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風のレギオン  作者: 七子二号
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魔法のベール

 王都暦1934.3.14

 散々お世話になったフナに別れを告げてソレイユさんと旅に出た私。

 行先は気になったけれど私は助手席の窓から身を乗り出して風に当たって物思いに耽っていた。

 広大な大地にどこか不自然に舗装された道路が地平線まで続いている。

 こんなところでトラブルになったら悲惨だろうな。

「ねえ、魔法ってどうやったら使えるようになるの?」

「変なことを聞くのね。それが分からないから魔法と呼ぶのよ。」

「分からないのに貴方は使えるの?」

「貴方もこの車が動く仕組みは知らなくても運転は出来るでしょう?」

「魔法と車は違うじゃん。」

「魔法も全てが解明されたら魔法ではなくなるってことよ。車だって歩かずに遠くへ旅できる魔法だった時代があるのよ。」

「へぇ・・・なんだか皮肉だね、全てを理解したら魔法が解けちゃうみたいでさ。」

「実際何でもそうよ、人間だって全部を理解したら待っているのは幻滅だもの。世の中の全ての魅力は言ってみれば魔法みたいなものです。」

「・・・・・・。ソレイユさんの事も深く知ったら幻滅するのかな。」

「そうですね、でもそこまでお知り合いになれたのならそれも良いかもしれませんね。」

「魔法は解き明かされたら魔法では無くなるのか・・・。分かった。じゃあ魔法を生み出す未知の道具があるんだ。」

 そう言うとソレイユさんは一瞬驚いたような表情を見せた。

「よく分かりましたね。シルビアさんは思ったより見込みがあるのかもしれませんね。」

「無きゃ困るよ。じゃないと何のために旅に出たか分かんないし。」

「シルビアさんは魔法を使って何がしたいのですか?」

「秘密、私の魔法が解けちゃいそうだから。」

「あら、意地悪ですね。でも、復讐と即答されなくて少し安心しました。」

「これでも復讐はしないって決めたんだ。」

「随分と大人びた判断をしたのですね。旅に出たら少しずつ諭していくつもりでしたのに、手間が省けてしまいましたね。」

「人を呪わば穴二つだって?マスターにも言われたけど、キツいよね現実って、一矢報いても身を亡ぼすなんてさ。でも実際はそうなんだと思う。でもそれじゃ先にやったもん勝ちじゃない。納得いかないよ。」

「なら何故復讐をしないのですか?」

「私が民の思いを託された誇りある一族の末裔とか言うやつだから。私が頑張ったら頑張っただけみんなが幸せになってくれるって教えてくれた馬鹿がいたから。私は憎しみに負けずに頑張るって決めたんだ。」

「ふふふっ・・・。」

「何で笑うんだよ。」

「魔法が一つ解けましたね。」

「あっ・・・。」

 

