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6希望の過去2

 七歳になり、小学一年生になった。

「ねえ、希望ちゃん。この間のドラマ見た?アイドルの一宮君、カッコよかったよね」

 私はヒロインの子の可愛さの方が気になったんだけどなあ。それに、私はそこまでカッコいいとは思わなかったんだけど。

「そうだね。あの叫んでるシーンは良かったね」

「でしょ、でしょ。私さ、あの壁ドンしてるシーンなんかすっごくドキドキしちゃった」

 アレかあ。私はビックリしたなあ。何か、ドキドキしてる描写してたけど、実際は驚いて声が出なくなるんじゃないかなあ。

「うん。私も見てるとハラハラしたよ。よく、あそこで、あんなことするよねえ」

「でしょでしょ。リナさあ。すっごく、ハマってるんだあ。あのドラマ。今日、家に来て見ない?」

「おんなじのを?」

「うん。リナ、何回でもドキドキしたい」

 二回目はいいんだけど・・・。

「うん。分かった」

 私は、この時には知らず知らず処世術で嘘は吐かないように話していたが、どうしてもこういう誘われるのは処世術で断ることができなかった。




 ある日、授業中、消しカスを投げられていることに気付いた。私の周りだけ異常に消しカスが落ちていたからだ。私は後ろを見ないようにしながら、誰がやっていたのかを足元を見ながら確認した。

 右。左。どっちからも来てる。同じタイミングからだから、複数人?

 クスクス。

 笑い声が聞えた。声の高さからして女の子だった。休み時間、私は私より後ろの席に座ってる人の消しゴムを見た。三人の女の子が異常に消しゴムが小さく、白くなっていた。

 多分、何度も白い紙に消しゴムを擦ってるからかな。

 私は絡まれたら面倒臭いからこの三人の蛮行を無視した。下校中、家が近くだったメイちゃんと一緒に帰っていた。後ろから三人組の同じクラスの女子たちが肩を叩いて来た。

 面倒臭いな。

「メイちゃん。行こう」

「いいの?」

「うん」

 私は無視してそのまま帰ろうとした。すると、三人の女子。名前は忘れたなあ。左から順にアンポンタンにしよっか。アンとタンが腕を掴んで来た。

 面倒臭いな。

 私は嫌そうに振り向いた。

「何?」

 ポンが偉そうに腕を組んで話して来た。

「何?じゃないわ。アンタのせいでタロウ君が全然話してくれないんだけど」

「面倒臭い。難癖は止めて」

「ちょっと、顔が良いからってバカにしないで。どうしてくれるの!」

「知らない。そもそも話したことないんだから」

「希望ちゃん。構わず行こう!」

 メイちゃんは私の左手を握って走ってくれた。私はこの時、とてもありがたかった。これが、友情なのかもしれないと思った。




 次の日。私は下駄箱で上履きに履き替えようとしたところ、上履きに鋏で切られたような跡があった。

「希望ちゃん、どうしたの?」

「うんうん。何でもない。トイレ行ってから教室に行くから先に行ってて」

「・・・そう。じゃあ、メイ。先に行ってるよ」

「うん」

 私はメイちゃんが教室に向かったのを見ると来客用のスリッパを履いてトイレに行って始業のチャイムが鳴るまで静かに泣いて待った。チャイムが鳴り終わると、私は上履きを持って家に帰った。校門の前に立つ先生がいなくなるのを待っていたのだ。私が泣いて家に帰ると母は上履きを見てすぐに抱きしめてくれた。育美は何が起こったのかをまだ、理解できず、私が早く帰って来たことに喜んで腕に抱き着いて来た。母は私が帰って来る前から事情を何となく察していたようだった。

「そう。じゃあ、その子たちがやった可能性が高いのね?」

「うん」

「実は、・・・希望の椅子に大量の消しカスが置かれてたみたいなの。それをメイちゃんが先生に報告してくれたみたい。ママ。ちょっと学校に行って来るから、育美と遊んでて頂戴」

 素っ気なくあしらったのがダメだったのかなあ?でも、私にできることなんてなかったし。

「うん」

 私は泣いた。私は女子の陰湿さに心の底から嫌になった。




 放課後、私は育美と一緒におままごとをしていると、家の呼び鈴が鳴った。メイちゃんだった。

「大丈夫。メイがいるから」

 メイちゃんは私を見るとすぐにハグをした。私はメイちゃんの温かさに触れてまた、泣いてしまった。




 私はそれから暫く、学校に行かなかった。アンポンタンの三人はしらばっくれて、最後まで認めなかったからだ。私が外との交流があったのはメイちゃんで、メイちゃんはノートを見せてくれたり、宿題を教えてくれたりした。私はそれが、凄く嬉しかった。でも、一ヵ月ぐらい経った頃、私は見てしまった。メイちゃんのスカートが少しだが切られている跡を。だから、

