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第三章:偽りの夫婦(1)

 通された日夏の屋敷は、瓦屋根と漆喰壁が趣を感じさせる広くて立派な建物だ。木造の通用門は細やかな模様が彫られており、どっしりとしながらも細やかさが感じられる。現代的な作りの春那の屋敷とは真逆で、歴史ある建物という印象を受けた。


 広い玄関から屋敷の中に入り、案内された場所は応接室。ここには花柄のソファーなどが配置され、屋敷の外観からは想像できないほど可愛らしい空間だった。陶磁器の人形が、ガラス戸棚の中に並んでいる。


「祖母の趣味だ」


 ぼそりと呟いた遼真は、自分の趣味ではないと強調したいのだろう。そんな彼が可愛らしく見え、乃彩はふふっと笑みを浮かべる。


「まぁ、いい。おまえはそこに座れ。啓介、適当に菓子でも準備しろ」

「はいはい」


 投げやりな遼真の言い方に、啓介は呆れたような声を出して部屋を出ていった。


「あいつがいないうちに、聞いておきたい」


 乃彩の向かい側にどさっと腰をおろした遼真は、顔を寄せてきた。

 どうやら啓介には聞かせたくない話と判断したらしい。乃彩としては、別に彼に知られようが知られまいが、どっちでもかまわないし、そもそも彼と遼真がどういった関係なのかもわからない。


「はい。日夏公爵様がお聞きしたいのは、わたくしの力が『家族』にしか使えないということですよね?」

「ああ、そうだ」


 遼真も乃彩の能力の特殊性を感じ取ってくれたのだろう。だからこうやって二人きりの時間を作ってくれたのだ。それだけでも、口調とは裏腹の気遣いが感じられた。


「言葉の通りなのですが、わたくしの力はわたくしの家族にしか使うことができません」

「おまえの力は、妖力に対抗できるものなのか?」

「……治癒能力です」


 遼真の目がすっと細められる。


「具体的には?」

「相手の霊力を回復させることができます。それから、妖力を取り除く解呪もできます」

「なるほど。それで、家族とは具体的にはどの範囲だ?」


 限られた時間の中で、乃彩の能力を知ろうとしているのだろう。質問内容が非常に端的だ。乃彩もできるだけ主軸からずれないようにと答える。


「はい。どうやら二親等以内のようです」

「姻族でも問題ないのか? おまえはそのために俺に結婚を申し込んだのだろう?」

「はい。同じように二親等以内です」

「なるほどな」


 そこで身を引いた遼真は、ソファーによりかかって足と腕を組む。


 ――トントントン。


 まるで見透かしたかのようなタイミングで扉が叩かれた。


「いやぁ。申し訳ありません。この屋敷に若い女性がいらっしゃったのが初めてでして。普段から用意しているお茶菓子がこのようなものしかなくて」


 そう言いながら啓介がテーブルに並べたのは丸い形が愛らしい大福だ。


「おまえ。それだと、俺がこれしか食べないような言い方じゃないか」

「え? 遼真様、好きですよね? 大福」


 きょとんとした様子の啓介と、どこかばつが悪そうに顔を背けている遼真。


「こちら、中身は……ずんだ餡ですか? うっすらと透けて見えますが」


 二人の間に割って入ったのは乃彩だ。すかさず啓介が答える。


「そうです。こちらはずんだ餡の大福になります。これに合う緑茶はこちらです。大福は苦手ではありませんか? やはり今時の若い女性は、ケーキとかクッキーとか、そちらのほうが好まれるのかと思うのですが」


 今時の若い女性と口にしている啓介も、今時の若い男性と呼んでもおかしくはない年齢に見える。


「あ、はい。大福は好きな食べ物です」


 乃彩の言葉に満足したのか、人なつこく微笑んで部屋の隅に下がる。


「啓介、おまえ。今から役場に行って、婚姻届をもらってこい」

「遼真様、どうされたのです? 結婚するんですか? またまたぁ。とにかく結婚したいオーラを醸し出して僕の小言から逃げるつもりですね」


 啓介は、遼真が口にした「婚姻届」を冗談だと思っているようだ。


「ああ、結婚する」


 遼真はすかさず真顔で答えた。それによって啓介の口元も引き締まる。


「誰と?」

「こいつと」


 遼真の視線の先には、乃彩がいる。


「いやいやいやいや、遼真様。その冗談は面白くありませんね。なによりもそちらのお嬢様は、春那公爵家のご令嬢ですよね? それにまだ高校生じゃないですか」

「身分的には問題ないだろう。高校生だと言っても、術師華族ならじゅうぶんに結婚できる年齢だ。それに、俺に早く結婚しろと言っていたのはおまえだろう?」

「そうですけども。いや、ですが、本気なんですか? 相手が春那公爵家となれば、話はまた別でしょう? 春那公爵の許しを得たのですか?」

「これからもらう。とにかく、いいからおまえはさっさと役場から婚姻届をもらってこい」


 遼真が一喝すれば、啓介は肩をすくめ、渋々と部屋を出ていった。


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