 車は走っていく。

 私たちの笑い声を乗せて。



「着きましたよ、ここからは歩きです。」

「歩くの?何しに行くの?」

「あなたが丸腰では足手まといになってしまうので市場に武器を買いに行きます。」

「武器?安全な場所に連れて行くって話じゃなかったっけ?」

「安全な場所への道のりが安全とは言っていませんよ。それに丸腰でテラムソリスを旅することは出来ませんから。」

 そう言ってソレイユさんは車を降りて、私もそれに続いた。

「ねえ、市場ってあれ?」

「そうですよ。」

 荒れた大地の中にいかにも治安の悪そうな市場が見えた。

「・・・あれって闇市じゃないの?武器なら普通のショップで買えばいいじゃん。」

「まぁ、そう言わずに行きましょう。」

「て言うか何でこんな遠くに車を停めるのさ?あの市場まで行けばいいじゃん。」

「あの市場に車なんて停めたら目を離したすきに解体されて市場に商品として並ぶことになりますので我慢してください。」

「・・・・・・。」

「あなたが頑張れば幸せになれる人がいるのでしょう?頑張ってください。」

「くっそ、黙っとけば良かったよ。」

 私は渋々ソレイユについて行った。



 市場は人で溢れていたが、どいつもこいつも目が死んでいた。

 ロクスタ達がマシに思えてくる。

「持ち物に注意してくださいね。」

「分かってる。」

「貴方自身も商品として並んでしまう可能性もありますので私から決して離れてはいけませんよ。」

「本当にどうして私なんかを連れてきたんだよ。」

「旅は道連れ世は情けです。」

「意味が分かんねえよ。」


 しばし周囲から睨まれながら市場を歩く。

 よく市場の商品を見ると貴重な鉱石だったり古代文明の遺物だったり、見たこともないものばかりが並んでおり、次第にこの市場に惹かれていった。

「ごきげんようクアベルさん。」

「げっ!ソレイユ!ちっ・・・何の用だよ。」

「もちろん買い物です。」

「お前に売る物なんてねえ!さっさと帰れ!」

「酷い物言いですね、せっかく貴方が欲しがっていた水龍の爪を持ってきたのに。」

「な!馬鹿な!!」

「いらないのでしたら帰りましょうか。」

「ま、待て!分かった。俺が悪かった。交渉と行こうじゃないか。何が望みだ。」

「この子に相応しい武器を探しています。それと交換なんてどうでしょう?」

「いいだろう!じゃあお嬢ちゃんが決めな!好きなもの選ぶといいぜ。」

 クアベルは私にそう言ったが、私に武器の事なんて分かるわけがない。

 私はソレイユさんに助けを求めようと視線をおくったが、彼女はそんなことも気にもせず・・・。

「そうですね、貴方が選ぶのが一番良いと思います。」

 と、悠長な返事が帰ってきた。

「そんなこと言われても・・・。」



「おい・・・女・・・俺を選べ・・・。」

 突然聞きなれない声が聞こえて背筋が凍った。


「えっ?ソレイユさん?今何か言った?」


「いいえ、ふふふ、早く選んでくださいね。」

 相変わらず悠長な事を言うソレイユさん。


「こっちだ・・・女・・・こっちだ・・・。」

 声の出所を探すと明らかに乱雑にガラクタが入れられた箱だった。


「・・・こっちだ・・・。」


ガラクタ箱の中を覗くと不思議な光を放つナイフがあったが

私が見つけた瞬間光が消えた。


「・・・何?・・・このナイフ・・・。」


「ハイ!決まり!!そのナイフと交換だ!!」

「え?ちょっと待てよ、私まだ選んだわけじゃない!」

「いやぁ、お目が高いね、そいつぁ古代文明の遺物でな、不思議な力があるとかないとか。なかなかロマンがあっていいと思うぜ。ほら水龍の爪をよこしな。」

「まぁ、約束ですし仕方ないですね。」

「ソレイユさん!」

 ソレイユさんは水龍の爪をあっけなく渡してしまった。

「いやぁ、いい取引が出来たと思うぜ。誰も扱い方を知らねえとはいえ、古代文明のロマンに価値はつけられねえからな。はっはっはっは!」

「てめえ・・・!ソレイユさん!」

「大丈夫です。それに今ここで騒ぎを起こすとタダでは済みませんよ。」

 気が付くと周囲から物凄い目で睨まれていた。

「ごめん、悪かったよ。」

 私がそう言うと止まった時間が動き出すように人々が警戒を解いた。

「それでは帰りましょう。」

「へっへっへ、ありがとうよ!」


 憎たらしいクアベルを少しだけ睨んでからソレイユの背中を追った。


 あの時の声は何だったのか。

 このナイフは一体何なのか。

 腑に落ちないことだらけで私はずっと眉間にしわを寄せていた。




「ねえ、こんな骨董品何の役に立つのさ。」

 ソレイユさんの車に戻る道中、率直な質問をしてみた。


「ふふふ、シルビアさんが聞いた声、私には聞こえませんでしたが私たちはそれをレギオンの導きと呼んでいます。」


「レギオン・・・。」

 そう言えばロクスタの配下がソレイユさんの騎士をそう呼んでいたな。


「我々の言うレギオンは古代の王族に身を捧げた戦士たちの魂のことを指します。古代人は肉体を失って尚主の為に戦うため武具などを依り代にして魂を保存し、主の魔力で具現化する魔法を生み出しました。そのナイフは数ある依り代のうちの一つ。王家の人間であれば呼応する戦士がいると思った私の読みは当たっていたようですね。」