「私も学校に行く」

 私は勇気を振り絞ってメイちゃんに言った。すると、メイちゃんは泣いた。そして、謝った。

「ごめん、希望ちゃん。私、県外に引っ越すことになったの。一週間前にパパが転勤するって。ごめん。ごめん」

「いつ、引っ越すの?」

「一ヵ月後。夏休みに入ったら」

「ねえ、もしかして、私のせい?」

「何で?」

「だって、スカート」

 メイちゃんはすぐに隠したが遅かった。

「私が休んだことでメイちゃんにターゲットが移ったんでしょ?それで、メイちゃんのパパはあんな立派な家を建てたのに引っ越そうとしてるんでしょ?」

「ごめん。メイが弱いせいで。ホントにごめん」

「違うよ。メイちゃんのせいじゃない。悪いのは徹頭徹尾あいつらだよ」

「うん。うん。うん!」

 その日は二人で目が腫れるまで泣いた。私は次の日から学校に通い始めた。




 私が教室に入った時、異様な空気が流れていた。アンポンタンが教室の空気を支配していたのだ。そして、メイを見るなり、クスクスと笑っていた。私が一ヵ月間学校を休んでいる間に席替えをしていたみたいで私はメイちゃんの席の隣だった。メイちゃんの椅子を見ると消しカスが大量に椅子の上に置かれていた。私はアンポンタンを睨み付けた。そして、詰め寄ろうとした。でも、メイちゃんは私の腕を握って首を振った。私は泣くのを必死に我慢した。

「ダメだよ。我慢して」

 メイちゃんは私を落ち着かせようと必死だった。手が震えていた。すると、今回の問題の動機となっているタロウ君が教室に入って来た。ポンがパッと表情を明るくしてタロウ君に詰め寄った。

「おはよう」

タロウ君はポンを無視して一瞬だけアンに視線を向けてからメイちゃんの席の前に座った。どうやら、彼の席はメイちゃんの前みたいだったのだ。

「メイちゃん。まさか・・・」

 メイちゃんは悲しそうに笑った。

 そういや、私も、前の席はタロウ君の後ろだったな。何だ、こんなことで、因縁を付けられたのか。

「ねえ、メイちゃん。サボろうか」

 私はメイちゃんの腕を引っ張って教室を出た。そして、先生の目を気にせず、学校に出て、近くの公園に寄った。




「メイちゃん。私たち面倒臭い当たり屋に絡まれてたんだね」

「うん。メイ、席替えした時に、もしかしたら、次はメイかもって」

「ねえ、もしかして、私やメイちゃんより前にあんなことされてた子っていた?」

「うん。体育で着替えてる時にリナちゃんが。リナちゃんは消しカスだけで済んだみたいだよ。多分、あの日、メイたちが素っ気ない態度をしたから、火に油になっちゃったんだよ」

