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第四章:信頼の証(8)

 結婚する前は、家にいても学校にいても、その存在を隠すかのように静かに息をしていた。だけど、日夏の屋敷に来てからは違う。学校は相変わらずではあるものの、帰ってきてからは何かと慌ただしい。


 それはパーティーの準備という役を与えられたからかもしれない。


 また、遼真の治癒だって必要だ。初日は俊介が立ち合ったが、それ以降は、夜、寝る前に行っている。これが未婚の男女二人きりであれば問題だが、書類上は夫婦になった二人だ。啓介は常につかず離れずの場所で見守ってはいるものの、逆に「僕、必要ですか?」と聞いてくる。


 しかし仮に乃彩の霊力に当てられ遼真が倒れてしまったら、乃彩一人ではどうしようもない。それを説明したらやっと啓介も納得してくれた。「遼真様は、そんなにやわな人ではないですけどね」という一言を添えて。


 今までだって治癒能力を使うために結婚をして人を救ってきた乃彩だが、そこには琳の打算的な何かがあった。

 それでも遼真だけは違う。乃彩が自ら「彼を救いたい」と感じたのだ。もちろん、最終的には対価を求めるような形になってしまったものの、あの日、声をかけたのはその気持ちが強く動いたから。


 彼と結婚してほんの数日だというのに、ここでの暮らしは悪くない。十八年も暮らしてきた春那の屋敷よりも、ここでの生活のほうが長く慣れ親しんだ感じがする。それくらい、乃彩にとっては居心地のよいものだった。


「あの……遼真様……?」


 遼真は、先ほど帰ってきたばかり。

 今日は術師幹部による総会があり、午前中から出かけていたらしい。それを終えて帰ってきたのが、夕食の前。「おかえりなさい」と声はかけたが、彼の機嫌がよいのか悪いのかがわからなかった。

「なんだ?」

「父は……どうでしたか?」


 乃彩が気になっていたのは、遼真が総会で結婚を報告した件だ。琳がどう動くかが気になっていた。


「あぁ。なかなか見事に化けていた。狸、狸だと思っていたが、おまえが言うようにあれは狐かもしれん」

「どうか、されました? 父が何か失礼なことを?」

「いんや? 寛大な春那公爵様は俺とおまえの結婚を心から祝福してくれるそうだよ? だが『手塩にかけて箱入り娘として隠しておいたのに、どこでどうやって知り合ったのか不思議でなりません』挙げ句『浮名を流している日夏公爵なだけありますな』だと」

「やはり……大変失礼いたしました。申し訳ありません……」


 遼真の浮名など、乃彩はいっさい知らない。だが、莉乃も似たようなことを口にしていた。


「いや、一部ではそういう噂も出回っているらしいからな。気にはしていない。だが……おまえに妹がいるだろう?」

「はい」

「妹の縁談は大変そうだなとは思った。どうやら狐は、おまえの結婚相手に爵位を継がせたかったようだ」

「そんなことはありません。父は莉乃……妹をかわいがっておりましたから、妹夫婦が家を継ぐはずです」

「いや。それに関しては、じゅうぶんに嫌みを言われた。『跡継ぎとして変な男が寄ってこないように大事に育てていたのに、よりによって一番寄ってきてほしくない男が寄ってきた』と」


 琳なら言いそうだ。しかも本人に向かって淡々と。

 その姿が容易に想像できる。


「跡継ぎ長男であっても、公爵の娘に望まれたならば、継承権を放棄してでも公爵位をとるだろう? だが、俺が相手ではそれも望めないからな。だから、一番結婚してはいけない相手だったようだ」

「それは、他の方もいらっしゃる手前の社交辞令ですね」

「どうだろうな。意外と狐の本心かもしれん……まぁ、おまえがこちらに嫁いだ以上、妹の相手が跡継ぎだろうな。もしくは、新たに養子をとるか、か……。だが、これで俺とおまえの仲は周知された。あとは勝手に話が広がっていくだろう」

「はい」

「それから……」


 そこで遼真が声色を明るくした。


「明日、おまえも学校は休みだろう? おばあさまのところに顔を出しに行く。先生も立ち合ってくれる」

「わかりました。ありがとうございます」

「パーティーの件も聞きたいのであれば、そこで聞けばいい」


 そうなると、借りたノートを持参して相談したほうがいい。


 だが、どういった服装で彼の祖母に会えばいいのか。さすがに制服というわけにはいかないだろう。第一印象は大事だ。先日はばたばたとしていて、ろくな挨拶もできなかった。


「なんだ? 急にそわそわし出して。遠足前の小学生か?」

「いえ……大奥様に嫌われないようにするにはどうしたらよいかと考えておりました。服も制服というわけにはいきませんよね?」

「いくつかおまえに買ってやった服があるだろう? あれであればどれでも問題ない。加代子さんが見立てたから、少なくともおばあさまの好みも反映されている」


 その言葉で、胸のつかえがとれた気がした。やはり嫌われるよりは好かれたい。


「ありがとうございます」

「おまえでも、そういうことを気にするんだな」

「それは、気にします。だって……家族になったわけですから」


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