「じゃあソレイユさんみたいに、私もレギオンを使えるようになったってこと?」

「そう簡単なものではないと思うけれど、もしレギオンが力を貸してくれるならば、きっとまた導きがあると思うわ。」


「・・・・・・。」

 私は古代のナイフをじっと見つめた。

 全体が緑色で刃だけが妙に光沢があった。

 そしてはじめて見る造形なのに、どこか懐かしく感じた。


「何か聞こえますか?」


「いいや。でも気に入ったよ。」

「私との旅の記念にあなたへプレゼントです。」

「え?でもあの水龍の爪って高価なものなんじゃないの?」

「いずれあなたも手に入れられるようになりますよ。」

「本当かよ。」

「ええ、今後は私と一緒に手荒いお仕事をしてもらいますからね。」

「手荒いお仕事?」

「ふふふ・・・それはですね・・・。」

「それは?」

「明日のお楽しみです。」

 手荒いお仕事と聞いてそれを楽しみに出来るわけがないだろうと思ったが言う気にもなれなかった。



 王都暦1934.3.15

 ソレイユさんの行く先はどうにも治安が悪いところばかりだ。

 今日はよく分からない酒場へやってきた。

 闇市と同様に視線が痛い。

 酒場のマスターと思しき男がこちらに気が付き怪しく笑う。

「よう、新しい手配書が届いてるぜ。賞金稼ぎのお仕事いっとくかい?」

「ええ、もちろん。」

 即答するソレイユさん。

「マジか・・・先に安全な場所に連れてってよ。」

 と、不満と不安を吐露する私。

 これは大変な旅になりそうだ。 




「情報によるとこの辺りですね。」

 この日もいつも通り悠長なことを言いながら危険な場所をうろうろするソレイユさん。

「嫌だ!何?人食いの化け物を倒すって!そう言うのは荒くれ者の男がやる仕事でしょ!?私行かないからね!」

 

「旅人が人並みの生活をしながら旅をするにはこういった仕事をこなす他ありません。やらなければ飲まず食わず、そして宿にも泊まれずお風呂も無しですよ。」

「私骨董品のナイフしか持ってないんだぞ。完全に居る意味無いじゃん、せめて銃火器が欲しいよ。」


「はっ・・・そう言うのも良かったかもしれませんね。」

 ふざけているのか、はたまた本気で言っているのか分からない感じで呟くので私はやりきれない気持ちでいっぱいになった。

「ソレイユさん、勘弁してよ!」

「心配いりませんよ。貴方はそのナイフで戦えます。」

「何を根拠に?」

「あなたはレギオンの声を聞いた。それだけで十分です。行きますよ。強くなりたいのでしょう?」

 強くなりたいのであって死にたいわけじゃない!

 そう思ったが吐き出さずに言葉を飲み込んだ。

「助けてくれるのかよこいつが・・・。待ってよソレイユさん。」



 しばしソレイユさんについて歩くと滅茶苦茶に荒らされたキャンプ跡が見つかった。

「あらぁ!良かった。ご遺体がまだありました!」


「うぅっ・・・!」

 あまりの凄惨さに思わず体が引きつった。


「あっ、刺激が強いのでお子様は見ちゃダメですよ。」

 そう言うのは見る前に言って欲しい。

 私は恐怖で体が思うように動かなくなってしまった。


「良かったですね。お家に帰れますよ。」

 あまりにも惨い有様な死体に対して、まるで子供をあやすかのように接するソレイユさんはどこか神々しく見えた。


「おい・・・女・・・。」

 突然の呼び声にまたしても体が引きつる。

「はい・・・なんでしょう・・・。」

「うしろだ・・・。」

「うしろ?」

 私は恐る恐るうしろを振り返った。


 一瞬何が見えたのか分からなかった。

 気が付くとそこには大きな目がこちらを凝視していた。

 その目の視線が私の目と合った時、今度は何本も並んだ牙が目に入った。


 逃げなきゃ!