「うん。そっか。そっか。ホントはこういうのは良くないんだろうけど、私は戦うよ」

「戦う?」

「うん。ホントは人を傷つけるとかそういうのはしたくないんだけどね」

「何をする気なの?」

「簡単なことだよ。心に風穴を開けるんだよ」




 次の日、私とメイちゃんはいつもより、学校に早く行って下駄箱が見える廊下でヒッソリと待っていた。

「ホントに、大丈夫?もっと、酷くなるんじゃ・・・」

「大丈夫。もし、そうなったら私たちの勝ちだから」

「勝ち?」

「うん。今からすることが上手く行けば、どっちに転んでも私たちの勝ちだから。残りの一ヵ月間ぐらい楽しい学校生活を送るために頑張ろう」

 私たちは五分ぐらい待った。そして、目的の人物が来た。

「ねえ、タロウ君。私たちのお願いを聞いてくれない?」

「・・・ごめん。今まで何もできなくて」

 タロウ君は俯いた。拳を握っていた。

「いいよ。気にしなくて。でも、一つだけお願いしてもいい?」

「何?」

「そう。お願い。アンポンタンのアンちゃんに今度遊びに行こうって言ってくれない?ポンは断ってさ」

「え⁉」

「お願い」

「・・・うん。分かった」

 タロウ君は教室に向かった。メイちゃんが不思議そうに私に尋ねて来た。

「何で、アンちゃんなの?」

 メイちゃんは私が内部分列、仲間割れをさせようとしていることは分かっていた。でも、どうして、アンちゃんを選んだのかは分かっていなかった。

「簡単なことだよ。タロウ君はアンちゃんに気がある」

「それって、メイたちには被害が来なくなるかもしれないけど、代わりにアンちゃんに被害が行くんじゃ」

「かもね。でも、大丈夫。きっとタロウ君が守ってくれるから」

「そしたら、メイたちにまた、難癖付けて来るんじゃ・・・」

「大丈夫。そもそも誰にももう、何もしない。ポンにその余裕はきっと無くなるから」

「何で、そんなに言い切れるの?」

「心に穴が開くってすごーく辛いんだよ。メイちゃんも分かるでしょ?」

「・・・うん」

 メイはこの一ヵ月間のことを思い出して涙で目を濡らしながら頷いた。私はメイちゃんのその顔が見れて良かったと思った。

 でも、心にポッカリ穴が開いたことは間違いなかった。




「何で!何で、アンなのっ!うぇーん!」

 私たちが教室に向かっているとポンの叫び声と泣き声が聞こえた。メイちゃんの手が震えていたから、私は強く握った。

「大丈夫。怒りの矛先は私たちには向かないから」

 私はメイちゃんと手を繋いで教室に向かった。教室に入るとポンをタンが慰めていてアンはタロウ君と話していた。

「残酷ね」

 私は思わず呟いた。こんなに、簡単に人間関係というものは壊れることに。そして、それを仕掛けた私に。私の心の穴は急速に広がって行ったが、無視をした。

 今は、私の気持ちを優先したらダメな時。

 私はメイちゃんと一緒に席に着いた。メイちゃんの椅子にも、私の椅子にも消しカスは置かれていなかった。既に、床に捨てられていた。前に座っていた、タロウ君と話しているアンが話し掛けて来た。

「今まで、ごめんなさい」

「もう、いいよ。これから、私たちに何もしないなら」

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」

 アンは泣いて私たちに謝った。私とメイちゃんはアンのことは許した。その後、先生が教室にやって来て、状況確認を一時間目の授業を潰して行った。私とメイちゃんは先生に呼ばれた。

「もっと、早く、アンちゃん、ポンちゃん、タンちゃんのことを叱れなくてごめんね。謝って欲しい?」

「「うんうん」」

「でも、なるべく、ポンちゃんとは関わらないようにして」

 私は先生に唯一それだけお願いした。




 あれから、私とメイちゃんの学校生活は平穏になった。私はメイちゃんの笑顔を見た時に良かったと思った。でも、一つだけ、面倒なことが起きた。私の暗躍を知ったクラスメイトの女子がやたらと話し掛けて来たことだ。私は面倒臭かったけど、適当に話しを合わせた。一つだけ気になったことがあった。ポンは孤立して行った。私は何度かポンに話しかけようとした。でも、クラスメイトがその度に止めた。私はずっと心を偽っていた。自分がやった仕打ちに罪悪感を抱いていた。でも、私に善意を持って話しかけてくれてるか

「ねえ、大丈夫、希望ちゃん」

「何が?」

「この一ヵ月間、メイの好きな希望ちゃんじゃなかったから」

「・・・さすがだね。私、心にポッカリ穴が空いてるの。全然心の穴が埋まらないの。どうしたら、いいんだろう?」

 私は泣いて初めて打ち明けた。メイちゃんも泣きそうな目をして私の両手を握った。

「ねえ、私の・・・ために、希望ちゃんの心を見ないふりしたの?」

 ホントのことを言ったらメイちゃんの心にも大きな穴ができちゃう。

「違う。私のため」

「ホント?」

「うん。ホントだよ」

「無理しないでね。いつでも電話してね。メイからも電話するから。約束だよ」

 メイちゃんは私に抱き着いた。私はメイちゃんの温もりを心に満たそうとした。満たそうとして満たそうとして心の穴を埋めようとした。でも、その温もりは心の穴を通り過ぎて行った。今、思うに、私はあの時、素直にならなければ行けなかった。ちゃんと、メイちゃんの心を受け入れる準備をしなければならなかった。


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