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第二章:運命の旦那様(7)

 近頃の春那公爵家はよい噂を聞かない。表には出せない事業に手を出しており、羽振りがよいとか。なにやら汚い金に手を出している、そういった噂だ。だが、それの確信をつこうとすればのらりくらりと交わされてしまう。


 遼真が春那公爵を狸爺呼ばわりしたのは、そういった理由もある。


「あの、日夏公爵様……」


 遠慮がちに乃彩が声をかけてきた。


「なんだ」

「この呪いですが……放っておけば日夏公爵様の霊力を飲み込んでしまいます」

「そうだろうな」


 一年前までは祖父がいて、妖力を押さえ込んでくれていたのに、その祖父がいなくなったのだから乃彩の言っていることは正しい。


「ご存知だったのですか?」

「ああ、生まれたときからの付き合いだからな」


 その言葉に乃彩は特に驚きもしなかった。


「となれば、二十年以上も……」


 そう冷静に呟き、遼真の手にふれたまま何やら考え込んでいる。


「つまり……どなたかがこの妖力を浄化しているということですか?」


 この時間でそこまで推測した乃彩は、頭の回転も早い。いや、術師としての能力に長けているのだ。


「そうなるな」

「でしたら、すぐにその方に依頼してください」

「無理だ」


 すかさず遼真が答えれば、乃彩は目を大きく開く。表情豊かとは言えないが、先ほどからわかりやすくころころと顔を変えている。


「無理? ですが、このまま放っておけば日夏公爵様は――」

「亡くなったんだ」


 乃彩の言葉の先を奪うかのように、遼真は続ける。


「俺の妖力を押さえていた人間だ。おまえに言わせれば、浄化になるのか? 俺の祖父だ。一年半前に死んだ」


 そうなのですね、と呟いた乃彩は、また遼真の手をふにふにと揉む。


「他にそういった術師の方はいらっしゃらないのですか?」

「ああ、祖父以外、知らん。それに日夏公爵本人が妖力に侵されていることを知られると体裁が悪い」


 ただでさえ、年若い遼真が公爵位に就いたことを面白くないと思っている術師は多い。こんなことが知られたら、これ幸いとはやし立てるだろう。挙げ句、公爵にふさわしくないと言い始め、頭を他の者にすげ替えるかも知れない。それは祖父の遠縁で、遼真すら名を知らないような。


 それに他の術師らは遼真が生まれたときから妖力に侵されていることになど気がついていない。それだけ妖力が複雑で、気づかれぬことで内側からじわじわと侵していくのだ。


 だというのに、ただすれ違っただけでこの妖力をわかった乃彩は相当な術師だ。


 だが春那公爵は、娘については何も言っていなかった。年頃の娘をもつ親としては、結婚相手を躍起になって探すはずなのに。乃彩にこれだけの力があれば、他の公爵家からも嫁にと望まれるだろう。いや、長子であることを考えれば、彼女の夫となった者は次期春那公爵だろう。


「日夏公爵様。差し出がましいかもしれませんが、この妖力の浄化をわたくしにやらせていただけませんか?」


 切れ長の目を目一杯広げて、遼真を見上げる姿からは、彼女の真剣さが伝わってくる。


「できるのか?」

「はい。ですが、一つだけ条件がございます」

「なるほど。助けてやるから金を寄越せと? さすががめつい狸爺の娘だな。いくらだ?」


 遼真の言葉に、乃彩はふるふると顔を横に振った。


「お金ではございません。わたくしの力は『家族』にしか使えないのです。ですから、わたくしと結婚していただけませんか?」


 キキーッと音を立てて、車が急停止する。


「おい、啓介。何をやっている。危ないだろ?」

「申し訳ありません。信号が赤になっていたのを見過ごすところでした」

「ったく。事故るなよ。おい、大丈夫か?」


 隣に座る乃彩を見つめれば、彼女は「はい」とほんの少し頬を赤らめながら答えた。


「悪いが話の続きは屋敷に戻ってからだ。こいつが盗み聞きして、変に事故られても困るからな」


 運転席に座る啓介は、遼真の声がしっかりと聞こえていたのか小さく肩をすくめた。


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