 頭ではそう考えたのに体が恐ろしく重く何故かゆっくりにしか動けなかった。

「仕方ない・・・手を貸そう・・・。」

 そう聞こえた直後大きくひらいた牙だらけの口が襲い掛かる。


 もうダメだと思うよりも速く、私の右手が勝手に化け物の額にナイフを突き立てた。


 断末魔が響く、そしてそのまま力尽きる化け物。


 化け物は私の目を最後の瞬間まで見ていた。

 まるでその目は私に呪いをかけるようだった。


 私は状況が呑み込めずただ震えていた。

「ごめん、ごめん・・・。」

 気が付くと私は2人の人間を殺した化け物に謝っていた。


「もう、大丈夫ですよ。」


 震える私の肩に手を置いてソレイユさんは微笑んだ。

「私・・・私・・・・・・。」


「心配いりませんよ。もう終わりました。あなたがしたのは人助けですよ。」


 ”人助け”その言葉に救われた気持ちになったが、私の体の震えは止まらなかった。



「まだ辛いですか?」

 助手席で意気消沈している私に笑顔でそう尋ねるソレイユさん。

「こうなるって分かってたの?」

「化け物を倒して、今夜は良い宿に泊まる。全て予定通りですよ。」

「ふざけないでよ!私が死んでてもおかしくなかったじゃん!」

「それは私も同じですよ?」

 ソレイユさんはわざとらしく困った顔をしてみせた。

 それが余計に腹立たしかった。

「もう、最悪。」

「ごめんなさいね。でもやはりレギオンの導きはあったのでしょう?」

「・・・・・・あったよ。私の右手を勝手に操って化け物を殺したよ。もう訳が分かんないよ。」

「今も声はしますか?」

「・・・・・・。」

 私はナイフを耳にあてて耳を澄ましてみた・・・が、何も聞こえなかった。

「ねえ、あんたをガラクタ箱から連れ出してあげたんだから、名前くらい教えてよ。私と一緒に旅するんでしょ?」

 そう尋ねるとナイフが最初に見た時のように光りはじめた。

「嘆かわしや・・・遠き祖先より仕えし我らの名前すら覚えておらぬとは・・・。」


「喋った!助けてくれてありがとう。私の名前はシルビア。よろしくね。」

「シルビアとやら・・・我らと話をするならば力を捧げよ。我らは主の力なくして存在出来ぬ宿命。」

「力・・・?どうやって捧げればいいの?」

「想像するのだ・・・我が依り代に力を注ぐ流れを。」

「想像・・・・・・。」

 私は言われた通りナイフを力強く握り締めナイフに私の生命力を注ぐイメージを思い描いてみた。

 すると私の手とナイフが輝きに包まれた。

 しかし同時に酷い倦怠感に襲われた。

「何これ・・・体が重い。」

 意識が飛びそうになりイメージを辞めた瞬間輝きは消え倦怠感は綺麗に消え去った。

「何今の・・・。」

「まだまだ修行が足りないが・・・助かったぞ女。」

 声がクッキリハッキリ聞こえるようになった。

「我らは風の民に思いを託されし王族に仕えた戦士、人呼んで風のレギオン。」

「風のレギオン?」

「個々に名前は無く、死して尚王族に仕え戦う戦士であるその名前で呼ばれることが我らのただ一つの誇りだった。しかし我は主とはぐれ、あろうことか闇市のガラクタとして幾年も扱われてきた。耐えがたき屈辱から救ってくれたこと、感謝するぞシルビア。」

