトップである。ようするに、頭でっかちで使えない術師、というわけだ。


 補習では霊力の玉をひたすら作り出していた。これ以上のことができないのだから、霊力の玉を作り、霊力放出を維持する練習をしている。だけどそれですら教師は唸る。


「う~ん、やっぱり霊力はかなり高めなのよね」


 実技を見てくれるのは、女性の教師だ。

 今、乃彩の周囲には、いくつもの丸い塊がふわふわと浮いている。それも三十分ほどこの調子だ。


「これだけの量をこれだけの時間って、かなりの霊力がないとできないわよ。だけどね、ここからがね。この中の一つをあの的に当てられる?」


 五十メートルほど離れた場所に的がある。


 霊力の玉――霊玉(れいぎょく)の一つがふわんふわんと的に向かって動いていく。しかし、それは的に当たる前にパンと消えた。


 これには教師も苦笑する。


「本当に攻撃が苦手なのね。苦手というかやる気がないというか」

「申し訳、ありません……」


 苦手というかやる気がないというか。乃彩自身もわからない。だけど、霊玉を作りだせたとしても、それが乃彩の意思どおりに動いてくれないのだ。


「別にあなたが悪いわけではないの。なんかこう……なんていうのかな、うまく表現できないのだけれど。まぁ、力を制限されているというか、そんな感じよ」


 教師も、乃彩が家族にしか力を使えないことは知らない。ただ、霊力の制御がうまくいかないと思っているのだ。それを、制限されていると表現したのだろう。家族を襲う鬼らがいれば、今はふわふわな霊玉だって、きちっと攻撃を仕掛けられるはず。


 学園側としては、乃彩を留年させたくない。それは彼女の極端な成績と術師公爵家の後ろ盾があるからだと思われる。春那公爵家は、学園に多額の寄付をしている、とも言われているためだ。


「多分だけど。やっぱり心の中に何かしら枷があるようね。それを解放しないと、霊力はうまく扱えないと思うわ。実技は補習と実践によって合格をつける予定だから、また、補習に出てもらうかもしれないけれど」

「はい。ありがとうございます」


 乃彩はこの女性教師のからっとした明るいところが好きだった。そして彼女が、この補習を引き受けたいと立候補したとも聞いている。だけど教師が言うには、乃彩の力が「興味深い」らしい。


 強い霊力であるのに、それをうまく御せない。逆にそれが可能となったときには、乃彩が化けるだろうと期待を寄せてくれている。


「だから、あなたは生きたいように生きればいいのよ」


 術師家族の女性の大半は、高等部を卒業したら結婚するか、嫁ぎ先の家や専門学校などで花嫁修業をする。


 もっと勉強をしたいとか、術師として最前線で妖魔を倒したいとか、そう考える女性は希なのだ。だから女性教師も希な存在。


 結婚、結婚と周囲からはしつこく言われているようだが、それを跳ね返すだけの実力を備えているところも頼もしい。


「さっきも言ったように、補習さえきちんと出てくれれば実技の単位は取れるからね」

「ありがとうございます」


 たとえその成績が「2」だったとしても、単位さえ取れれば問題ない。


 補習を終え家に帰ろうとすれば、学園の正門前には迎えの車が来ていた。


 過保護といえば聞こえはいいかもしれない。だが、彼らは乃彩が逃げ出すかもしれないと思っている。だからこうやって迎えを向けることで、行きも帰りも監視下に置きたいのだ。


「お嬢様、お迎えに参りました」


 その言葉に微かに頷いた乃彩は、黙って車に乗り込んだ。


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