9 社長の独白
社長の口から彼の真実が告げられた。
少年の父親はパイロットだった。
事件当日そのセスナ機よ操縦していたのは父親だったのだ。
しかも少年は当時まだ1歳だった。
父親が幼き少年を乗せてフライトに出かけたのだ。
そのとき事故が起きた。
強い風に煽られたか、エンジントラブルだったかで操縦不能になり墜落。
飛行場だったので地上で発射準備をしていた旅客機に突っ込んでいくことになった。
搭乗者が次々と飛行機に乗る準備をして搭乗口で列をを作っていた。
その人の列に機体が突っ込んで行く羽目になった。
それに巻き込まれた旅客機の乗客たちが次々と負傷した。
その中に一人だけ死に至った人がいた。
セスナ機の墜落事故が起きた。死者を出してしまったわけだが──
その事故で帰らぬ人となったのは少年の父親であったのだ。
つまり、地上での負傷者は出たものの、そこからは死者は出てはいないのだ。
死者が出ていないと言っても父親の過ちで大惨事となったことは事実。
まだ幼かった彼はその事実を少年になってから知ったのだ。
だが世間の風当たりは冷たい。
当然のように父親は罪びとである、そのように報じられていた。
それならば一緒にセスナ機に同乗していた自分も同罪であると彼は強く思うようになったのだ。
少年がそう思うのも無理はない。
だって彼の父親はまだその罪を償ってはいないのだから。
では誰が償うのか。
少年には身寄りがない。少年の母親は彼を産むと同時に息を引き取っている。
大変気の毒だが出産時に母親の体力が持たなかった。
少年がこの世に生を受けたその代償に母親の命が失われてしまった。
父親は少年に大きな夢を抱いてもらおうと自分の大好きな大空を見せてやりたかったのだろう。そんな父親の笑顔も知らない。母親の笑顔も見ることもなかった。
彼はずっと孤独を抱えて生きてきた。
彼が事件のことをわざわざ口にするのは父親の罪を自分が償って、名誉の回復を果たしたい──そう思っているからなのだ。
彼自身は決して罪など犯してはいないのだ。
心に消えない傷を背負いながら、両親のことを思うと笑顔で生きることなど到底できない。
彼は犯罪者ではない。だけど家族として罪を償わずにはいられないのだ。
そんな彼を私は自分の会社に引き入れてしまったのだ。
いつかその心の傷が癒える日が必ず来ると私は約束をしてしまった。
彼の父親と私はかつて同じ航空会社で働いていた同僚だったのだ。
だから彼のことは私が生涯にわたり面倒を見ると誓ってきたのだ。