「借りは返したじゃん。そっか風のレギオンって言うんだ。でもあんたにも名前が無きゃ友達になった感じがしないな。」

「我は友ではない。主の忠実なる刃。生まれた時よりそう定められた宿命なのだ。名前など必要はない。」

「うん、お前は緑色だからウィリディスって名前にしよう。」

「どういうつもりだ。」

「風の民に思いを託された王族ってヴィントハイムのことなんだろう?私たちの家はもう滅んだ。私ももう王族じゃない。私とあんたは対等な関係だ。」

「滅んだだと!!貴様王族の身でありながら何をしていたのだ!!!!」

「あんたは私に何をして欲しかったのさ。一緒に来るのやめる?」

「・・・・・・。いや、貴様が生きていればこそ我々にも意味があると言うもの。我らは貴様の忠実なる刃、故に・・・。」

「だからそう言うのいいってウィリディス。私の友達になってよあんたの力が必要なんだ。」

「・・・・・・分かった。主がそう望むのであれば。」

「へえ、案外可愛いじゃん。よろしくね。」

「我が友に風の加護あれ。」

 ウィリディスがそう言うとナイフから光りが消えた。


「話は済みましたか?」

「うん。そっか、やっぱりロベリアさんには聞こえないのか。」

「レギオンは主の力によって具現化します。よって主の力が弱ければ主との意思疎通だけで精一杯ということですね。」

「引っかかる言い方だな。でもそっか、私が強くなればウィリディスも色んなことが出来るようになるのか。」

「ウィリディス・・・たしか緑を意味する言葉でしたね。深緑を駆ける風の如く爽やかで気持ちの良い従者になってくれるといいですね。」

「ううん、従者じゃなくて私たちは友達なんだ。鬱陶しいくらいが丁度いいよ。」

「ふふふ、元気が戻って来たようで良かったです、ウィリディス様に感謝ですね。」


 新しい友達が出来た。

 魔法のようにではなく魔法で出来た絆。

 嬉しく思えるのは私たちの間に魔法のベールがあるからなのかとか考えた。

 そう思うと魔法が解けるのが不安に思えるが、よくよく考えればそれはマスターもそうだし、ソレイユさんも同じこと、誰とだって同じことだ。


 世の中の全ての魅力は言ってみれば魔法みたいなものです。


 そんなソレイユさんの言葉を私は思い出して噛みしめた。



「よう、無事に帰ってくると思ってたよ。ブツなら用意してあるぜ。」

 再度酒場に戻るなり、酒場のマスターがソレイユさんにそう言った。

「ありがとうマスター。でも今回のお手柄は私じゃないの。」

「まさか・・・そんなガキが”荒野の捕食者”を倒しちまったって言うんじゃないだろうな。」

「ええ、そのまさかです。」

「ソレイユ!!これはガキの遊びじゃねえことくらいお前も分かっているだろう!!もしそのガキが死んでたら俺の立場はどうなると思ってるんだ!!」

「あら、彼女は私の頼れる相棒ですよ。だからこそ無事に帰って来れた。違いますか?」

「ふん!仕事を斡旋する身にもなってみろ。まったく。お嬢ちゃん、随分と危険なことに巻き込まれたな。怪我はないか?」

「ありがと、大丈夫です。」

 言うほど大丈夫では無いようにも思えたが、マスターの心遣いが嬉しかったので私は笑ってそう答えた。

「ふぅ・・・まぁ荒野の捕食者を倒せるレベルなら、ハンターとしてやっていけるだろう・・・。」

「もちろん、そうでなくては困ります。」

 いつもの笑顔でそう答えるソレイユさん。

「だが、調子に乗るなよ!!無茶の度が過ぎるようならお前に仕事は回さないからな!!」

「はい、ご安心ください。」

「ったく、お嬢ちゃん。これが今回の報酬だ。」

 目の前に半年くらいは遊んで暮らせそうな額のお金が出された。

「えっ・・・!こんなに貰えるの?」

「自分がどれだけ危険なことに手を出したか自覚したか?普通ならベテランのハンターが徒党を組んで対処する案件だ。」

「えぇ・・・。」

「まったく、何にせよお嬢ちゃんは仕事をこなしたからな。今後ハンターとして活動したいのなら協会に申請を出すと良い。一人の男として承認はしたくはないが、これも仕事だからな。幸運を・・・。」

さっきまで怒っていたマスターは厳しい顔をしつつも明らかに心配そうに私を見ていた。

「行きましょう。」

 ソレイユさんに連れられて酒場を去る私。

 去り際に振り返ると同じ表情で私を見つめるマスターが手を振った。

 私は笑顔でそれに答えた。



 王都暦1934.3.18

「ねえ?私がハンター資格を所得したら色々と面倒なんじゃないの?」

「その辺は問題ありません。ハンター協会が管理するのはハンターネームとその成果、そしてその成果に見合った仕事の斡旋ですから個人情報まで深く探ったりはしません。」

「ザックリしてるのねハンター協会って。」

「ハンターになる人間には無法者や犯罪者もいますからね。そういう人間でなければこなせない仕事もあるのですよ。」

「なるほど・・・私もその類なのかな。」


 ハンター協会の支部で手続きを済ませ、しばし待たされた後無事に私はハンター資格を所得した。

 ハンター名:シルビア

 ハンターランク:2

 

