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第二章:運命の旦那様(2)

 チャイムが鳴り、教師が教室にやってきた。

 授業の合間は平穏な時間が過ぎていく。問題はそれとそれの間の時間。もしくは、学校が終わってからだろう。


「の~あちゃん、俺と遊ぼ?」


 昇降口でそう声をかけてきたのは、冬賀公爵分家筋の男であり、クラスメートでもある男だ。


「のあちゃんさ。高等部卒業したらどうするの? 結婚しないの? 婚約者もいないって聞いてるんだけど。俺なんかどう?」


 術師としては下の上といったところだろう。たしか、彼の父親の爵位は子爵だったはず。


 となれば乃彩の両親が許すはずがない。両親は乃彩を冷たくあしらいながらも、金の成る木だと思っている。だからあの二人は乃彩をそう簡単に手放すわけがない。


「わたくしを誰だと思っているのかしら? あなたのような霊力の乏しい術師が、軽々しく声をかけていいとでも? あまりにも()()()が過ぎるようなら、冬賀公爵家に抗議をいれますけれど、いかがいたしましょう?」


 クラスメートらからはどうせ煙たがられているのだ。


 大した実力もない頭でっかちの上に、春那公爵家という後ろ盾。それがなかったらとっくに退学になっているだろうし、もっとあからさまないじめを受けていただろう。だけど、公爵家に睨まれれば、術師界隈では身を縮めて生きていかねばならない。


 金の成る木の乃彩がいじめられでもしたら、琳は穏やかな笑みを浮かべながらも、相手の家に乗り込むのは目に見えている。


「ちっ。調子にのってんなよ。この娼婦が」


 娼婦。そのような言葉で、乃彩が傷つくとでも思っているのだろうか。


「調子にのっているのはどちらかしら? 茉依に何を吹き込まれたのか知りませんが、能なしと呼ばれるわたくしを利用したのは茉依のほうよ? 普段は人を能なし、能なしと言いながら、困ったときだけ頼ってくるのね」

「は? 俺たちは、茉依の婚約者を助けたのは莉乃様だって聞いているけどな。妹の手柄すら自分のものにするのか? この能なしが」


 乃彩は目を細くしたまま、目の前の男を見やる。

 乃彩の治癒能力すら莉乃の手柄にされるとは思ってもいなかった。


 徹を治癒するときに共にいたのは茉依だ。少し離れた場所で、乃彩が治癒能力を使う様子を探るようにして見ていたはずなのに。


 だが茉依の中にくすぶる気持ちを、こうやって乃彩を悪役に仕立てることで昇華しているにちがいない。能なしの乃彩に救われただなんて、死んでも認めたくないのだろう。だったら、莉乃に助けてもらったと、そう言いふらしたほうがマシなのだ。


 それだけ学園における莉乃と乃彩の立場は大きく違う。


「そう……あなたは実際にそれを見たわけでもないのに、そのような言葉を信じるのですね。でしたら、これだけは覚えておいてください」


 乃彩はよりいっそう視線を鋭くして、男にぶつける。


「あなたが同じような目にあったとしても、わたくしの能力はあなたには絶対に使いませんから。あ、能なしの力なんて不要でしたわね。失礼しました」


 そう言って靴を履き替えた乃彩は、爪先をトントンと鳴らしてから歩き出す。


 あのような男に弱みを見せてはならない。

 むしろ、他人に弱みを見せてはならないと、両親からきつく言われていた。その言葉が、今でも胸の奥で熾火のようにくすぶっている。


 だから乃彩は、気が滅入るようなときも無理矢理笑顔を作ってその場をやり過ごすのだ。


 いつもの場所に向かえの車はすでに来ていた。


 だが今日はそれを断った。一人で歩いて帰りたかった。


 運転手は何やらぶつぶつと文句を言っていたが、乃彩が頑なに「歩いて帰りますから」と譲らなかったため渋々と納得していた。そのまま莉乃が、校舎から出てくるのを待っているのだろう。


 帰りの車の中で莉乃に何か言われるのもわずらわしかった。特に茉依と徹の件があってから、乃彩の変な噂は他の学年にも広まっている。


 ――お姉ちゃんのせいで、恥をかいた。


 莉乃は幾度もそう言っていた。


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