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第四章:信頼の証(2)

「俺だ。今、いいか?」

「は、はい」


 部屋に入ってきたのは、遼真だった。


「なんだ、勉強してたのか? 本当に高校生なんだな」

「はい。こう見えましても、まだ高校三年なのですが」


 乃彩が答えると、何が面白かったのか遼真はくすりと微笑む。彼は乃彩に向かってすぐに「面白い」と言う。乃彩にしてみれば、何が面白いのかさっぱりわからない。どこにそんな要素があるのか教えてほしいくらいだ。


「テストはいつだ? 中間テスト。六月だったか?」


 宝暦学園の高等部は二学期制を採用している。だから前期のテストは六月と八月にあった。


「はい、前期の中間テストは六月の中旬に」

「それなら、パーティーに出席できるな」

「パーティーですか?」

「ああ、術師華族の定例会のようなものだ。年に四回、それぞれの公爵家が持ち回りの主催で行われるパーティーだ」


 遼真が言うように、術師華族が一斉に顔を合わせるパーティーが年に四回行われる。主催は、それぞれの公爵家が持ち回りで、春那公爵家は春分の日近辺に開催される春のパーティーの主催を担当していた。


「おまえは未成年だったから、今まで出てきたことはないだろう?」


 未成年であったとしても、成人した婚約者がいたり、既婚者であればそういった催し者にも参加できたはず。だが乃彩は、結婚していたときですら、夫婦で出席するようなパーティーなどに顔を出したことはなかった。


 今までの結婚は、乃彩の力を使うため。だから乃彩の結婚も力も、他の者に知られてはならなかった。そのような事実を隠していたのは、琳だ。


「はい」

「だが、今は俺と結婚している。俺のパートナーとして俺と一緒に出席してほしい。それに今回は、日夏公爵家が主催だからな」

「わかりました」


 そこで遼真は、乃彩を値踏みするかのようにじっくりと視線を這わせてきた。


「どうかされました?」


 その視線は決して厭らしいものではない。ただ、人を観察するような、そんな視線だ。


「いや。パーティーでのおまえの衣装を考えていた。若い女性であればドレスのほうがいいのだろうが……おまえの場合、着物のほうがいいな」

「着物……ですか?」

「ああ。別にパーティーだからといって、どこぞの国のようにダンスなどをするわけでもないからな。ただ集まって、飲んで食べて、誰かの自慢話を聞いて、くっちゃべっておしまいだ」


 結婚式の披露宴みたいなものだろうか。


「それに、ああいったパーティーに出てくるのは年寄りが多いんだよ。俺とおまえの結婚の件も発表しなければならない。ましておまえが高校生となれば……まあ、そういうことだな。だったら、見た目から年寄りに好かれる格好をしたほうがいいだろう? となれば、やはり着物が好まれるんだ」


 なるほど、と乃彩は頷く。


 彩音は胸元を大きく開けたようなドレスを着ていたが、ああいったものでは駄目だというのだけはわかった。


「それから、明後日。俺は総会に出席する」

「総会、ですか?」

「そうだ。術師華族の会議みたいなものだな」


 琳もよく「明日は総会だから」と食事の席で彩音に言っていたような気がする。


「総会に出席するのは術師華族でも二位の侯爵以上だが……その場で先におまえとの結婚を報告する。ただ、あの狸がどう出てくるかわからん」


 狸が琳のことを示している言葉だというのは、乃彩も把握している。


「一応、おまえの父親だからな。失礼がないように振る舞うつもりだが……」


 すでに琳を狸呼ばわりしている時点で、じゅうぶんに失礼だと思うのだが、さすがに本人に向かって言うようなことはないだろう。


「ですが、わたくしはすでに父からは勘当を言い渡されております」

「だからって、それで法律上の親子の縁が切れるわけではないだろう? 相続権は残っているはずだ。あの狸が遺言書に特別な事情を書かないかぎりな」


 勘当と言っても、法的に何か効力が発生するわけでもない。親子間の感情のもつれの延長のようなもの。


「あの人はもう、わたくしを娘とは思っていないはずです」

「そうは言ってもあっちにも建前と見栄があるから、人前ではいい顔をするはずだ。とにかく俺の立場上、総会で結婚は報告せねばならない。俺がおまえのことを昔から狙っていて、成人と同時にかっさらったっていうことでいいな? つまり、駆け落ちだ。いや、行方をくらませたわけではないから……なんだ?」

「はい……?」

「俺とおまえの馴れ初めだ。そうでもしないと不自然だろう?」


 さすがに出会ったその日に妻から求婚されましたと、遼真も言えないようだ。


「まぁ、とにかく。俺がかっさらったことにしておけばいいな?」

「は、はい。日夏公爵様がそれで問題なければ……」

「遼真、だ。さっきは先生がいたから注意しなかったが……俺のことを名前で呼ぶことに早く慣れろ。特に人前ではな」

「はい……遼真様……」


 彼の名を口にしただけだというのに、乃彩の心臓はいつもよりうるさかった。


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