 そう書かれたドッグタグを受け取り私はハンターとなった。


「ハンターランク:2なんだ。1じゃなくて。」

「ええ、ハンターランクは5段階あって、あなたがこなした仕事はハンターランク2ですからね、飛び級です。」

「嬉しいけどちょっと怖いな・・・。」

「初々しいですね。あなたを見ていると昔の私を思い出します。」

「昔のソレイユさん?」

「ふふふっ・・・私の魔法ですよ。行きましょう。」


 全てを理解したら幻滅・・・か。


「うん、行こうソレイユさん。」


 私は新たな一歩を踏み出した。

 これは危険だけど、頑張れば誰かが幸せになる道だ。




王都暦1934.3.19


 今日もソレイユさんの車は走る。

 この日は雨だった。

 

「そろそろ何処へ向かってるか聞いちゃおうかな。」

「あら、もう気が付いていると思っていましたけど、そうではなかったのですね。」

「闇市に殺人現場にハンターが集う酒場。私を安全な場所に連れて行く気が無いのは分かっているけどね。」

「あら心外ね、生きる術を身に着ければ、荒野の旅路も安全になるじゃありませんか。」

「君子危うきに近寄らず。最初から荒野に出なければいいだけでしょ。」

「だとしたら、貴方の国は未だ健在のはずでは?」

「・・・・・・。」

「私が目指しているのはモーントハイムの反対方向です。」

「逃げてるんだ。」

「いずれモーントハイムはバザーハイムに攻め入るでしょう。バザーハイムは既に安全ではありません。」

「じゃあ何でマスターを置いてきたのさ。」

「彼はもう大人だからです。生きる術を知っています。」

「はぁ・・・魔法が解けたかも。」

「そう怒らないでください。旅のおかげであなたは戦えるようになりました。人のために頑張れる人間になれたじゃないですか。」

「でもバザーハイムは見捨てるんだよね。私はまた逃げるんだ。」

「いいえ、バザーハイムとモーントハイムが戦いになればハンターの仕事も増えます。その時にあなたは・・・。」

「一瞬だったんだよ!モーントハイム本隊の奇襲は国が滅んだ後に行われたんだ。」

「ヴィントハイムが一瞬で滅んだ。それは初耳ですね。」

「国境を越えて一人の男が侵入してきた。私に情報が入ってきてそいつを探しに行こうと城を抜け出した直後に城は跡形もなく消し飛んだ。分かるか?ヴィントハイムは一人の男に一瞬で滅ぼされたんだ。」

「非常に興味深い話ですね。」

「ソレイユさんは何か知らないの?そんな強力な魔法を使える人間世の中にそうそういるもんじゃないでしょ?」

「・・・・・・。」

 ソレイユさんはしばし考えた。

「古の時代の伝説に一人で国を崩した男の話がありましたね。数多のレギオンを従え世界を敵に回して戦った鬼神としても知られています。」

「その男はどうなったの?」

「最後には男は敗れて死んだ、或いは魔法によって封印されたと伝えられています。なににせよおとぎ話のような話です。」

「おとぎ話か・・・でも他人ごとに思えないな・・・。ねえ、その男の名前は何て言うの?」

「残念ながらそこまでは知らないです。」

「世界を敵に回してまで、何がしたかったんだろうね。」

「きっと仲良くする術が見つからなかっただけですよ。」

「そんな単純な問題なのかな?」

「世の中のあらゆる複雑な問題の原因は極めてシンプルなものですよ。」

「何を根拠に言ってるの?」

「旅人の勘です。」

「・・・仲良くする術か。」

「我々は多くの痛みを負わなければ手を繋げない悲しい生き物ですからね。」

「私とソレイユさんは友達になれたじゃない。」

 ソレイユさんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐいつもの笑顔になった。

「それはきっと魔法のおかげです。」

「また魔法か。」

「分かりました。あなたが逃げたくないと言うのなら王都バザーハイムへ行きましょう。王族の方にあなたの話が伝われば運命も変わってくるかもしれません。」

「ありがとうソレイユさん。」


 お礼を言ったものの正直不安だった。

 あの男と対峙する日もそう遠くないような気がしたからだ。





王都暦1934.3.21

 バザーハイム城にやってきた。

 ヴィントハイムと比べると静かな感じがした。

「止まれ、何者だ。」

 門番にさっそく怪しまれた。

「ここはお任せしていいですか?」

 ソレイユさんはそう言って私を押し出した。

「えぇ・・・?私はシルビア、シルビア・ヴィアヴェル・ヴィント。」

 そう言って王家の証を提示した。

「ヴィントハイム・・・しばし待たれよ。」

 そう言って門番は門の内側に入っていった。

「流石はお姫様ね、門前払いにならずに済みました。」

「正確には元お姫様なんだけどね。」

 

しばし待たされた後門が開き中から一人の執事と思しき男性が出てきた。

「シルビア姫、ご無事で何よりです。私は執事のカペルと申します。お待たせして申し訳ありませんでした。御付きの方もどうぞ中へ。」

 そう言われて門の中へと導かれる私とソレイユさん。


「あの事件からもうすぐ1年になりますか、よくぞご無事で生きながらえましたね。我々バザーハイムはヴィントハイムと同盟を結んでおりましたがモーントハイムの驚くべき早さの襲撃を目の当たりにして、慎重にならざるを得ませんでした。」


一人喋りながら回廊を歩くカペルさん。

「今となってはモーントハイムは隣国も同然。逃げ惑うヴィントの民に救いの手を差し出すことさえ叶わなかったこと、本当に申し訳ないと思っております。」


カペルはそう言いながら一室へと私たちを案内した。

中は広々としていたが座り心地の良さそうなソファーが2つ対になってテーブルを挟んでいるのがあるだけだった。


「さて、国王に話を通す前に要件を伺いましょうか?」


 私はカペルさんにあの日起きた事をできるだけ詳細に話した。

 カペルさんは終始厳しい顔をして話を聞いていた。

 ソレイユさんは相変わらず笑顔でカペルとは対照的だった。


「そうですか・・・しかしたった一人の男が城を一瞬で吹き飛ばすとは・・・。」

「信じられないですよね。でも本当なんです。」

「我々のために情報を提供していただきお心遣い痛み入ります。しかし実はあなた方にもう一つ謝らなければならないことがあるのです。」

 カペルがそう言うと突然騒々しい足音が部屋に近づいてくるのが分かった。

「国王は来ない・・・。」

 扉が勢いよく開き機動隊が突入して銃口を私たちに向けた。


「大人しく捕まってくださいシルビア姫。あなたの首を手土産に我々はモーントハイムの傘下に下ります。」





 ジリジリと距離を詰める機動隊。

「揃いも揃って情けない大人だな。」

 私は後ずさりしながら強気を装った。

「悪く思わないでください。ヴィントハイム無き今、我々が民を守る方法は他にありません。」

「そうかよ、でも女の生首手土産にするような悪趣味な連中、モーントハイムもお断りだろうな。」

「問答無用です。あなたは今ここで始末します。やれ。」

 カペルが指示を出すと、機動隊は容赦なく発砲した。

 もうダメだと思った刹那、後にいたソレイユさんが私を抱き寄せた。


 連続で響く衝撃音。

 

 私は痛みを感じなかった。

 状況が呑み込めずにいると目の前に青白い炎のベールが機動隊やカペルとの間にあった。

「翼?」


「やれやれ、危ない所でしたね。」

 よく見るとソレイユさんの背中から青白い炎を纏った翼が生えている。

 透き通る翼の向こうでロクスタをぶっ飛ばした騎士達が現れたかとおもうと、一瞬で背後の壁を切り刻んで破壊した。

「貴様・・・まさか蒼炎のソレイユか。」

 驚くカペルだったが、彼を気にもとめずにソレイユさんは私に微笑んだ。

「そろそろ帰りましょう。」


 私はソレイユさんにそう言われてただ頷くと、それを合図にしたようにソレイユさんは私を抱きしめて城の外へと飛び立った。


 空を飛ぶソレイユさん。

 しかしよく見るとソレイユさんが飛んでいるのではなく、巨大な翼の鳥が私たちを運んでいるのが分かった。

「二人で飛ぶのは少々無理がありますね。降りて車まで走りますよ。」

ソレイユさんがそう言うと鳥は降下をはじめバザーハイム城の門の外に降り立った。


「車を離れた場所に停める癖私も真似ようかな。」

「残念ですが今は話している余裕はありませんよ。行きましょう。」


 私たちは車へ走った。






王都暦1934.3.22

あれから私たちは城から逃げることに成功したものの、私たちはバザーハイムでは追われる身になってしまった。

 今は人気のない荒野を車で走っている。

「ごめんソレイユさん。やっぱり逃げていればよかった。」

「今あなたが無事に生きていられれば後悔する必要はありません。変化する世界の中では常に正解と過ちは両立するものですからね。」

「でも馬鹿だったよ私、心のどこかでバザーハイムが一緒に戦ってくれると思ってたんだ。復讐はしないって言ったのに、一矢報いる自分を思い描いてたんだ。そのせいでフナにももう会えないかもしれない。」

「大丈夫ですよ。過去は変えられなくても、未来はあなたの手で掴むことができるはずです。諦めず挑戦する限りチャンスはありますから。頑張りましょう。ね?」

「・・・まったく、ソレイユさん相手じゃ完全に子供扱いされちゃうな私。」

「あら、そんなことないですよ。私から見たらあなたも立派な大人です。」

「本当かよ。」

「人の体は年月をかければ大人になりますが、人の心は頑張らないと成長してくれませんからね。あなたはよく頑張っています。立派な大人のお姉さんです。」

「どこまで本気なんだかなぁ・・・。」

 ソレイユさんの魔法はただただ強力だ。

 そんなことを考えていた矢先にクラクションの音が聞こえた。

「あら、いつぞやの。」

「げっ、ロクスタ!」

 外にはバイクで並走するロクスタ達の姿があった。


 車を停めて窓を開けるとロクスタが歩み寄る。

「やっと見つけたぜ。シルビア姫。俺に黙って行っちまうなんて酷い友達だぜ。」

「私には私の都合ってのがあるんだよ。でもそうだね、一声かけるべきだった。ごめんね。」

「へっへっへ・・・分かればいいんだよ。」

「で?何の用。」

「シルビア姫・・・。」

「シルビアって呼んで。」

「シ、シルビア・・・その、あんたは知らねえかも知れないが俺はずっと前にハンターになってたんだよ。」

「へぇ、私もだよ。」

「ああ、酒場のマスターから聞いたよ。」

「あの、おっさん意外と口軽いな。」

「そうでもないさ。俺の素性を聞いて斡旋した仕事の都合で情報を提供してくれたんだ。」

「どうゆうこと?」

「これが俺の狙っている獲物の手配書だ。」


 私は手配書を見て顔をしかめた。

 その手配書の写真は私だった。


「ランク1の依頼でありながら報酬はランク5と同等だ。今やバザーハイムのハンター協会各拠点にこの手配書バラまかれている。」

「・・・・・・。」

「分かるなシルビア・・・もうバザーハイムにあんたの居場所はねえ。」

「ロクスタ・・・。」

「・・・・・・なんてな!!」

 急にロクスタは笑顔を装った。

「あるんだよ、まだここに!俺はバザーハイムの関所に知り合いがいる。俺達と一緒にバザーハイムを脱出しよう。」

「ロクスタ、どうして?」

「決まってるじゃねえか!友達だろ?俺たち。」

 私はそれを聞いて窓から身を乗り出しロクスタを抱きしめた。

 するとロクスタは驚愕した表情で固まった。

 それを見て配下が駆け寄る。

「ボス!!大丈夫ですか!!ボスゥゥゥゥウウウ!!!!」

 まったくもって賑やかな連中だ。



 王都暦1934.3.23

「本当に大丈夫かな・・・。」

「信じましょう。」

 私たちは関所の前でロクスタが話をつけるのを待っていた。


 しかししばし待っていると、騒々しい音が聞こえてきて、明らかに関所内で暴動を起こしていることが外にいても分かった。

「本当に大丈夫かな・・・。」

「ダメかもしれませんね。」


 そう話していると関所の大きな門が開きだした。

 同時に爆発音がしたかと思うとロクスタが走ってこちらにやってきた。

「今だ!!行け!!行けぇ!!!!」


「話が違うじゃねえかよ!!」

 ソレイユさんは思い切り車のエンジンを吹かして関所を抜けた。

 ロクスタ達も後に続く。


 周囲は警報が鳴り響き騒がしくなった。


 胸の鼓動が早くなる。

 

 気が付くと私は笑っていた。

 それを横目で見てソレイユさんも微笑んだ。


 私たちの旅は続く。


 明るい未来を掴むまで。

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